SCMパッケージソフト 開発勉強日記です。
SCM / MRP / 物流等々情報を集めていきます。
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サプライチェーンの高度化と言うと、とかく製造業に焦点が当てられることが多い。確かに、生産管理の精度を高め、ジャスト・イン・タイムをはじめとする多くの方法論を生み出してきた日本の製造業の歴史を振り返ればそれにもうなずけるものがあるが、サプライチェーン全体を見渡してみると、実は、物流管理の精度の高さも重要であることが分かる。つまり、モノの動きを支援する物流会社は、これからのSCM(Supply Chain Management)を考えるうえでキャスティングボードを握っていると言っても過言ではないのである。本稿では、今や総合物流企業に変貌を遂げつつある日本郵船の取り組みを基に、SCMにおける「情報の流れ」にあらためて注目してみたい。
変わりゆく物流会社の役割
日本郵船でCIO兼IT戦略グループ長を務める安永豊氏。氏は、「サプライチェーンの考えが顧客の間で浸透するにつれて、顧客からサプライチェーンに必要な情報を管理/発信してほしいとの要望が年を追うごとに多く寄せられるようになった。物流会社は今、顧客では把握できない物流の現場にまつわる情報を提供することで、サプライチェーンの一翼を担う存在になりつつあるのだ」と力説する。 photo by Keiji Kaneda
日本郵船という社名を聞くと、真っ先にコンテナ船などを用いた海上輸送事業が思い浮かぶ。もちろん、それは誤りではない。同社は、定期コンテナ船の世界的な共同運航組織“グランド・ワールド・アライアンス”のメンバーであり、自動車専用船の運航隻数では世界一の規模を誇る、海運業の“雄”なのだ。
しかしながら、その一方で、同社は別の顔も持っている。これも産業界ではよく知られたことだが、同社が事業の幅を「海」から「陸」や「空」へと広げ、総合物流業としての歩みを進めているのである。
さて、サプライチェーンを考えるうえで、言うまでもなく物流機能が欠かせない。「物を運ぶ」という業務が最適化されないことには、緻密な需要予測の効力も、高度な生産技術の恩恵も、少なからず色あせてしまう。つまり、物流会社は、はなからサプライチェーンの主要な構成員なのである。そのうえ、物流会社の取引先となる企業は、それぞれに扱う製品も違えばニーズも異なる。その意味では、「柔軟なサプライチェーンを築く」ことの重要性をどこよりも強く認識しているのは物流会社である、との見方さえ成り立つのだ。そして、日本のみならず世界の企業を相手に物流事業を展開している日本郵船は、情報と物とを一体として運ぶ──すなわち「情物一体」のアプローチによって、この“柔軟なサプライチェーン”を実現しようとしているのである。
同社のCIO兼IT戦略グループ長である安永豊氏は、そうしたアプローチをとるようになった背景には、物流会社に求められる役割が大きく変化しているという現実があると語る。
「かつて、我々のような物流会社に求められていたのは、『ハードの力』だった。言いかえれば、倉庫を構え、トラックや船を用意し、そこで荷物をきちんと預かるということに集中してさえいれば、ビジネスは回っていたのだ。だが、SCMの概念が登場した1990年代以降になると、それに加えて『ソフトの力』が求められるようになってきた。つまり、顧客から物に加えてサプライチェーンに必要な情報をも管理/発信してほしいとの要求が寄せられるようになってきたのだ」
現在、とりわけ大手製造業では、受注から部品調達、生産、出荷に至るまでのサプライチェーン全体を最適化しようという努力が続けられている。そうした流れの中で、物流会社にも、物の運搬を的確に行うだけでなく、情報を通じて各社のSCM戦略に直接的に寄与するという役割が求められるようになっているのだ。
物流情報を「可視化」せよ
安永氏は「ここにきて、これらの付加価値サービスを利用する企業が増えているのは、顧客の間でも物流情報の重要性に対する認識が高まっているあかしだと言えるのではないか」と語る。 photo by Keiji Kaneda
