SCMパッケージソフト 開発勉強日記です。
SCM / MRP / 物流等々情報を集めていきます。
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サプライチェーンの高度化と言うと、とかく製造業に焦点が当てられることが多い。確かに、生産管理の精度を高め、ジャスト・イン・タイムをはじめとする多くの方法論を生み出してきた日本の製造業の歴史を振り返ればそれにもうなずけるものがあるが、サプライチェーン全体を見渡してみると、実は、物流管理の精度の高さも重要であることが分かる。つまり、モノの動きを支援する物流会社は、これからのSCM(Supply Chain Management)を考えるうえでキャスティングボードを握っていると言っても過言ではないのである。本稿では、今や総合物流企業に変貌を遂げつつある日本郵船の取り組みを基に、SCMにおける「情報の流れ」にあらためて注目してみたい。
変わりゆく物流会社の役割
日本郵船でCIO兼IT戦略グループ長を務める安永豊氏。氏は、「サプライチェーンの考えが顧客の間で浸透するにつれて、顧客からサプライチェーンに必要な情報を管理/発信してほしいとの要望が年を追うごとに多く寄せられるようになった。物流会社は今、顧客では把握できない物流の現場にまつわる情報を提供することで、サプライチェーンの一翼を担う存在になりつつあるのだ」と力説する。 photo by Keiji Kaneda
日本郵船という社名を聞くと、真っ先にコンテナ船などを用いた海上輸送事業が思い浮かぶ。もちろん、それは誤りではない。同社は、定期コンテナ船の世界的な共同運航組織“グランド・ワールド・アライアンス”のメンバーであり、自動車専用船の運航隻数では世界一の規模を誇る、海運業の“雄”なのだ。
しかしながら、その一方で、同社は別の顔も持っている。これも産業界ではよく知られたことだが、同社が事業の幅を「海」から「陸」や「空」へと広げ、総合物流業としての歩みを進めているのである。
さて、サプライチェーンを考えるうえで、言うまでもなく物流機能が欠かせない。「物を運ぶ」という業務が最適化されないことには、緻密な需要予測の効力も、高度な生産技術の恩恵も、少なからず色あせてしまう。つまり、物流会社は、はなからサプライチェーンの主要な構成員なのである。そのうえ、物流会社の取引先となる企業は、それぞれに扱う製品も違えばニーズも異なる。その意味では、「柔軟なサプライチェーンを築く」ことの重要性をどこよりも強く認識しているのは物流会社である、との見方さえ成り立つのだ。そして、日本のみならず世界の企業を相手に物流事業を展開している日本郵船は、情報と物とを一体として運ぶ──すなわち「情物一体」のアプローチによって、この“柔軟なサプライチェーン”を実現しようとしているのである。
同社のCIO兼IT戦略グループ長である安永豊氏は、そうしたアプローチをとるようになった背景には、物流会社に求められる役割が大きく変化しているという現実があると語る。
「かつて、我々のような物流会社に求められていたのは、『ハードの力』だった。言いかえれば、倉庫を構え、トラックや船を用意し、そこで荷物をきちんと預かるということに集中してさえいれば、ビジネスは回っていたのだ。だが、SCMの概念が登場した1990年代以降になると、それに加えて『ソフトの力』が求められるようになってきた。つまり、顧客から物に加えてサプライチェーンに必要な情報をも管理/発信してほしいとの要求が寄せられるようになってきたのだ」
現在、とりわけ大手製造業では、受注から部品調達、生産、出荷に至るまでのサプライチェーン全体を最適化しようという努力が続けられている。そうした流れの中で、物流会社にも、物の運搬を的確に行うだけでなく、情報を通じて各社のSCM戦略に直接的に寄与するという役割が求められるようになっているのだ。
物流情報を「可視化」せよ
安永氏は「ここにきて、これらの付加価値サービスを利用する企業が増えているのは、顧客の間でも物流情報の重要性に対する認識が高まっているあかしだと言えるのではないか」と語る。 photo by Keiji Kaneda
では、SCMに取り組む企業が物流会社に求める情報とは、いったいどのようなものなのであろうか。その筆頭として挙げられるのが、「何が、どこに、いくつあるか」を示すトレース情報である。この種の情報は、消費者向けの宅配業者などでも提供されているが、日本郵船のように「企業のSCM戦略を支援する」ことを目的とする場合には、提供する情報にはより高い精度が求められることになる。
そうしたニーズにこたえるべく、同社が2002年から運用を開始しているのが「物流情報ビジビリティ・システム」である。これは、端的に言えば、輸送の進捗状況を時系列で管理する機能と、物流ライン上にある積み荷の総量などを管理する機能とを併せ持つシステムで、日本郵船はこのシステムを自社で活用するだけでなく、顧客にも開放している。顧客側にしてみれば、出荷明細から出荷スケジュール、船舶スケジュール、通関状況、在庫状況、配送結果に至るまでさまざまな切り口から荷物の状況を把握することで、より高度な在庫管理を行えるうえに、生産計画や販売計画も柔軟に組めるようになるというわけだ。
一般に、物流会社によって荷受けされた荷物は、いくつかの物流プロセスを経て指定の場所へと納品される。例えば、海外工場で生産された製品が、船舶輸送によって国内へと運搬され、指定された倉庫に納品されるまでを考えてみよう。
まず、製品は現地の工場から物流会社の倉庫へとトラック輸送によって運び込まれる。次に、製品は倉庫でコンテナに収納され、そのコンテナを輸送船に荷積みするため、再度トラックで輸送される。その後、コンテナは海上輸送を経て、国内に荷揚げされた後、再度、トラックによって物流会社の倉庫に運び込まれる。そこでコンテナから取り出された製品は、指定された顧客側の倉庫へとトラックで搬入されるわけだ。もちろん、これに部品物流が加われば、プロセスはさらに複雑になる。日本郵船のシステムは、そうした一連のプロセスをリアルタイムに近いかたちで可視化することができるのである。
「とりわけ今は『在庫は悪である』という考え方が広く浸透しており、輸送中の荷物であっても在庫管理の対象にしたいというニーズは高まる一方だ。そこで我々は、輸送されている荷物の情報を一元的に顧客に提供し、顧客が自らの手でその情報をさまざまな角度から分析できるような環境づくりを目指したのだ」(安永氏)
同システムの“キモ”となるのは、個々の荷物に割り当てられるID情報である。物流プロセスの中にポイントを設け、そこに荷物が差しかかると、そのID情報を現場の作業員が読み取り、システムに反映させるという仕組みになっているのである。
傍目には単純な仕掛けに映るが、実際にこれを行おうとすると、大変な苦労を強いられる。というのも、コンテナ輸送ともなれば、1つのコンテナ内に収納されるアイテムが、場合によっては600以上にも達することがあるのだ。そのうえ、まったく同じ荷物であっても、送り手側の企業と受け手側の企業とが別のIDで管理しているようなケースも珍しくない。例えば、送り手側はインボイスの番号、受け手側は発注番号でそれぞれ検索をかけるといったケースも当然出てくる。そうした事情から、コンテナ1つをとってみても、そこにひもづく情報は膨大な量に上るのだ。それを“時間が勝負”の物流プロセスの中で的確に引き継いでいくのは容易なことではない。
安永氏も「システムについては、試行錯誤を重ねつつ手を加え続けてきた。また、それに併せて現場のオペレーションにもかなり手を加えた」と、その苦労を認める。
ちなみに同社は今、荷物の追跡をより効率よく行うために、RFID(Radio Frequency Identification)タグの実証実験に取り組んでいる。荷物の形状や材質、倉庫のレイアウトなどによって、どのようなタグとリーダを使用すればいいかなどについては工夫の必要があるとしながらも、安永氏は「現状のRFIDを使ったビジネス・モデルは、ほぼ実運用に供されるレベルにまで達している」と評価する。
顧客と“密”な関係を築く
物流情報ビジビリティ・システムの効果は、単に顧客企業の利便性向上が図れるというだけにとどまらない。何よりも大きいのが、物流プロセス全体を見渡してボトルネックを特定しやすくなったため、日本郵船側から顧客に対して物流計画の改善を積極的に提案できるようになったということである。この点について、日本郵船のシステム子会社という位置づけにあるNYKシステム総研で物流系システムグループのグループリーダーを務める綿井和樹氏は、こう語る。
「部分最適が進んだ物流プロセスでは、顧客の言うがままに、品物を運ぶしかなかった。だが、全体の物の流れが見えれば、どうすれば無駄が省けるかを顧客と一緒になって考えることができる。つまり、(物流情報ビジビリティ・システムの整備によって)SCMの上流の部分により深く携わることができるようになったわけだ」
例えば、少量ながら長期にわたって倉庫に積み残されている荷物があるとする。従来までは、注文にこたえることで精一杯の現場には、それが適切な措置かどうかといった判断を下すことは難しかった。しかしながら、顧客のサプライチェーンに対する考えを知り、モノの流れをチェーンとしてとらえることができるようになった今は、そうしたことにも的確に判断を下せるようになったという。情報の可視化によって、それだけ顧客との距離が縮まったわけである。
また、綿井氏によれば、物流プロセスの透明性を高めたことで、社員の意識にも変化が見られるようになったという。
「情報の可視化は、システムを整備すればすぐさま実現できるというようなものではない。情報の入り口である“現場”が精度の高い仕事をして初めて成り立つものなのだ。しかも、可視化を通じて『顧客のSCMを支えている』という意識がより強くなれば、社員のやる気も違ってくる。そう考えると、物流情報ビジビリティ・システムは、現場の人間を育てるためにも役立っていると言えるかもしれない」(同氏)