では、SCMに取り組む企業が物流会社に求める情報とは、いったいどのようなものなのであろうか。その筆頭として挙げられるのが、「何が、どこに、いくつあるか」を示すトレース情報である。この種の情報は、消費者向けの宅配業者などでも提供されているが、日本郵船のように「企業のSCM戦略を支援する」ことを目的とする場合には、提供する情報にはより高い精度が求められることになる。
そうしたニーズにこたえるべく、同社が2002年から運用を開始しているのが「物流情報ビジビリティ・システム」である。これは、端的に言えば、輸送の進捗状況を時系列で管理する機能と、物流ライン上にある積み荷の総量などを管理する機能とを併せ持つシステムで、日本郵船はこのシステムを自社で活用するだけでなく、顧客にも開放している。顧客側にしてみれば、出荷明細から出荷スケジュール、船舶スケジュール、通関状況、在庫状況、配送結果に至るまでさまざまな切り口から荷物の状況を把握することで、より高度な在庫管理を行えるうえに、生産計画や販売計画も柔軟に組めるようになるというわけだ。
一般に、物流会社によって荷受けされた荷物は、いくつかの物流プロセスを経て指定の場所へと納品される。例えば、海外工場で生産された製品が、船舶輸送によって国内へと運搬され、指定された倉庫に納品されるまでを考えてみよう。
まず、製品は現地の工場から物流会社の倉庫へとトラック輸送によって運び込まれる。次に、製品は倉庫でコンテナに収納され、そのコンテナを輸送船に荷積みするため、再度トラックで輸送される。その後、コンテナは海上輸送を経て、国内に荷揚げされた後、再度、トラックによって物流会社の倉庫に運び込まれる。そこでコンテナから取り出された製品は、指定された顧客側の倉庫へとトラックで搬入されるわけだ。もちろん、これに部品物流が加われば、プロセスはさらに複雑になる。日本郵船のシステムは、そうした一連のプロセスをリアルタイムに近いかたちで可視化することができるのである。
「とりわけ今は『在庫は悪である』という考え方が広く浸透しており、輸送中の荷物であっても在庫管理の対象にしたいというニーズは高まる一方だ。そこで我々は、輸送されている荷物の情報を一元的に顧客に提供し、顧客が自らの手でその情報をさまざまな角度から分析できるような環境づくりを目指したのだ」(安永氏)
同システムの“キモ”となるのは、個々の荷物に割り当てられるID情報である。物流プロセスの中にポイントを設け、そこに荷物が差しかかると、そのID情報を現場の作業員が読み取り、システムに反映させるという仕組みになっているのである。
傍目には単純な仕掛けに映るが、実際にこれを行おうとすると、大変な苦労を強いられる。というのも、コンテナ輸送ともなれば、1つのコンテナ内に収納されるアイテムが、場合によっては600以上にも達することがあるのだ。そのうえ、まったく同じ荷物であっても、送り手側の企業と受け手側の企業とが別のIDで管理しているようなケースも珍しくない。例えば、送り手側はインボイスの番号、受け手側は発注番号でそれぞれ検索をかけるといったケースも当然出てくる。そうした事情から、コンテナ1つをとってみても、そこにひもづく情報は膨大な量に上るのだ。それを“時間が勝負”の物流プロセスの中で的確に引き継いでいくのは容易なことではない。
安永氏も「システムについては、試行錯誤を重ねつつ手を加え続けてきた。また、それに併せて現場のオペレーションにもかなり手を加えた」と、その苦労を認める。
ちなみに同社は今、荷物の追跡をより効率よく行うために、RFID(Radio Frequency Identification)タグの実証実験に取り組んでいる。荷物の形状や材質、倉庫のレイアウトなどによって、どのようなタグとリーダを使用すればいいかなどについては工夫の必要があるとしながらも、安永氏は「現状のRFIDを使ったビジネス・モデルは、ほぼ実運用に供されるレベルにまで達している」と評価する。
顧客と“密”な関係を築く
物流情報ビジビリティ・システムの効果は、単に顧客企業の利便性向上が図れるというだけにとどまらない。何よりも大きいのが、物流プロセス全体を見渡してボトルネックを特定しやすくなったため、日本郵船側から顧客に対して物流計画の改善を積極的に提案できるようになったということである。この点について、日本郵船のシステム子会社という位置づけにあるNYKシステム総研で物流系システムグループのグループリーダーを務める綿井和樹氏は、こう語る。
「部分最適が進んだ物流プロセスでは、顧客の言うがままに、品物を運ぶしかなかった。だが、全体の物の流れが見えれば、どうすれば無駄が省けるかを顧客と一緒になって考えることができる。つまり、(物流情報ビジビリティ・システムの整備によって)SCMの上流の部分により深く携わることができるようになったわけだ」
例えば、少量ながら長期にわたって倉庫に積み残されている荷物があるとする。従来までは、注文にこたえることで精一杯の現場には、それが適切な措置かどうかといった判断を下すことは難しかった。しかしながら、顧客のサプライチェーンに対する考えを知り、モノの流れをチェーンとしてとらえることができるようになった今は、そうしたことにも的確に判断を下せるようになったという。情報の可視化によって、それだけ顧客との距離が縮まったわけである。
また、綿井氏によれば、物流プロセスの透明性を高めたことで、社員の意識にも変化が見られるようになったという。
「情報の可視化は、システムを整備すればすぐさま実現できるというようなものではない。情報の入り口である“現場”が精度の高い仕事をして初めて成り立つものなのだ。しかも、可視化を通じて『顧客のSCMを支えている』という意識がより強くなれば、社員のやる気も違ってくる。そう考えると、物流情報ビジビリティ・システムは、現場の人間を育てるためにも役立っていると言えるかもしれない」(同氏)
さらに広がる物流会社の役割
日本郵船のグループ会社、NYKシステム総研で物流系システムグループ・グループリーダーを務める綿井和樹氏は、「輸送中の荷物がどこに、いくつあるのかを容易に把握できるようになったことで、物流業務の透明性が大幅に高められた。それを機に、多くの企業で物流業務全体を通じてボトルネックを見つけ出すといった全体最適化が促されるようになったのだ」と説明する。 photo by Keiji Kaneda
日本郵船では、顧客企業との間に築いた太いパイプを生かして、グローバル戦略の強化も進めている。その代表が、世界の工場と評される中国でのビジネス展開だ。物流網が十分に整備されていない同国においては、物流会社のノウハウがきわめて重宝される。最近では、メーカーが現地に工場を新設するような場合、計画の初期段階から物流会社が携わり、製品や部品の流れを最適化するためのアドバイスを行うといったことも珍しくなくないという。
「一般に、中国では荷物の情報を収集することが困難だと言われる。だが、専門のノウハウを持つ我々が現地に拠点を構え、なおかつITインフラを整備すれば、情報収集も決して難しくない。我々も今、その強みをビジネスに役立てるべく、中国での投資を進めている最中だ」(安永氏)
同社の中国市場における物流遂行能力の高さは、米国の大手小売店との間で契約を交わしていることからも見てとれる。その契約は、物と情報だけでなく、小売店に商品を提供するサプライヤーまでをも管理の対象にしている。すなわち、小売店側からの発注に対する現地のサプライヤーの進捗状況を監視し、納期を順守させるという役割も担っているのだ。これは俗に“追い出し(オーダー・マネジメント)”と呼ばれるプロセスである。
ケイレツが重視され、サプライヤーとバイヤーとの関係が長期にわたるケースが多い日本の製造業では、これまでさほど需要のなかった“追い出し”だが、最近ではグループ外企業や海外企業から部品を調達する例が増えている。そのため、安永氏は、今後日本においても、こうしたニーズが増えることになると予測する。
「ここにきて付加価値サービスを利用する企業が増えているのは、顧客の間でも物流情報の重要性に対する認識が高まっているあかしだと言えるだろう」(安永氏)
加えて、まだ数こそ少ないものの、傘下のサプライヤーの1週間分の生産計画を基に、サプライヤーが生産する部品を顧客まで届けるための最適な物流計画の立案/実施を顧客から求められるようなケースも出始めているという。もちろん、これはサプライチェーンの一部での取り組みではあるが、「生産計画や需要予測をサプライヤーに加え物流業者とも共有することで、(顧客である製造業が)さらなる効率化を図れる可能性は十分に残されている。確かに共有する情報には企業秘密が多く、その取り扱いには十分な注意が必要になるものの、今後、そのような案件は増えこそすれ、減ることはないはずだ」と、安永氏は今後のビジネスの広がりを予感している様子だ。