さらに広がる物流会社の役割
日本郵船のグループ会社、NYKシステム総研で物流系システムグループ・グループリーダーを務める綿井和樹氏は、「輸送中の荷物がどこに、いくつあるのかを容易に把握できるようになったことで、物流業務の透明性が大幅に高められた。それを機に、多くの企業で物流業務全体を通じてボトルネックを見つけ出すといった全体最適化が促されるようになったのだ」と説明する。 photo by Keiji Kaneda
日本郵船では、顧客企業との間に築いた太いパイプを生かして、グローバル戦略の強化も進めている。その代表が、世界の工場と評される中国でのビジネス展開だ。物流網が十分に整備されていない同国においては、物流会社のノウハウがきわめて重宝される。最近では、メーカーが現地に工場を新設するような場合、計画の初期段階から物流会社が携わり、製品や部品の流れを最適化するためのアドバイスを行うといったことも珍しくなくないという。
「一般に、中国では荷物の情報を収集することが困難だと言われる。だが、専門のノウハウを持つ我々が現地に拠点を構え、なおかつITインフラを整備すれば、情報収集も決して難しくない。我々も今、その強みをビジネスに役立てるべく、中国での投資を進めている最中だ」(安永氏)
同社の中国市場における物流遂行能力の高さは、米国の大手小売店との間で契約を交わしていることからも見てとれる。その契約は、物と情報だけでなく、小売店に商品を提供するサプライヤーまでをも管理の対象にしている。すなわち、小売店側からの発注に対する現地のサプライヤーの進捗状況を監視し、納期を順守させるという役割も担っているのだ。これは俗に“追い出し(オーダー・マネジメント)”と呼ばれるプロセスである。
ケイレツが重視され、サプライヤーとバイヤーとの関係が長期にわたるケースが多い日本の製造業では、これまでさほど需要のなかった“追い出し”だが、最近ではグループ外企業や海外企業から部品を調達する例が増えている。そのため、安永氏は、今後日本においても、こうしたニーズが増えることになると予測する。
「ここにきて付加価値サービスを利用する企業が増えているのは、顧客の間でも物流情報の重要性に対する認識が高まっているあかしだと言えるだろう」(安永氏)
加えて、まだ数こそ少ないものの、傘下のサプライヤーの1週間分の生産計画を基に、サプライヤーが生産する部品を顧客まで届けるための最適な物流計画の立案/実施を顧客から求められるようなケースも出始めているという。もちろん、これはサプライチェーンの一部での取り組みではあるが、「生産計画や需要予測をサプライヤーに加え物流業者とも共有することで、(顧客である製造業が)さらなる効率化を図れる可能性は十分に残されている。確かに共有する情報には企業秘密が多く、その取り扱いには十分な注意が必要になるものの、今後、そのような案件は増えこそすれ、減ることはないはずだ」と、安永氏は今後のビジネスの広がりを予感している様子だ。
さらに一段上の情報共有を
これまで述べてきたように、物流情報ビジビリティ・システムを柱とする日本郵船の“情物一体”のSCM支援は、着実に成果を上げている。ただし、SCMに取り組む企業の多くがそうであるように、同社もまた、現状に満足しているわけではない。
課題として挙げられているのは、グループ全体を通した顧客情報の一元管理と、それに基づいたさらに高レベルでの情報共有の実現だ。同社は、海上コンテナ輸送はもとより、自動車輸送、航空輸送、物流サービスなど多様なサービスを展開している。それぞれのサービスをより柔軟に組み合わせた支援を行うためには、顧客のニーズをより深く知る必要があるのだ。
「ある企業が、当社との間でどのように連携してサプライチェーンを回しているのかといった情報を、世界規模でつかむ必要があるだろう。そのためには、グループ内での情報共有をさらに強化していかなければならない」(安永氏)
また、ビジビリティ・システムによって提供する情報の“質”を高めていくという課題もある。一口に物流情報と言っても、その切り口は多種多様である。具体的には、荷物があるポイントを通過したことなどを伝えるための“イベント管理”だけでなく、ある時点で特定のイベントが発生しない場合にその事実を適切に伝える“エクセプション管理”も必要になる。さらに言えば、「どの企業の荷物がどのような状態に陥ったときに“遅延”として扱うのか」といったような、“目利き”の能力が求められる情報も提供していく必要がある。そうしたニーズにこたえていくためには、さらに高レベルの情報収集/管理能力が求められるのは間違いない。
「物を運ぶという実業務の中には、まださまざまな情報が眠っている。それらを掘り起こし、広く共有できるような仕掛けを考えていかなければならない。もちろん、CIOとしては、その情報によって他社とどのような差別化が図れるかといったことも考えなければならない。当社の、“情物一体”によるSCMの支援という取り組みは、まだ始まったばかりなのだ」(安永氏)
情報を武器に物流のビジネス範囲を拡大させるとともに、サプライチェーンの中心に物流業を据えてSCM支援の強化を図る日本郵船。“情物一体”という、そのコンセプトの向こうには、確かにSCMの新しい姿が見えるようだ。
変わりゆく物流会社の役割
日本郵船でCIO兼IT戦略グループ長を務める安永豊氏。氏は、「サプライチェーンの考えが顧客の間で浸透するにつれて、顧客からサプライチェーンに必要な情報を管理/発信してほしいとの要望が年を追うごとに多く寄せられるようになった。物流会社は今、顧客では把握できない物流の現場にまつわる情報を提供することで、サプライチェーンの一翼を担う存在になりつつあるのだ」と力説する。 photo by Keiji Kaneda
日本郵船という社名を聞くと、真っ先にコンテナ船などを用いた海上輸送事業が思い浮かぶ。もちろん、それは誤りではない。同社は、定期コンテナ船の世界的な共同運航組織“グランド・ワールド・アライアンス”のメンバーであり、自動車専用船の運航隻数では世界一の規模を誇る、海運業の“雄”なのだ。
しかしながら、その一方で、同社は別の顔も持っている。これも産業界ではよく知られたことだが、同社が事業の幅を「海」から「陸」や「空」へと広げ、総合物流業としての歩みを進めているのである。
さて、サプライチェーンを考えるうえで、言うまでもなく物流機能が欠かせない。「物を運ぶ」という業務が最適化されないことには、緻密な需要予測の効力も、高度な生産技術の恩恵も、少なからず色あせてしまう。つまり、物流会社は、はなからサプライチェーンの主要な構成員なのである。そのうえ、物流会社の取引先となる企業は、それぞれに扱う製品も違えばニーズも異なる。その意味では、「柔軟なサプライチェーンを築く」ことの重要性をどこよりも強く認識しているのは物流会社である、との見方さえ成り立つのだ。そして、日本のみならず世界の企業を相手に物流事業を展開している日本郵船は、情報と物とを一体として運ぶ──すなわち「情物一体」のアプローチによって、この“柔軟なサプライチェーン”を実現しようとしているのである。
同社のCIO兼IT戦略グループ長である安永豊氏は、そうしたアプローチをとるようになった背景には、物流会社に求められる役割が大きく変化しているという現実があると語る。
「かつて、我々のような物流会社に求められていたのは、『ハードの力』だった。言いかえれば、倉庫を構え、トラックや船を用意し、そこで荷物をきちんと預かるということに集中してさえいれば、ビジネスは回っていたのだ。だが、SCMの概念が登場した1990年代以降になると、それに加えて『ソフトの力』が求められるようになってきた。つまり、顧客から物に加えてサプライチェーンに必要な情報をも管理/発信してほしいとの要求が寄せられるようになってきたのだ」
現在、とりわけ大手製造業では、受注から部品調達、生産、出荷に至るまでのサプライチェーン全体を最適化しようという努力が続けられている。そうした流れの中で、物流会社にも、物の運搬を的確に行うだけでなく、情報を通じて各社のSCM戦略に直接的に寄与するという役割が求められるようになっているのだ。
物流情報を「可視化」せよ
安永氏は「ここにきて、これらの付加価値サービスを利用する企業が増えているのは、顧客の間でも物流情報の重要性に対する認識が高まっているあかしだと言えるのではないか」と語る。 photo by Keiji Kaneda
では、SCMに取り組む企業が物流会社に求める情報とは、いったいどのようなものなのであろうか。その筆頭として挙げられるのが、「何が、どこに、いくつあるか」を示すトレース情報である。この種の情報は、消費者向けの宅配業者などでも提供されているが、日本郵船のように「企業のSCM戦略を支援する」ことを目的とする場合には、提供する情報にはより高い精度が求められることになる。
そうしたニーズにこたえるべく、同社が2002年から運用を開始しているのが「物流情報ビジビリティ・システム」である。これは、端的に言えば、輸送の進捗状況を時系列で管理する機能と、物流ライン上にある積み荷の総量などを管理する機能とを併せ持つシステムで、日本郵船はこのシステムを自社で活用するだけでなく、顧客にも開放している。顧客側にしてみれば、出荷明細から出荷スケジュール、船舶スケジュール、通関状況、在庫状況、配送結果に至るまでさまざまな切り口から荷物の状況を把握することで、より高度な在庫管理を行えるうえに、生産計画や販売計画も柔軟に組めるようになるというわけだ。
一般に、物流会社によって荷受けされた荷物は、いくつかの物流プロセスを経て指定の場所へと納品される。例えば、海外工場で生産された製品が、船舶輸送によって国内へと運搬され、指定された倉庫に納品されるまでを考えてみよう。