さらに一段上の情報共有を
これまで述べてきたように、物流情報ビジビリティ・システムを柱とする日本郵船の“情物一体”のSCM支援は、着実に成果を上げている。ただし、SCMに取り組む企業の多くがそうであるように、同社もまた、現状に満足しているわけではない。
課題として挙げられているのは、グループ全体を通した顧客情報の一元管理と、それに基づいたさらに高レベルでの情報共有の実現だ。同社は、海上コンテナ輸送はもとより、自動車輸送、航空輸送、物流サービスなど多様なサービスを展開している。それぞれのサービスをより柔軟に組み合わせた支援を行うためには、顧客のニーズをより深く知る必要があるのだ。
「ある企業が、当社との間でどのように連携してサプライチェーンを回しているのかといった情報を、世界規模でつかむ必要があるだろう。そのためには、グループ内での情報共有をさらに強化していかなければならない」(安永氏)
また、ビジビリティ・システムによって提供する情報の“質”を高めていくという課題もある。一口に物流情報と言っても、その切り口は多種多様である。具体的には、荷物があるポイントを通過したことなどを伝えるための“イベント管理”だけでなく、ある時点で特定のイベントが発生しない場合にその事実を適切に伝える“エクセプション管理”も必要になる。さらに言えば、「どの企業の荷物がどのような状態に陥ったときに“遅延”として扱うのか」といったような、“目利き”の能力が求められる情報も提供していく必要がある。そうしたニーズにこたえていくためには、さらに高レベルの情報収集/管理能力が求められるのは間違いない。
「物を運ぶという実業務の中には、まださまざまな情報が眠っている。それらを掘り起こし、広く共有できるような仕掛けを考えていかなければならない。もちろん、CIOとしては、その情報によって他社とどのような差別化が図れるかといったことも考えなければならない。当社の、“情物一体”によるSCMの支援という取り組みは、まだ始まったばかりなのだ」(安永氏)
情報を武器に物流のビジネス範囲を拡大させるとともに、サプライチェーンの中心に物流業を据えてSCM支援の強化を図る日本郵船。“情物一体”という、そのコンセプトの向こうには、確かにSCMの新しい姿が見えるようだ。
変わりゆく物流会社の役割
日本郵船でCIO兼IT戦略グループ長を務める安永豊氏。氏は、「サプライチェーンの考えが顧客の間で浸透するにつれて、顧客からサプライチェーンに必要な情報を管理/発信してほしいとの要望が年を追うごとに多く寄せられるようになった。物流会社は今、顧客では把握できない物流の現場にまつわる情報を提供することで、サプライチェーンの一翼を担う存在になりつつあるのだ」と力説する。 photo by Keiji Kaneda
日本郵船という社名を聞くと、真っ先にコンテナ船などを用いた海上輸送事業が思い浮かぶ。もちろん、それは誤りではない。同社は、定期コンテナ船の世界的な共同運航組織“グランド・ワールド・アライアンス”のメンバーであり、自動車専用船の運航隻数では世界一の規模を誇る、海運業の“雄”なのだ。
しかしながら、その一方で、同社は別の顔も持っている。これも産業界ではよく知られたことだが、同社が事業の幅を「海」から「陸」や「空」へと広げ、総合物流業としての歩みを進めているのである。
さて、サプライチェーンを考えるうえで、言うまでもなく物流機能が欠かせない。「物を運ぶ」という業務が最適化されないことには、緻密な需要予測の効力も、高度な生産技術の恩恵も、少なからず色あせてしまう。つまり、物流会社は、はなからサプライチェーンの主要な構成員なのである。そのうえ、物流会社の取引先となる企業は、それぞれに扱う製品も違えばニーズも異なる。その意味では、「柔軟なサプライチェーンを築く」ことの重要性をどこよりも強く認識しているのは物流会社である、との見方さえ成り立つのだ。そして、日本のみならず世界の企業を相手に物流事業を展開している日本郵船は、情報と物とを一体として運ぶ──すなわち「情物一体」のアプローチによって、この“柔軟なサプライチェーン”を実現しようとしているのである。