まず、製品は現地の工場から物流会社の倉庫へとトラック輸送によって運び込まれる。次に、製品は倉庫でコンテナに収納され、そのコンテナを輸送船に荷積みするため、再度トラックで輸送される。その後、コンテナは海上輸送を経て、国内に荷揚げされた後、再度、トラックによって物流会社の倉庫に運び込まれる。そこでコンテナから取り出された製品は、指定された顧客側の倉庫へとトラックで搬入されるわけだ。もちろん、これに部品物流が加われば、プロセスはさらに複雑になる。日本郵船のシステムは、そうした一連のプロセスをリアルタイムに近いかたちで可視化することができるのである。
「とりわけ今は『在庫は悪である』という考え方が広く浸透しており、輸送中の荷物であっても在庫管理の対象にしたいというニーズは高まる一方だ。そこで我々は、輸送されている荷物の情報を一元的に顧客に提供し、顧客が自らの手でその情報をさまざまな角度から分析できるような環境づくりを目指したのだ」(安永氏)
同システムの“キモ”となるのは、個々の荷物に割り当てられるID情報である。物流プロセスの中にポイントを設け、そこに荷物が差しかかると、そのID情報を現場の作業員が読み取り、システムに反映させるという仕組みになっているのである。
傍目には単純な仕掛けに映るが、実際にこれを行おうとすると、大変な苦労を強いられる。というのも、コンテナ輸送ともなれば、1つのコンテナ内に収納されるアイテムが、場合によっては600以上にも達することがあるのだ。そのうえ、まったく同じ荷物であっても、送り手側の企業と受け手側の企業とが別のIDで管理しているようなケースも珍しくない。例えば、送り手側はインボイスの番号、受け手側は発注番号でそれぞれ検索をかけるといったケースも当然出てくる。そうした事情から、コンテナ1つをとってみても、そこにひもづく情報は膨大な量に上るのだ。それを“時間が勝負”の物流プロセスの中で的確に引き継いでいくのは容易なことではない。
安永氏も「システムについては、試行錯誤を重ねつつ手を加え続けてきた。また、それに併せて現場のオペレーションにもかなり手を加えた」と、その苦労を認める。
ちなみに同社は今、荷物の追跡をより効率よく行うために、RFID(Radio Frequency Identification)タグの実証実験に取り組んでいる。荷物の形状や材質、倉庫のレイアウトなどによって、どのようなタグとリーダを使用すればいいかなどについては工夫の必要があるとしながらも、安永氏は「現状のRFIDを使ったビジネス・モデルは、ほぼ実運用に供されるレベルにまで達している」と評価する。
顧客と“密”な関係を築く
物流情報ビジビリティ・システムの効果は、単に顧客企業の利便性向上が図れるというだけにとどまらない。何よりも大きいのが、物流プロセス全体を見渡してボトルネックを特定しやすくなったため、日本郵船側から顧客に対して物流計画の改善を積極的に提案できるようになったということである。この点について、日本郵船のシステム子会社という位置づけにあるNYKシステム総研で物流系システムグループのグループリーダーを務める綿井和樹氏は、こう語る。
「部分最適が進んだ物流プロセスでは、顧客の言うがままに、品物を運ぶしかなかった。だが、全体の物の流れが見えれば、どうすれば無駄が省けるかを顧客と一緒になって考えることができる。つまり、(物流情報ビジビリティ・システムの整備によって)SCMの上流の部分により深く携わることができるようになったわけだ」
例えば、少量ながら長期にわたって倉庫に積み残されている荷物があるとする。従来までは、注文にこたえることで精一杯の現場には、それが適切な措置かどうかといった判断を下すことは難しかった。しかしながら、顧客のサプライチェーンに対する考えを知り、モノの流れをチェーンとしてとらえることができるようになった今は、そうしたことにも的確に判断を下せるようになったという。情報の可視化によって、それだけ顧客との距離が縮まったわけである。
また、綿井氏によれば、物流プロセスの透明性を高めたことで、社員の意識にも変化が見られるようになったという。
「情報の可視化は、システムを整備すればすぐさま実現できるというようなものではない。情報の入り口である“現場”が精度の高い仕事をして初めて成り立つものなのだ。しかも、可視化を通じて『顧客のSCMを支えている』という意識がより強くなれば、社員のやる気も違ってくる。そう考えると、物流情報ビジビリティ・システムは、現場の人間を育てるためにも役立っていると言えるかもしれない」(同氏)
さらに広がる物流会社の役割
日本郵船のグループ会社、NYKシステム総研で物流系システムグループ・グループリーダーを務める綿井和樹氏は、「輸送中の荷物がどこに、いくつあるのかを容易に把握できるようになったことで、物流業務の透明性が大幅に高められた。それを機に、多くの企業で物流業務全体を通じてボトルネックを見つけ出すといった全体最適化が促されるようになったのだ」と説明する。 photo by Keiji Kaneda
日本郵船では、顧客企業との間に築いた太いパイプを生かして、グローバル戦略の強化も進めている。その代表が、世界の工場と評される中国でのビジネス展開だ。物流網が十分に整備されていない同国においては、物流会社のノウハウがきわめて重宝される。最近では、メーカーが現地に工場を新設するような場合、計画の初期段階から物流会社が携わり、製品や部品の流れを最適化するためのアドバイスを行うといったことも珍しくなくないという。
「一般に、中国では荷物の情報を収集することが困難だと言われる。だが、専門のノウハウを持つ我々が現地に拠点を構え、なおかつITインフラを整備すれば、情報収集も決して難しくない。我々も今、その強みをビジネスに役立てるべく、中国での投資を進めている最中だ」(安永氏)
同社の中国市場における物流遂行能力の高さは、米国の大手小売店との間で契約を交わしていることからも見てとれる。その契約は、物と情報だけでなく、小売店に商品を提供するサプライヤーまでをも管理の対象にしている。すなわち、小売店側からの発注に対する現地のサプライヤーの進捗状況を監視し、納期を順守させるという役割も担っているのだ。これは俗に“追い出し(オーダー・マネジメント)”と呼ばれるプロセスである。
ケイレツが重視され、サプライヤーとバイヤーとの関係が長期にわたるケースが多い日本の製造業では、これまでさほど需要のなかった“追い出し”だが、最近ではグループ外企業や海外企業から部品を調達する例が増えている。そのため、安永氏は、今後日本においても、こうしたニーズが増えることになると予測する。
「ここにきて付加価値サービスを利用する企業が増えているのは、顧客の間でも物流情報の重要性に対する認識が高まっているあかしだと言えるだろう」(安永氏)
加えて、まだ数こそ少ないものの、傘下のサプライヤーの1週間分の生産計画を基に、サプライヤーが生産する部品を顧客まで届けるための最適な物流計画の立案/実施を顧客から求められるようなケースも出始めているという。もちろん、これはサプライチェーンの一部での取り組みではあるが、「生産計画や需要予測をサプライヤーに加え物流業者とも共有することで、(顧客である製造業が)さらなる効率化を図れる可能性は十分に残されている。確かに共有する情報には企業秘密が多く、その取り扱いには十分な注意が必要になるものの、今後、そのような案件は増えこそすれ、減ることはないはずだ」と、安永氏は今後のビジネスの広がりを予感している様子だ。
さらに一段上の情報共有を
これまで述べてきたように、物流情報ビジビリティ・システムを柱とする日本郵船の“情物一体”のSCM支援は、着実に成果を上げている。ただし、SCMに取り組む企業の多くがそうであるように、同社もまた、現状に満足しているわけではない。
課題として挙げられているのは、グループ全体を通した顧客情報の一元管理と、それに基づいたさらに高レベルでの情報共有の実現だ。同社は、海上コンテナ輸送はもとより、自動車輸送、航空輸送、物流サービスなど多様なサービスを展開している。それぞれのサービスをより柔軟に組み合わせた支援を行うためには、顧客のニーズをより深く知る必要があるのだ。
「ある企業が、当社との間でどのように連携してサプライチェーンを回しているのかといった情報を、世界規模でつかむ必要があるだろう。そのためには、グループ内での情報共有をさらに強化していかなければならない」(安永氏)
また、ビジビリティ・システムによって提供する情報の“質”を高めていくという課題もある。一口に物流情報と言っても、その切り口は多種多様である。具体的には、荷物があるポイントを通過したことなどを伝えるための“イベント管理”だけでなく、ある時点で特定のイベントが発生しない場合にその事実を適切に伝える“エクセプション管理”も必要になる。さらに言えば、「どの企業の荷物がどのような状態に陥ったときに“遅延”として扱うのか」といったような、“目利き”の能力が求められる情報も提供していく必要がある。そうしたニーズにこたえていくためには、さらに高レベルの情報収集/管理能力が求められるのは間違いない。
「物を運ぶという実業務の中には、まださまざまな情報が眠っている。それらを掘り起こし、広く共有できるような仕掛けを考えていかなければならない。もちろん、CIOとしては、その情報によって他社とどのような差別化が図れるかといったことも考えなければならない。当社の、“情物一体”によるSCMの支援という取り組みは、まだ始まったばかりなのだ」(安永氏)
情報を武器に物流のビジネス範囲を拡大させるとともに、サプライチェーンの中心に物流業を据えてSCM支援の強化を図る日本郵船。“情物一体”という、そのコンセプトの向こうには、確かにSCMの新しい姿が見えるようだ。
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“注文達成率”の向上を目指してしのぎを削る米国企業
サプライチェーンの強化は、メーカーや流通業にとって永遠のテーマだと言える。厳しい企業間競争を勝ち抜くためには、常にサプライチェーンの強化に努める必要があるのだ。そんななか、米国では、顧客からの引き合いに応じて、指定された納期に、指定された場所へ、破損のない状態で製品を納品できる割合──すなわち注文達成率──が、サプライチェーンの評価基準として広く用いられるようになってきた。本稿では注文達成率が用いられるようになった背景を明らかにするとともに、注文達成率の向上に取り組む米国企業の取り組みから、サプライチェーンを強化するためのヒントを探りたい。