同社のCIO兼IT戦略グループ長である安永豊氏は、そうしたアプローチをとるようになった背景には、物流会社に求められる役割が大きく変化しているという現実があると語る。
「かつて、我々のような物流会社に求められていたのは、『ハードの力』だった。言いかえれば、倉庫を構え、トラックや船を用意し、そこで荷物をきちんと預かるということに集中してさえいれば、ビジネスは回っていたのだ。だが、SCMの概念が登場した1990年代以降になると、それに加えて『ソフトの力』が求められるようになってきた。つまり、顧客から物に加えてサプライチェーンに必要な情報をも管理/発信してほしいとの要求が寄せられるようになってきたのだ」
現在、とりわけ大手製造業では、受注から部品調達、生産、出荷に至るまでのサプライチェーン全体を最適化しようという努力が続けられている。そうした流れの中で、物流会社にも、物の運搬を的確に行うだけでなく、情報を通じて各社のSCM戦略に直接的に寄与するという役割が求められるようになっているのだ。
物流情報を「可視化」せよ
安永氏は「ここにきて、これらの付加価値サービスを利用する企業が増えているのは、顧客の間でも物流情報の重要性に対する認識が高まっているあかしだと言えるのではないか」と語る。 photo by Keiji Kaneda
では、SCMに取り組む企業が物流会社に求める情報とは、いったいどのようなものなのであろうか。その筆頭として挙げられるのが、「何が、どこに、いくつあるか」を示すトレース情報である。この種の情報は、消費者向けの宅配業者などでも提供されているが、日本郵船のように「企業のSCM戦略を支援する」ことを目的とする場合には、提供する情報にはより高い精度が求められることになる。
そうしたニーズにこたえるべく、同社が2002年から運用を開始しているのが「物流情報ビジビリティ・システム」である。これは、端的に言えば、輸送の進捗状況を時系列で管理する機能と、物流ライン上にある積み荷の総量などを管理する機能とを併せ持つシステムで、日本郵船はこのシステムを自社で活用するだけでなく、顧客にも開放している。顧客側にしてみれば、出荷明細から出荷スケジュール、船舶スケジュール、通関状況、在庫状況、配送結果に至るまでさまざまな切り口から荷物の状況を把握することで、より高度な在庫管理を行えるうえに、生産計画や販売計画も柔軟に組めるようになるというわけだ。
一般に、物流会社によって荷受けされた荷物は、いくつかの物流プロセスを経て指定の場所へと納品される。例えば、海外工場で生産された製品が、船舶輸送によって国内へと運搬され、指定された倉庫に納品されるまでを考えてみよう。
まず、製品は現地の工場から物流会社の倉庫へとトラック輸送によって運び込まれる。次に、製品は倉庫でコンテナに収納され、そのコンテナを輸送船に荷積みするため、再度トラックで輸送される。その後、コンテナは海上輸送を経て、国内に荷揚げされた後、再度、トラックによって物流会社の倉庫に運び込まれる。そこでコンテナから取り出された製品は、指定された顧客側の倉庫へとトラックで搬入されるわけだ。もちろん、これに部品物流が加われば、プロセスはさらに複雑になる。日本郵船のシステムは、そうした一連のプロセスをリアルタイムに近いかたちで可視化することができるのである。
「とりわけ今は『在庫は悪である』という考え方が広く浸透しており、輸送中の荷物であっても在庫管理の対象にしたいというニーズは高まる一方だ。そこで我々は、輸送されている荷物の情報を一元的に顧客に提供し、顧客が自らの手でその情報をさまざまな角度から分析できるような環境づくりを目指したのだ」(安永氏)
同システムの“キモ”となるのは、個々の荷物に割り当てられるID情報である。物流プロセスの中にポイントを設け、そこに荷物が差しかかると、そのID情報を現場の作業員が読み取り、システムに反映させるという仕組みになっているのである。