商機を逃さぬための情報共有を
クアルコムのCIO、ノーム・フェルドハイム氏は、長期的な需要予測を実施するとともに、共同で製品を製造するサプライヤーを増やすことで、生産能力に柔軟性を持たせることに成功した。 photo by Mark Robert Halper
携帯電話端末向け半導体の開発や製造、他メーカーへの技術のライセンシングなどを手がける米国クアルコム。同社でCIOを務めるノーム・フェルドハイム氏は2003年末、自社の主力商品である半導体製品の需要が当初の予測を大幅に上回りそうであることを察知した。世界各国で携帯電話がかつてないほどのペースで普及し始めたことを受けて、端末メーカー各社が少しでも多くの半導体を早期に確保しようと動き出していたのである。
フェルドハイム氏の読みどおり、その後の1年間で、携帯電話端末向け半導体の需要は、一気に37%も増加した。ところが、クアルコムは、絶好のビジネス・チャンスに遭遇しながら、指をくわえて眺めているしか術(すべ)がなかった。需要に見合うだけの増産体制を早期に築くことができなかったからである。
同社の半導体製品は最先端の技術を用いて製造されており、増産するためには、生産ラインのあらゆる部分に手を加えなければならない。そのため、同社が、ようやく目標の生産体制を整えたころには、需要のピークはとうに過ぎていたのである。
フェルドハイム氏は、当時の状況を苦々しい表情でこう振り返る。
「需要のピーク時には、生産ラインをフル回転させても製品が不足するほどだった。顧客が要求する納期にこたえられないことはもちろん、発注自体に応じられないことも少なくなかった」
空前の需要の高まりは、結果的に同社のサプライチェーンの“弱点”を白日の下にさらす結果を招いたのである。
クアルコムの経営陣は、この手痛い経験を受けて、2004年8月、サプライチェーンの抜本的な改革に乗り出すという決断を下した。そのねらいは、関係者間の情報共有を高度化し、生産計画の立案をより入念にするというところにあった。
同社はまず、サプライチェーンを回すために欠かせない生産計画ならびに需要予測の立案部署を統合し、サプライチェーン専任の部門を立ち上げた。これにより、各部門から寄せられる需要見込みデータを集約し、その情報を基に、12カ月先までの需要予測と生産計画を一元的に立案できる体制を整えたわけだ。
加えて、サプライチェーンに携わる部門同士の連携を強化するための施策も講じた。例えば同社では、現在、サプライチェーン、販売、マーケティングの各担当役員が集まり、サプライチェーン専任部署によって立案された需要予測の有効性を確認する場が週に1度設けられている。また、それとほぼ同じ顔ぶれ(財務担当の役員が加わる)をメンバーとして、12カ月先までの生産計画を見直す会議が、月に1度開かれている。同社では近い将来、18カ月分の生産計画まで作成できるようにする計画だ。
「需要の変化に柔軟に対応するためには、需要に対する長期的な見通しを立てておく必要がある。需要の急増に対応できなかったのは、それをきちんと認識できていなかったからだ。しかし、サプライチェーンを刷新したことで、今では社内のだれもが、長期的な計画立案の必要性を認識するようになった」(フェルドハイム氏)
そのうえ、生産ラインの変更が難しいという問題を解決するために、新たに同業の半導体メーカー10社と手を結び、短期的な需要増が発生した場合に共同で生産に当たるといった体制も整備されつつある。そのために、Web接続やファイル共有などによって、パートナー各社との間で情報を共有するための仕組みも用意された。
こうした一連の取り組みによって、一時は90%以下にまで落ち込んだクアルコムの注文達成率(納期までに製品を出荷できる割合)は現在、96%にまで回復している。製品の発注から納品までのリード・タイムが非常に短い半導体業界では、この数値はきわめて高いレベルにあると言える。
企業の収益を左右する“完璧な対応”率
AMRリサーチのサプライチェーン担当アナリスト、ケビン・オマラー氏によると、指定された納期に、指定された場所へ、破損のない状態で製品を納品できる、いわば“完璧な対応”が行える比率──すなわち、注文達成率──の高い企業には、総じて次のような特徴があるという。
まず第1に、それらの企業では高度なサプライチェーンが構築されていることが多いため、製品在庫コストが少なくて済むこと。第2に、在庫を抱えている期間が短いため、購入した資材を製品として販売し、その売上げを回収するまでの平均日数が短く、投資の回収にまつわるリスクが小さいこと。こうしたことから、注文達成率の高い企業は、同業他社と比較して収益率が高いというのである。
「在庫が少なければ、不良在庫を抱えるというリスクも低減できる。計算上では、“完璧な対応”の達成率が3%向上すれば利益が1%上昇し、10%向上すれば1株当たりの利益が50セント増えることになる。注文達成率は企業にとって重要な経営指針であり、それを少しでも高めるために、企業には継続的にサプライチェーンを強化していくことが求められるのだ」(オマラー氏)
注文達成率を、SCM(Supply Chain Management)の評価基準に最初に用いたのは、シリコンバレーの半導体メーカーだったとされる。この考えは1980年代から徐々に普及し始め、1990年代に入ると、食品サービス業界などにも広がった。そして今、注文達成率はSCMの評価基準の1つとして広く用いられようとしているのだ。
注文達成率を向上させるための効果的な手法の1つが、クアルコムの取り組んだ需要予測の精度向上にほかならない。需要予測によって将来の実需を把握できれば、事前に生産量を調整することで、欠品や過剰在庫の発生を防ぐことができるのである。
もっとも、いくら最新の需要予測システムを用いたとしても、将来の需要を完璧に把握することは現実的には不可能だ。しかし、その精度を高めることは決して不可能ではない。
では、どのようにすれば、需要予測の精度を高めることができるのか──。そのカギを握るのが、需要予測を立案する基となるデータである。つまり、できるだけ“今”に近い実需データを需要予測の立案に用いることによって、予測の信頼性を高めようというわけだ。ここにきて、それを実現すべく、既存のサプライチェーンに変更を加える企業が相次いでいる。
例えば、プロクター&ギャンブル(P&G)では、POSデータから各製品の販売動向をリアルタイムに把握し、その情報をサプライヤーに提供する取り組みを進めている。これにより、サプライヤーの注文達成率を高めるとともに、小売店からの引き合いに対するP&Gの注文達成率をも高めようとしているのだ。
店頭での販売データをサプライヤーと共有
P&Gのグローバル・サプライ・ネットワーク担当副社長パトリック・アーレキュー氏は、サプライヤーが製造データにアクセスするための手続きを改善し、リアルタイムで原材料をP&Gに提供できる体制の整備に努めている。 photo by Stephen Webster
従来、P&Gでは小売店からの注文を受けて、担当者が在庫の有無を確認し、小売店に対して納品日を通知する一方で、一定期間ごとに製品を追加生産するために必要となる原材料と梱包材の量を、サプライヤーに知らせていた。サプライヤー各社はP&Gからの連絡に基づいて製品の原材料を製造し、指定の期日に納品する。そして、P&Gはそれらの原材料を用いて製品を製造する──というかたちでサプライチェーンが回っていたのである。
しかし、このようなサプライチェーン・モデルでは、製品在庫がわずかしかない場合には、小売店からの大量の注文に即応することができず、小売店が求める商品をすべて納品し終えるまでに数カ月も要することがあった。この間、P&Gは他社の小売店からの発注に対応することができず、売上げ機会を失うことも少なくなかったのである。
こうした問題を解決するために、同社では、ウォルマートなどの有力小売店と共同で、POSシステムで収集される情報を活用した新たなサプライチェーン・システムを整備した。
新システムでは、レジで読み取ったPOSデータをP&Gの物流センターに転送することで、商品の販売動向をほぼリアルタイムで把握することが可能になっており、その情報がサプライチェーンの強化のためにさまざまなかたちで活用されている。例えば、物流業務では、製品の販売累計数が一定水準を超えると物流センターからその店舗に対して製品を自動的に配送する仕組みが確立されるなど、製品の自動補充が実現した。
また、P&Gはポータル・サイトを通じて、このPOSデータをサプライヤーが利用できるようにした。これにより、サプライヤーは製品の販売量に応じて原料の生産量を柔軟に調整することが可能になるわけだ。P&Gでグローバル・サプライ・ネットワーク担当副社長を務めるパトリック・アーレキュー氏は、「POSデータをサプライヤーと共有することで、サプライヤーは、より精度の高い原材料の生産計画を立案できるようになる。その結果、製品を製造するために必要な原材料を、ジャスト・イン・タイムで納品させることができるようになるわけだ。つまり、店頭での販売情報を基に、リアルタイムに補充用製品を製造できる体制が整うことになるのだ」と新システムの効用を語る。
もちろん、P&Gでは、需要予測の精度向上に向けても、POSデータを活用している。例えば、トイレタリー用品業界では、販売される商品のうちの20~30%が小売店の販売促進を目的とした特売に回されているが、これを踏まえ、現在、販促活動に携わっている販売部門やマーケティング部門のスタッフが、特売の有無といった情報をサプライチェーン部門と共有するようにすることで、特売にまつわる情報を需要予測に反映させているのである。