傍目には単純な仕掛けに映るが、実際にこれを行おうとすると、大変な苦労を強いられる。というのも、コンテナ輸送ともなれば、1つのコンテナ内に収納されるアイテムが、場合によっては600以上にも達することがあるのだ。そのうえ、まったく同じ荷物であっても、送り手側の企業と受け手側の企業とが別のIDで管理しているようなケースも珍しくない。例えば、送り手側はインボイスの番号、受け手側は発注番号でそれぞれ検索をかけるといったケースも当然出てくる。そうした事情から、コンテナ1つをとってみても、そこにひもづく情報は膨大な量に上るのだ。それを“時間が勝負”の物流プロセスの中で的確に引き継いでいくのは容易なことではない。
安永氏も「システムについては、試行錯誤を重ねつつ手を加え続けてきた。また、それに併せて現場のオペレーションにもかなり手を加えた」と、その苦労を認める。
ちなみに同社は今、荷物の追跡をより効率よく行うために、RFID(Radio Frequency Identification)タグの実証実験に取り組んでいる。荷物の形状や材質、倉庫のレイアウトなどによって、どのようなタグとリーダを使用すればいいかなどについては工夫の必要があるとしながらも、安永氏は「現状のRFIDを使ったビジネス・モデルは、ほぼ実運用に供されるレベルにまで達している」と評価する。
顧客と“密”な関係を築く
物流情報ビジビリティ・システムの効果は、単に顧客企業の利便性向上が図れるというだけにとどまらない。何よりも大きいのが、物流プロセス全体を見渡してボトルネックを特定しやすくなったため、日本郵船側から顧客に対して物流計画の改善を積極的に提案できるようになったということである。この点について、日本郵船のシステム子会社という位置づけにあるNYKシステム総研で物流系システムグループのグループリーダーを務める綿井和樹氏は、こう語る。
「部分最適が進んだ物流プロセスでは、顧客の言うがままに、品物を運ぶしかなかった。だが、全体の物の流れが見えれば、どうすれば無駄が省けるかを顧客と一緒になって考えることができる。つまり、(物流情報ビジビリティ・システムの整備によって)SCMの上流の部分により深く携わることができるようになったわけだ」
例えば、少量ながら長期にわたって倉庫に積み残されている荷物があるとする。従来までは、注文にこたえることで精一杯の現場には、それが適切な措置かどうかといった判断を下すことは難しかった。しかしながら、顧客のサプライチェーンに対する考えを知り、モノの流れをチェーンとしてとらえることができるようになった今は、そうしたことにも的確に判断を下せるようになったという。情報の可視化によって、それだけ顧客との距離が縮まったわけである。
また、綿井氏によれば、物流プロセスの透明性を高めたことで、社員の意識にも変化が見られるようになったという。
「情報の可視化は、システムを整備すればすぐさま実現できるというようなものではない。情報の入り口である“現場”が精度の高い仕事をして初めて成り立つものなのだ。しかも、可視化を通じて『顧客のSCMを支えている』という意識がより強くなれば、社員のやる気も違ってくる。そう考えると、物流情報ビジビリティ・システムは、現場の人間を育てるためにも役立っていると言えるかもしれない」(同氏)
さらに広がる物流会社の役割
日本郵船のグループ会社、NYKシステム総研で物流系システムグループ・グループリーダーを務める綿井和樹氏は、「輸送中の荷物がどこに、いくつあるのかを容易に把握できるようになったことで、物流業務の透明性が大幅に高められた。それを機に、多くの企業で物流業務全体を通じてボトルネックを見つけ出すといった全体最適化が促されるようになったのだ」と説明する。 photo by Keiji Kaneda
日本郵船では、顧客企業との間に築いた太いパイプを生かして、グローバル戦略の強化も進めている。その代表が、世界の工場と評される中国でのビジネス展開だ。物流網が十分に整備されていない同国においては、物流会社のノウハウがきわめて重宝される。最近では、メーカーが現地に工場を新設するような場合、計画の初期段階から物流会社が携わり、製品や部品の流れを最適化するためのアドバイスを行うといったことも珍しくなくないという。