「需要予測を立案するにあたっては、サプライチェーン部門が単独で事を進めるのではなく販売部門やロジスティックス部門と力を合わせることが大切なのだ」(アレギュー氏)
通常、P&Gでは、各製品カテゴリーの責任者が月に最低1回は、システムが算出した需要計画を点検・検討している。新商品を相次ぎ発売している部門ではその頻度はさらに高く、例えば、定期的に新製品を市場に投入している化粧品部門では、毎週検討会議を開催している。
この取り組みの結果、P&Gの物流センターにおける製品の在庫切れ率は大きく改善され、在庫切れ率が10%以上の製品ブランドは、約20%から約7%へと大幅に減少した。そのぶん、P&Gは売上げ機会の損失を回避できているわけだ。
緊密な情報共有が改革のカギに
これまで述べてきたように、注文達成率を向上させるためには、需要予測や生産計画まで含めた情報をサプライヤーと共有できる仕組みを構築し、サプライヤーや顧客と緊密な関係を築き上げる必要がある。また、共有情報を基に、自社の需要予測や生産計画を絶えず見直し、生産量を柔軟に変更できるようにするには社内の各部署が協力して業務を進められるよう、社内の仕組みを整えるとともに、意識改革を進めなければならない。それを実践している会社の1つが、米国最大のマリーン用品小売りチェーンであるウェスト・マリーンである。
カリフォルニアに本社を置く同社は、ライバル会社のE&Bマリーンを買収したのを機に、ビジネス・プロセスの改革を目指して1996年にサプライチェーンを構築した。だが、このサプライチェーンは、物流センターに必要とされる情報がほとんど集まらないなど致命的な欠陥を抱えていた。その結果、1996年の繁忙期には、12%の商品で在庫切れが発生した。その影響で、同社の売上げは年々減少を続けたのである。
そこで、同社の役員会は1998年、サプライチェーン刷新の指揮を執らせるために、新たなCEOを迎え入れることを決断。新CEOは役員会の期待にこたえて、サプライチェーンの抜本的な改革と新たなビジネス・プロセスの構築に向けて、さまざまなIT投資を実施した。具体的には、物流センターと店舗とを直接ネットワークで結ぶとともに、物流センターと店舗の在庫補充システムを統合し、システム上でやり取りされている販売予測データを、メーカー各社とEDI(Electronic Data Interchange)で共有できるようにしたのだ。
情報をいかに活用させるか
ウェスト・マリーンの計画立案/在庫補充担当上級副社長、ラリー・スミス氏は、「販売情報や需要予測を200社のサプライヤーと共有できる環境を整えたことが、当社の経営再建につながった」と力説する。 photo by Timothy Archibald
ウェスト・マリーンの計画立案/在庫補充担当上級副社長、ラリー・スミス氏によると、同社は、メーカー各社と販売予測データを共有するようになってから、わずか数年で、製品の在庫切れをほぼなくし、経営再建を果たすことができたという。一時は存続も危ぶまれた同社が、なぜこれほど早く経営再建を果たせたのであろうか。それは、サプライチェーンがウェスト・マリーンのみならず、メーカー各社に対してもきわめて大きなメリットを提供するものであったからだ。
スタンフォード大学で教鞭を執るハウ・リー教授よると、ウェスト・マリーンが売上データの集計や販売動向の予測を行うシステムを開発し、その情報をメーカー各社と共有するための基盤を整備したことで、メーカー各社は特定の地域や季節による需要の変動を織り込んだ、精度の高い生産管理(生産計画)を実施できるようになったという。例えば、船舶用品の売上げは、ボストンでは夏場にかけて急増するが、フロリダでは年間を通じて一定している。こうした変動要因を考慮に入れて生産計画を立案すれば、メーカーは製品をより適切に製造することができるわけだ。
「ウェスト・マリーンは同社のPOSデータの読み解き方をメーカー各社に公開している。このことが、メーカーが指定された期日までに納品できる割合を高めているのだ」(リー氏)
在庫達成率の向上は、ウェスト・マリーンに在庫の適正化という効果をもたらすと同時に、メーカーにも販売機会損失の低減、すなわち売上げの増加という効果をもたらす。このようなメリットが見込めたことから、メーカー各社はウェスト・マリーンから提供される情報の活用に積極的に取り組んだのである。
現在同社は、200社のメーカーと取り引きを行っているが、その取引先の半数以上で、同社の販売予測データがシステムなどに取り込まれ、生産管理に役立てられている。その結果、ウェスト・マリーンからの発注に対するメーカーの注文達成率は大幅に向上し、5年前には平均でわずか30~40%だったが、今では80%に達するほどだ。
また、同社は390にも上る店舗のPOSデータを閉店後に毎日集計し、そのデータを在庫管理システムに入力して在庫管理に役立てている。さらに、毎週月曜日にはそのデータを基にして作成した翌週の販売予測を全店舗に電子メールで送信している一方で、取り引きのあるすべてのメーカーにウェスト・マリーンの在庫情報を送信している。そのほか、1年を通じて収集した売上データを基に、年間の販売予測と注文予測を行い、それらのデータをメーカーに提供するといったことも行っている。そうしたことに加えて、予測の精度を四半期ごとに検証することで、需要予測の精度向上にも余念がないのだ。
サプライチェーンの高度化に潜むリスク
さて、これまではサプライチェーンの高度化に積極的に取り組んでいる企業の動きを見てきたが、言うまでもなく理想とされる“サプライチェーン像”は企業によって異なる。そのため、競争がますます激化する中で、企業には自社が事業を展開する業界や、製品特性などさまざまな面を考慮してサプライチェーンの強化に取り組むことが求められるが、AMRリサーチのオマラー氏によれば、サプライチェーンの強化にとどまらず“再構築”に踏み切る際には、いくつか注意すべき点があるという。
まず、サプライチェーンを再構築するにあたっては、ROIの観点から、改善すべき業務を絞り込んだうえで実行に移す必要がある。というのも、サプライチェーンに含まれる業務は幅広く、場合によっては重要度がそれほど高くない業務にまで投資対象が広がってしまう可能性もあるからだ。
また、サプライチェーンの改善活動によって、サプライチェーン・コストが増大する危険性を常に念頭に置いておかなければならない。特に、商品をより速く配送することが求められる企業では、すでに高度なサプライチェーンの仕組みやシステムが整備されている。そのような環境においてさらにサプライチェーンを改善するとなれば、より最先端のテクノロジーを用いることになり、それが結果的にITコストを押し上げてしまうおそれがあるのだ。
こうしたリスクを低減させるためには、自社のサプライチェーン・コストを同業他社と比較しつつ、サプライチェーン・コストと注文達成率を天秤にかけてみるとよいと、オマラー氏は指摘する。
「自動車部品を製造している企業であれば、自動車の組み立てラインを止めないために、非常に高い注文達成率をクリアできる仕組みを整えておく必要があろう。一方、低コストで保存可能な梱包材などの消耗品を製造している企業の場合は、サプライチェーンにはそれほどこだわらなくていい」
さらに、サプライチェーンの再構築は本質的には業務プロセスの再構築であり、ITはあくまでツールであることも忘れてはならない。
「一般的に、サプライチェーンを整備する際に必要な作業の75%は、そのための新たな業務プロセスの構築と、企業間/部門間の調整作業に充てられている。その際のCIOの使命は、サプライチェーンに参加する企業や部署のすべてがメリットを享受できる仕組みを作り上げ、利用を促進させることにある」(オマラー氏)
サプライチェーンの強化は、メーカーや流通業にとって永遠のテーマだと言える。厳しい企業間競争を勝ち抜くためには、常にサプライチェーンの強化に努める必要があるのだ。そんななか、米国では、顧客からの引き合いに応じて、指定された納期に、指定された場所へ、破損のない状態で製品を納品できる割合──すなわち注文達成率──が、サプライチェーンの評価基準として広く用いられるようになってきた。本稿では注文達成率が用いられるようになった背景を明らかにするとともに、注文達成率の向上に取り組む米国企業の取り組みから、サプライチェーンを強化するためのヒントを探りたい。
商機を逃さぬための情報共有を
クアルコムのCIO、ノーム・フェルドハイム氏は、長期的な需要予測を実施するとともに、共同で製品を製造するサプライヤーを増やすことで、生産能力に柔軟性を持たせることに成功した。 photo by Mark Robert Halper
携帯電話端末向け半導体の開発や製造、他メーカーへの技術のライセンシングなどを手がける米国クアルコム。同社でCIOを務めるノーム・フェルドハイム氏は2003年末、自社の主力商品である半導体製品の需要が当初の予測を大幅に上回りそうであることを察知した。世界各国で携帯電話がかつてないほどのペースで普及し始めたことを受けて、端末メーカー各社が少しでも多くの半導体を早期に確保しようと動き出していたのである。
フェルドハイム氏の読みどおり、その後の1年間で、携帯電話端末向け半導体の需要は、一気に37%も増加した。ところが、クアルコムは、絶好のビジネス・チャンスに遭遇しながら、指をくわえて眺めているしか術(すべ)がなかった。需要に見合うだけの増産体制を早期に築くことができなかったからである。
同社の半導体製品は最先端の技術を用いて製造されており、増産するためには、生産ラインのあらゆる部分に手を加えなければならない。そのため、同社が、ようやく目標の生産体制を整えたころには、需要のピークはとうに過ぎていたのである。
フェルドハイム氏は、当時の状況を苦々しい表情でこう振り返る。
「需要のピーク時には、生産ラインをフル回転させても製品が不足するほどだった。顧客が要求する納期にこたえられないことはもちろん、発注自体に応じられないことも少なくなかった」