「一般に、中国では荷物の情報を収集することが困難だと言われる。だが、専門のノウハウを持つ我々が現地に拠点を構え、なおかつITインフラを整備すれば、情報収集も決して難しくない。我々も今、その強みをビジネスに役立てるべく、中国での投資を進めている最中だ」(安永氏)
同社の中国市場における物流遂行能力の高さは、米国の大手小売店との間で契約を交わしていることからも見てとれる。その契約は、物と情報だけでなく、小売店に商品を提供するサプライヤーまでをも管理の対象にしている。すなわち、小売店側からの発注に対する現地のサプライヤーの進捗状況を監視し、納期を順守させるという役割も担っているのだ。これは俗に“追い出し(オーダー・マネジメント)”と呼ばれるプロセスである。
ケイレツが重視され、サプライヤーとバイヤーとの関係が長期にわたるケースが多い日本の製造業では、これまでさほど需要のなかった“追い出し”だが、最近ではグループ外企業や海外企業から部品を調達する例が増えている。そのため、安永氏は、今後日本においても、こうしたニーズが増えることになると予測する。
「ここにきて付加価値サービスを利用する企業が増えているのは、顧客の間でも物流情報の重要性に対する認識が高まっているあかしだと言えるだろう」(安永氏)
加えて、まだ数こそ少ないものの、傘下のサプライヤーの1週間分の生産計画を基に、サプライヤーが生産する部品を顧客まで届けるための最適な物流計画の立案/実施を顧客から求められるようなケースも出始めているという。もちろん、これはサプライチェーンの一部での取り組みではあるが、「生産計画や需要予測をサプライヤーに加え物流業者とも共有することで、(顧客である製造業が)さらなる効率化を図れる可能性は十分に残されている。確かに共有する情報には企業秘密が多く、その取り扱いには十分な注意が必要になるものの、今後、そのような案件は増えこそすれ、減ることはないはずだ」と、安永氏は今後のビジネスの広がりを予感している様子だ。
さらに一段上の情報共有を
これまで述べてきたように、物流情報ビジビリティ・システムを柱とする日本郵船の“情物一体”のSCM支援は、着実に成果を上げている。ただし、SCMに取り組む企業の多くがそうであるように、同社もまた、現状に満足しているわけではない。
課題として挙げられているのは、グループ全体を通した顧客情報の一元管理と、それに基づいたさらに高レベルでの情報共有の実現だ。同社は、海上コンテナ輸送はもとより、自動車輸送、航空輸送、物流サービスなど多様なサービスを展開している。それぞれのサービスをより柔軟に組み合わせた支援を行うためには、顧客のニーズをより深く知る必要があるのだ。
「ある企業が、当社との間でどのように連携してサプライチェーンを回しているのかといった情報を、世界規模でつかむ必要があるだろう。そのためには、グループ内での情報共有をさらに強化していかなければならない」(安永氏)
また、ビジビリティ・システムによって提供する情報の“質”を高めていくという課題もある。一口に物流情報と言っても、その切り口は多種多様である。具体的には、荷物があるポイントを通過したことなどを伝えるための“イベント管理”だけでなく、ある時点で特定のイベントが発生しない場合にその事実を適切に伝える“エクセプション管理”も必要になる。さらに言えば、「どの企業の荷物がどのような状態に陥ったときに“遅延”として扱うのか」といったような、“目利き”の能力が求められる情報も提供していく必要がある。そうしたニーズにこたえていくためには、さらに高レベルの情報収集/管理能力が求められるのは間違いない。
「物を運ぶという実業務の中には、まださまざまな情報が眠っている。それらを掘り起こし、広く共有できるような仕掛けを考えていかなければならない。もちろん、CIOとしては、その情報によって他社とどのような差別化が図れるかといったことも考えなければならない。当社の、“情物一体”によるSCMの支援という取り組みは、まだ始まったばかりなのだ」(安永氏)
情報を武器に物流のビジネス範囲を拡大させるとともに、サプライチェーンの中心に物流業を据えてSCM支援の強化を図る日本郵船。“情物一体”という、そのコンセプトの向こうには、確かにSCMの新しい姿が見えるようだ。
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