空前の需要の高まりは、結果的に同社のサプライチェーンの“弱点”を白日の下にさらす結果を招いたのである。
クアルコムの経営陣は、この手痛い経験を受けて、2004年8月、サプライチェーンの抜本的な改革に乗り出すという決断を下した。そのねらいは、関係者間の情報共有を高度化し、生産計画の立案をより入念にするというところにあった。
同社はまず、サプライチェーンを回すために欠かせない生産計画ならびに需要予測の立案部署を統合し、サプライチェーン専任の部門を立ち上げた。これにより、各部門から寄せられる需要見込みデータを集約し、その情報を基に、12カ月先までの需要予測と生産計画を一元的に立案できる体制を整えたわけだ。
加えて、サプライチェーンに携わる部門同士の連携を強化するための施策も講じた。例えば同社では、現在、サプライチェーン、販売、マーケティングの各担当役員が集まり、サプライチェーン専任部署によって立案された需要予測の有効性を確認する場が週に1度設けられている。また、それとほぼ同じ顔ぶれ(財務担当の役員が加わる)をメンバーとして、12カ月先までの生産計画を見直す会議が、月に1度開かれている。同社では近い将来、18カ月分の生産計画まで作成できるようにする計画だ。
「需要の変化に柔軟に対応するためには、需要に対する長期的な見通しを立てておく必要がある。需要の急増に対応できなかったのは、それをきちんと認識できていなかったからだ。しかし、サプライチェーンを刷新したことで、今では社内のだれもが、長期的な計画立案の必要性を認識するようになった」(フェルドハイム氏)
そのうえ、生産ラインの変更が難しいという問題を解決するために、新たに同業の半導体メーカー10社と手を結び、短期的な需要増が発生した場合に共同で生産に当たるといった体制も整備されつつある。そのために、Web接続やファイル共有などによって、パートナー各社との間で情報を共有するための仕組みも用意された。
こうした一連の取り組みによって、一時は90%以下にまで落ち込んだクアルコムの注文達成率(納期までに製品を出荷できる割合)は現在、96%にまで回復している。製品の発注から納品までのリード・タイムが非常に短い半導体業界では、この数値はきわめて高いレベルにあると言える。
企業の収益を左右する“完璧な対応”率
AMRリサーチのサプライチェーン担当アナリスト、ケビン・オマラー氏によると、指定された納期に、指定された場所へ、破損のない状態で製品を納品できる、いわば“完璧な対応”が行える比率──すなわち、注文達成率──の高い企業には、総じて次のような特徴があるという。
まず第1に、それらの企業では高度なサプライチェーンが構築されていることが多いため、製品在庫コストが少なくて済むこと。第2に、在庫を抱えている期間が短いため、購入した資材を製品として販売し、その売上げを回収するまでの平均日数が短く、投資の回収にまつわるリスクが小さいこと。こうしたことから、注文達成率の高い企業は、同業他社と比較して収益率が高いというのである。
「在庫が少なければ、不良在庫を抱えるというリスクも低減できる。計算上では、“完璧な対応”の達成率が3%向上すれば利益が1%上昇し、10%向上すれば1株当たりの利益が50セント増えることになる。注文達成率は企業にとって重要な経営指針であり、それを少しでも高めるために、企業には継続的にサプライチェーンを強化していくことが求められるのだ」(オマラー氏)
注文達成率を、SCM(Supply Chain Management)の評価基準に最初に用いたのは、シリコンバレーの半導体メーカーだったとされる。この考えは1980年代から徐々に普及し始め、1990年代に入ると、食品サービス業界などにも広がった。そして今、注文達成率はSCMの評価基準の1つとして広く用いられようとしているのだ。
注文達成率を向上させるための効果的な手法の1つが、クアルコムの取り組んだ需要予測の精度向上にほかならない。需要予測によって将来の実需を把握できれば、事前に生産量を調整することで、欠品や過剰在庫の発生を防ぐことができるのである。
もっとも、いくら最新の需要予測システムを用いたとしても、将来の需要を完璧に把握することは現実的には不可能だ。しかし、その精度を高めることは決して不可能ではない。
では、どのようにすれば、需要予測の精度を高めることができるのか──。そのカギを握るのが、需要予測を立案する基となるデータである。つまり、できるだけ“今”に近い実需データを需要予測の立案に用いることによって、予測の信頼性を高めようというわけだ。ここにきて、それを実現すべく、既存のサプライチェーンに変更を加える企業が相次いでいる。
例えば、プロクター&ギャンブル(P&G)では、POSデータから各製品の販売動向をリアルタイムに把握し、その情報をサプライヤーに提供する取り組みを進めている。これにより、サプライヤーの注文達成率を高めるとともに、小売店からの引き合いに対するP&Gの注文達成率をも高めようとしているのだ。
店頭での販売データをサプライヤーと共有
P&Gのグローバル・サプライ・ネットワーク担当副社長パトリック・アーレキュー氏は、サプライヤーが製造データにアクセスするための手続きを改善し、リアルタイムで原材料をP&Gに提供できる体制の整備に努めている。 photo by Stephen Webster
従来、P&Gでは小売店からの注文を受けて、担当者が在庫の有無を確認し、小売店に対して納品日を通知する一方で、一定期間ごとに製品を追加生産するために必要となる原材料と梱包材の量を、サプライヤーに知らせていた。サプライヤー各社はP&Gからの連絡に基づいて製品の原材料を製造し、指定の期日に納品する。そして、P&Gはそれらの原材料を用いて製品を製造する──というかたちでサプライチェーンが回っていたのである。
しかし、このようなサプライチェーン・モデルでは、製品在庫がわずかしかない場合には、小売店からの大量の注文に即応することができず、小売店が求める商品をすべて納品し終えるまでに数カ月も要することがあった。この間、P&Gは他社の小売店からの発注に対応することができず、売上げ機会を失うことも少なくなかったのである。
こうした問題を解決するために、同社では、ウォルマートなどの有力小売店と共同で、POSシステムで収集される情報を活用した新たなサプライチェーン・システムを整備した。
新システムでは、レジで読み取ったPOSデータをP&Gの物流センターに転送することで、商品の販売動向をほぼリアルタイムで把握することが可能になっており、その情報がサプライチェーンの強化のためにさまざまなかたちで活用されている。例えば、物流業務では、製品の販売累計数が一定水準を超えると物流センターからその店舗に対して製品を自動的に配送する仕組みが確立されるなど、製品の自動補充が実現した。
また、P&Gはポータル・サイトを通じて、このPOSデータをサプライヤーが利用できるようにした。これにより、サプライヤーは製品の販売量に応じて原料の生産量を柔軟に調整することが可能になるわけだ。P&Gでグローバル・サプライ・ネットワーク担当副社長を務めるパトリック・アーレキュー氏は、「POSデータをサプライヤーと共有することで、サプライヤーは、より精度の高い原材料の生産計画を立案できるようになる。その結果、製品を製造するために必要な原材料を、ジャスト・イン・タイムで納品させることができるようになるわけだ。つまり、店頭での販売情報を基に、リアルタイムに補充用製品を製造できる体制が整うことになるのだ」と新システムの効用を語る。
もちろん、P&Gでは、需要予測の精度向上に向けても、POSデータを活用している。例えば、トイレタリー用品業界では、販売される商品のうちの20~30%が小売店の販売促進を目的とした特売に回されているが、これを踏まえ、現在、販促活動に携わっている販売部門やマーケティング部門のスタッフが、特売の有無といった情報をサプライチェーン部門と共有するようにすることで、特売にまつわる情報を需要予測に反映させているのである。
「需要予測を立案するにあたっては、サプライチェーン部門が単独で事を進めるのではなく販売部門やロジスティックス部門と力を合わせることが大切なのだ」(アレギュー氏)
通常、P&Gでは、各製品カテゴリーの責任者が月に最低1回は、システムが算出した需要計画を点検・検討している。新商品を相次ぎ発売している部門ではその頻度はさらに高く、例えば、定期的に新製品を市場に投入している化粧品部門では、毎週検討会議を開催している。
この取り組みの結果、P&Gの物流センターにおける製品の在庫切れ率は大きく改善され、在庫切れ率が10%以上の製品ブランドは、約20%から約7%へと大幅に減少した。そのぶん、P&Gは売上げ機会の損失を回避できているわけだ。
緊密な情報共有が改革のカギに
これまで述べてきたように、注文達成率を向上させるためには、需要予測や生産計画まで含めた情報をサプライヤーと共有できる仕組みを構築し、サプライヤーや顧客と緊密な関係を築き上げる必要がある。また、共有情報を基に、自社の需要予測や生産計画を絶えず見直し、生産量を柔軟に変更できるようにするには社内の各部署が協力して業務を進められるよう、社内の仕組みを整えるとともに、意識改革を進めなければならない。それを実践している会社の1つが、米国最大のマリーン用品小売りチェーンであるウェスト・マリーンである。
カリフォルニアに本社を置く同社は、ライバル会社のE&Bマリーンを買収したのを機に、ビジネス・プロセスの改革を目指して1996年にサプライチェーンを構築した。だが、このサプライチェーンは、物流センターに必要とされる情報がほとんど集まらないなど致命的な欠陥を抱えていた。その結果、1996年の繁忙期には、12%の商品で在庫切れが発生した。その影響で、同社の売上げは年々減少を続けたのである。
そこで、同社の役員会は1998年、サプライチェーン刷新の指揮を執らせるために、新たなCEOを迎え入れることを決断。新CEOは役員会の期待にこたえて、サプライチェーンの抜本的な改革と新たなビジネス・プロセスの構築に向けて、さまざまなIT投資を実施した。具体的には、物流センターと店舗とを直接ネットワークで結ぶとともに、物流センターと店舗の在庫補充システムを統合し、システム上でやり取りされている販売予測データを、メーカー各社とEDI(Electronic Data Interchange)で共有できるようにしたのだ。
情報をいかに活用させるか
ウェスト・マリーンの計画立案/在庫補充担当上級副社長、ラリー・スミス氏は、「販売情報や需要予測を200社のサプライヤーと共有できる環境を整えたことが、当社の経営再建につながった」と力説する。 photo by Timothy Archibald
ウェスト・マリーンの計画立案/在庫補充担当上級副社長、ラリー・スミス氏によると、同社は、メーカー各社と販売予測データを共有するようになってから、わずか数年で、製品の在庫切れをほぼなくし、経営再建を果たすことができたという。一時は存続も危ぶまれた同社が、なぜこれほど早く経営再建を果たせたのであろうか。それは、サプライチェーンがウェスト・マリーンのみならず、メーカー各社に対してもきわめて大きなメリットを提供するものであったからだ。
スタンフォード大学で教鞭を執るハウ・リー教授よると、ウェスト・マリーンが売上データの集計や販売動向の予測を行うシステムを開発し、その情報をメーカー各社と共有するための基盤を整備したことで、メーカー各社は特定の地域や季節による需要の変動を織り込んだ、精度の高い生産管理(生産計画)を実施できるようになったという。例えば、船舶用品の売上げは、ボストンでは夏場にかけて急増するが、フロリダでは年間を通じて一定している。こうした変動要因を考慮に入れて生産計画を立案すれば、メーカーは製品をより適切に製造することができるわけだ。
「ウェスト・マリーンは同社のPOSデータの読み解き方をメーカー各社に公開している。このことが、メーカーが指定された期日までに納品できる割合を高めているのだ」(リー氏)
在庫達成率の向上は、ウェスト・マリーンに在庫の適正化という効果をもたらすと同時に、メーカーにも販売機会損失の低減、すなわち売上げの増加という効果をもたらす。このようなメリットが見込めたことから、メーカー各社はウェスト・マリーンから提供される情報の活用に積極的に取り組んだのである。
現在同社は、200社のメーカーと取り引きを行っているが、その取引先の半数以上で、同社の販売予測データがシステムなどに取り込まれ、生産管理に役立てられている。その結果、ウェスト・マリーンからの発注に対するメーカーの注文達成率は大幅に向上し、5年前には平均でわずか30~40%だったが、今では80%に達するほどだ。
また、同社は390にも上る店舗のPOSデータを閉店後に毎日集計し、そのデータを在庫管理システムに入力して在庫管理に役立てている。さらに、毎週月曜日にはそのデータを基にして作成した翌週の販売予測を全店舗に電子メールで送信している一方で、取り引きのあるすべてのメーカーにウェスト・マリーンの在庫情報を送信している。そのほか、1年を通じて収集した売上データを基に、年間の販売予測と注文予測を行い、それらのデータをメーカーに提供するといったことも行っている。そうしたことに加えて、予測の精度を四半期ごとに検証することで、需要予測の精度向上にも余念がないのだ。
サプライチェーンの高度化に潜むリスク
さて、これまではサプライチェーンの高度化に積極的に取り組んでいる企業の動きを見てきたが、言うまでもなく理想とされる“サプライチェーン像”は企業によって異なる。そのため、競争がますます激化する中で、企業には自社が事業を展開する業界や、製品特性などさまざまな面を考慮してサプライチェーンの強化に取り組むことが求められるが、AMRリサーチのオマラー氏によれば、サプライチェーンの強化にとどまらず“再構築”に踏み切る際には、いくつか注意すべき点があるという。
まず、サプライチェーンを再構築するにあたっては、ROIの観点から、改善すべき業務を絞り込んだうえで実行に移す必要がある。というのも、サプライチェーンに含まれる業務は幅広く、場合によっては重要度がそれほど高くない業務にまで投資対象が広がってしまう可能性もあるからだ。
また、サプライチェーンの改善活動によって、サプライチェーン・コストが増大する危険性を常に念頭に置いておかなければならない。特に、商品をより速く配送することが求められる企業では、すでに高度なサプライチェーンの仕組みやシステムが整備されている。そのような環境においてさらにサプライチェーンを改善するとなれば、より最先端のテクノロジーを用いることになり、それが結果的にITコストを押し上げてしまうおそれがあるのだ。
こうしたリスクを低減させるためには、自社のサプライチェーン・コストを同業他社と比較しつつ、サプライチェーン・コストと注文達成率を天秤にかけてみるとよいと、オマラー氏は指摘する。
「自動車部品を製造している企業であれば、自動車の組み立てラインを止めないために、非常に高い注文達成率をクリアできる仕組みを整えておく必要があろう。一方、低コストで保存可能な梱包材などの消耗品を製造している企業の場合は、サプライチェーンにはそれほどこだわらなくていい」
さらに、サプライチェーンの再構築は本質的には業務プロセスの再構築であり、ITはあくまでツールであることも忘れてはならない。
「一般的に、サプライチェーンを整備する際に必要な作業の75%は、そのための新たな業務プロセスの構築と、企業間/部門間の調整作業に充てられている。その際のCIOの使命は、サプライチェーンに参加する企業や部署のすべてがメリットを享受できる仕組みを作り上げ、利用を促進させることにある」(オマラー氏)
分散化した企業の、国境を越えたナレッジ・シェアリング
NASAの宇宙服を設計しているエンジニアが、エレベーター・メーカーのエンジニアから学べることがあるとしたら、それは何だろうか。
「いくらでもある」と、ジーン・メイヒュー氏は言う。問題は、その2人がどうやって知り合い、会話を始めるかだけというのだ。ユナイテッド・テクノロジーズ・コープ(UTC)の研究開発部門、ユナイテッド・テクノロジーズ・リサーチ・センター(UTRC)でナレッジ・マネジメントのディレクターを務めるメイヒュー氏は、世界各地に分散している巨大組織でどうすれば一元的に知識を共有し合えるか、日夜頭を悩ませている。従業員数14万2,000人、世界各地に主な事業部だけでも5カ所を数える大企業にとって、これは途方もない仕事であることは彼女自身認めるところだ。だが、知識を共有できればどれだけの可能性が開けるかを考えれば、やる価値は十分にある。
メイヒュー氏とUTRCのナレッジ・マネジメント・グループは、情報のさらなる有効利用を目指すというUTCの目標に応えるため、1998年11月、ナレッジ・シェアリング・イニシアチブをスタートさせた。「ナレッジ・マネジメントとは、情報を企業にとって価値ある姿に作り変えるプロセスだ。そして価値とは、コスト削減、従業員の生産性向上、製品/サービスの品質改善であると定義できる」と、メイヒュー氏はナレッジ・マネジメントを規定する。UTCがますますグローバルな成長を遂げ、吸収・合併によって新会社が生まれていく中、UTRCはナレッジ・マネジメントを情報の共有とブレーンストーミングを通して上記の価値を高めるための手段ととらえるようになった。
エンジニアを対象に数万人規模でナレッジ・シェアリング
「ナレッジ・マネジメントとは、情報を企業にとって価値ある姿に作り変えるプロセスだ」と語るジーン・メイヒュー氏(ユナイテッド・テクノロジーズ、ナレッジ・マネジメント担当ディレクター)
一般的に、ナレッジ・マネジメント・プロジェクトの歴史はまだ浅い。UTCの場合も、1年ほどかけて目標を絞り、最近やっと導入に向けて動き出したばかりだ。メイヒュー氏は当初から、まずは基礎固めに専念し、徐々にシステムを構築していこうと決めていた。「最初に着手したのは、すでにUTCの社内で進められていたたくさんのプロジェクトから、ナレッジ・マネジメントの目標とマッチしそうな分野を探すことだった」とメイヒュー氏は語る。そこで、同グループは予備調査の結果をもとに、当面の対象をエンジニアリング分野(エンジニア)に絞ることにした。UTCのエンジニアは、ビジネス・ユニット間で知識を共有(移転)するために、1970年代にすでにユナイテッド・テクノロジー・エンジニアリング・コーディネーション・アクティビティーズ(UTECA)という、担当分野にとらわれない草の根組織を結成していた。
UTECAは、人工知能やエンジニアリングなど18の分野ですでにそれなりの成果を挙げており、電子メールや実際の会話を介してお互いの情報を非公式にやり取りしていた。また、世界各国から1,500人のエンジニアが集まって、専門的な議題を話し合う年次会議も開催している。とはいえ、UTCの総従業員数と比較すれば、1,500人というのは微々たる人数に過ぎない。しかも、メイヒュー氏が目指すナレッジ・シェアリングは「1,000人単位でなく数万人単位」なのである。こうした状況を踏まえたうえで、彼女は、UTECAのテクノロジー・ディスカッション・プログラムをナレッジ・マネジメント・プロジェクトの第1ステップとして正式に立ち上げることを目指している(UTCにおいては、テクノロジーとは情報システムのことではなく、製品に採用する工学技術のことを指す)。
「これまでのように、単に人が寄り集まって、何のテクノロジーを開発しているかを語り合うだけでは不十分だ。別のビジネス・ユニットと知識を共有するときは、ベスト・プラクティスをどうやって実行に移しているか、ある程度説得力をもって語れることも大事だ。そのためには、構造化してきちんと説明できなければならない」と、メイヒュー氏はUTECAをナレッジ・マネジメント・プロジェクトへと展開していくに際しての課題を指摘する。
取締役と中間管理職を巻き込んで
そうした構造を作り上げるため、メイヒュー氏のグループは、UTCのテクノロジー担当上級副社長(つまり社内きってのエンジニア)、ジョン・キャシディ氏とともに、UTECAのナレッジ・シェアリング・プログラムを拡張して正式な手順にする作業に取り組んでいる。このグループは、全組織にわたってコミュニティを構築する方法を調査した結果、取締役と中間管理職の協力を取り付けることが不可欠だと結論づけた。そうすることで、組織内でもっと知識を身に付けたいという機運が高まり、プロジェクトに対する幅広い支持も得られるというのである。
そもそも、専門家を最もよく知っているのは中間管理職である。「中間管理職と専門職とは接点も多く、ビジネス・プランに基づいてどの分野を学べばいいかといったことも、よく把握している」とメイヒュー氏。
一方、UTCの各事業部を管轄している上級副社長は、事業部としてのナレッジ・マネジメント・プロジェクトへの協力(知識の貢献)を、それぞれの事業部のテクノロジー担当副社長に要請した。その結果プロジェクトにかかわることになった8人の副社長は、製品と顧客の双方にとって重要なコア・テクノロジーについて分析し、適切な専門家の選定に当たった。また、彼らはUTECAのメンバーと会合し、UTECAおよび他のビジネス・ユニットの中から有能なスタッフをピックアップしたうえで、1999年12月、メイヒュー、キャシディ両氏との会合の場で、さまざまなトピックや専門家について両氏に勧告した。現在、彼らはトピックの最終調整、ならびにターゲットとなる専門家の採用に尽力している。
誰に何のナレッジ・シェアリングを担当させるかは副社長によって決められるものの、それをどのようにして進めるかは、メイヒュー氏のグループにゆだねられている。そして、すでに同グル-プは、「クラスはもう作ったし、これまで身に付けた標準的なベスト・プラクティスや教訓もすべてリストした」(メイヒュ -氏)と、基礎的な準備を終えた。
ただ、メイヒュー氏は、情報テクノロジーがUTECAのナレッジ・シェアリング・プログラムにおいてどのような役割を果たすのか、まだ確信を持てないでいる。「まずは、多くのITアプリケーションが、これまで期待されたほどの成功を収められなかった理由を知ることが大切だ」
同氏は、システムに対する発想を逆転させることで、それに対処したいとする。「アプリケーションを開発する際、まずアプリケーションを作って、あとはユーザーに使いこなすよう求めるというのが一般的だろう。だが、人々がふだんどんなふうに情報を共有しているのかを観察したうえで、その流れをサポートするシステムを構築すれば、もっと円滑にいくのではないかと思う」
メイヒュー氏は、ナレッジ・マネジメント・プログラムはUTRCにとってぜひとも達成すべき目標だと考えている。プロジェクト・リーダーを務める彼女は、最後にこう語ってくれた。
「有能な人たちが協力し合って、従業員がもっと幅広い知識を得られるようなカリキュラムを早急に作ることが必要だ」
NASAの宇宙服を設計しているエンジニアが、エレベーター・メーカーのエンジニアから学べることがあるとしたら、それは何だろうか。
「いくらでもある」と、ジーン・メイヒュー氏は言う。問題は、その2人がどうやって知り合い、会話を始めるかだけというのだ。ユナイテッド・テクノロジーズ・コープ(UTC)の研究開発部門、ユナイテッド・テクノロジーズ・リサーチ・センター(UTRC)でナレッジ・マネジメントのディレクターを務めるメイヒュー氏は、世界各地に分散している巨大組織でどうすれば一元的に知識を共有し合えるか、日夜頭を悩ませている。従業員数14万2,000人、世界各地に主な事業部だけでも5カ所を数える大企業にとって、これは途方もない仕事であることは彼女自身認めるところだ。だが、知識を共有できればどれだけの可能性が開けるかを考えれば、やる価値は十分にある。
メイヒュー氏とUTRCのナレッジ・マネジメント・グループは、情報のさらなる有効利用を目指すというUTCの目標に応えるため、1998年11月、ナレッジ・シェアリング・イニシアチブをスタートさせた。「ナレッジ・マネジメントとは、情報を企業にとって価値ある姿に作り変えるプロセスだ。そして価値とは、コスト削減、従業員の生産性向上、製品/サービスの品質改善であると定義できる」と、メイヒュー氏はナレッジ・マネジメントを規定する。UTCがますますグローバルな成長を遂げ、吸収・合併によって新会社が生まれていく中、UTRCはナレッジ・マネジメントを情報の共有とブレーンストーミングを通して上記の価値を高めるための手段ととらえるようになった。
エンジニアを対象に数万人規模でナレッジ・シェアリング
「ナレッジ・マネジメントとは、情報を企業にとって価値ある姿に作り変えるプロセスだ」と語るジーン・メイヒュー氏(ユナイテッド・テクノロジーズ、ナレッジ・マネジメント担当ディレクター)
一般的に、ナレッジ・マネジメント・プロジェクトの歴史はまだ浅い。UTCの場合も、1年ほどかけて目標を絞り、最近やっと導入に向けて動き出したばかりだ。メイヒュー氏は当初から、まずは基礎固めに専念し、徐々にシステムを構築していこうと決めていた。「最初に着手したのは、すでにUTCの社内で進められていたたくさんのプロジェクトから、ナレッジ・マネジメントの目標とマッチしそうな分野を探すことだった」とメイヒュー氏は語る。そこで、同グループは予備調査の結果をもとに、当面の対象をエンジニアリング分野(エンジニア)に絞ることにした。UTCのエンジニアは、ビジネス・ユニット間で知識を共有(移転)するために、1970年代にすでにユナイテッド・テクノロジー・エンジニアリング・コーディネーション・アクティビティーズ(UTECA)という、担当分野にとらわれない草の根組織を結成していた。
UTECAは、人工知能やエンジニアリングなど18の分野ですでにそれなりの成果を挙げており、電子メールや実際の会話を介してお互いの情報を非公式にやり取りしていた。また、世界各国から1,500人のエンジニアが集まって、専門的な議題を話し合う年次会議も開催している。とはいえ、UTCの総従業員数と比較すれば、1,500人というのは微々たる人数に過ぎない。しかも、メイヒュー氏が目指すナレッジ・シェアリングは「1,000人単位でなく数万人単位」なのである。こうした状況を踏まえたうえで、彼女は、UTECAのテクノロジー・ディスカッション・プログラムをナレッジ・マネジメント・プロジェクトの第1ステップとして正式に立ち上げることを目指している(UTCにおいては、テクノロジーとは情報システムのことではなく、製品に採用する工学技術のことを指す)。
「これまでのように、単に人が寄り集まって、何のテクノロジーを開発しているかを語り合うだけでは不十分だ。別のビジネス・ユニットと知識を共有するときは、ベスト・プラクティスをどうやって実行に移しているか、ある程度説得力をもって語れることも大事だ。そのためには、構造化してきちんと説明できなければならない」と、メイヒュー氏はUTECAをナレッジ・マネジメント・プロジェクトへと展開していくに際しての課題を指摘する。
取締役と中間管理職を巻き込んで
そうした構造を作り上げるため、メイヒュー氏のグループは、UTCのテクノロジー担当上級副社長(つまり社内きってのエンジニア)、ジョン・キャシディ氏とともに、UTECAのナレッジ・シェアリング・プログラムを拡張して正式な手順にする作業に取り組んでいる。このグループは、全組織にわたってコミュニティを構築する方法を調査した結果、取締役と中間管理職の協力を取り付けることが不可欠だと結論づけた。そうすることで、組織内でもっと知識を身に付けたいという機運が高まり、プロジェクトに対する幅広い支持も得られるというのである。
そもそも、専門家を最もよく知っているのは中間管理職である。「中間管理職と専門職とは接点も多く、ビジネス・プランに基づいてどの分野を学べばいいかといったことも、よく把握している」とメイヒュー氏。
一方、UTCの各事業部を管轄している上級副社長は、事業部としてのナレッジ・マネジメント・プロジェクトへの協力(知識の貢献)を、それぞれの事業部のテクノロジー担当副社長に要請した。その結果プロジェクトにかかわることになった8人の副社長は、製品と顧客の双方にとって重要なコア・テクノロジーについて分析し、適切な専門家の選定に当たった。また、彼らはUTECAのメンバーと会合し、UTECAおよび他のビジネス・ユニットの中から有能なスタッフをピックアップしたうえで、1999年12月、メイヒュー、キャシディ両氏との会合の場で、さまざまなトピックや専門家について両氏に勧告した。現在、彼らはトピックの最終調整、ならびにターゲットとなる専門家の採用に尽力している。
誰に何のナレッジ・シェアリングを担当させるかは副社長によって決められるものの、それをどのようにして進めるかは、メイヒュー氏のグループにゆだねられている。そして、すでに同グル-プは、「クラスはもう作ったし、これまで身に付けた標準的なベスト・プラクティスや教訓もすべてリストした」(メイヒュ -氏)と、基礎的な準備を終えた。
ただ、メイヒュー氏は、情報テクノロジーがUTECAのナレッジ・シェアリング・プログラムにおいてどのような役割を果たすのか、まだ確信を持てないでいる。「まずは、多くのITアプリケーションが、これまで期待されたほどの成功を収められなかった理由を知ることが大切だ」
同氏は、システムに対する発想を逆転させることで、それに対処したいとする。「アプリケーションを開発する際、まずアプリケーションを作って、あとはユーザーに使いこなすよう求めるというのが一般的だろう。だが、人々がふだんどんなふうに情報を共有しているのかを観察したうえで、その流れをサポートするシステムを構築すれば、もっと円滑にいくのではないかと思う」
メイヒュー氏は、ナレッジ・マネジメント・プログラムはUTRCにとってぜひとも達成すべき目標だと考えている。プロジェクト・リーダーを務める彼女は、最後にこう語ってくれた。
「有能な人たちが協力し合って、従業員がもっと幅広い知識を得られるようなカリキュラムを早急に作ることが必要だ」