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SCMパッケージソフト 開発勉強日記です。 SCM / MRP / 物流等々情報を集めていきます。
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TOC──全体最適による
業務改革戦略ガイド

第3回   TOC導入のポイント

竹之内 隆

  各担当者へのアドバイス
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 ここで企業組織内の工場生産関連部門/物流部門/営業・マーケティング部門/情報システム(SE)の方々にアドバイスを提供して筆をおきたいと思う。

 まずはすべての方々に共通していえることだが、「プロジェクト・マネジメント」および“SCM”に関する教育や参考文献やミーティングを通じて、他部門との相乗効果を上げていく創造活動を効率よく確実に推進するすべを身に付けてほしい。SCMについてはソフトウェアの持つ機能についても、各ベンダーの協力を得て正しく把握しよう。

 また、SCMは製造・販売・物流と異なるバックボーンを持つ組織が協働するので、第三者の中立的な参画も有効な推進方法といえる。コンサルタントを有効活用しよう。

■工場の生産関連部門の方々へのアドバイス

[1]
プロジェクト目的を真摯に理解すること。
   
  企業価値を高めるために在庫削減やトータルリードタイムを削減するのであって、削減そのものは手段でしかない。これを自己目的化してはならない。生産関連部門は改善慣れしているがクローズした組織での目標達成に向けての活動が多く、他部署とのかかわりの中で最適化を推進することには慣れていない。要注意である。
営業部門への不信感からJIT活動を隠れみのにするタイプの発言が見られることも多い。「小ロット化と段取り短縮をしなければSCMは機能しないのだから、工場はJIT専念でよいはず」といったたぐいの発言はこのデフレ経済下では、会社を破綻させかねない思想であることを強調しておきたい。

   
[2] SCMソフトの機能を実機ベースで確認し、自社の供給プロセスにおける適用可能性を評価すること。
   
  工場生産関連関係者は、一般に情報システム部門に対して要求は出すが、実現はソフト部門の仕事であると「主客二元論」に立つ傾向にある。現実の作業では、パッケージ化されたSCMソフトを利用することが多く、開発作業よりは業務適用を検討する工数が大半になる。情報システム部門の工数よりは、現業部門が主体的にソフト選定からプロトタイピングまでを推進する気概が必要といえる。

   
[3] JIT適用を中途半端にせずに徹底的に実践すること。
   
  繰り返しになるがJITはSCMの前提になる。形式的なJIT化ではなく本質的なJIT改善を真摯に推進してほしい。


■物流部門の方々へのアドバイス

[1] 単純な保管・配送効率の見直しではなく、ビジネスモデルを再考する観点が必要である。
   
 

物流センターの統廃合検討はいわずもがなで、ほかにも営業活動の中に納品時点での現地調整活動などが存在するときは、庫内加工の一種として現地調整プロセスを集約化するなどの検討が必須である。
SCMで海外工場との関係を含めたプロジェクトになると、週次化の制約条件が輸入プロセスであるケースが多くなる。船上在庫期間が長過ぎるという議論である。この際に、需要予測から期間契約の航空便が採算に乗らないか、国内の安全在庫水準を変更することで対応できないかなど、多角的な検討が必須である。



■営業・マーケティング部門の方々へのアドバイス

[1] 一般に販売計画の精度を議論されることが苦痛を伴うので営業部門の方々は、SCMには他部門の努力を要求し、情報部門は現状維持を主張しがちである。特に海外REP(代理店)の在庫動向をシステムの不備で把握できないという発言が散見されるが、手段はFAXであれ何であれ、まずは在庫動向と販売情報を把握することに注力してほしい。

■情報システム(SE)担当の方々へのアドバイス

[1] 高機能のSCMソフトを見ると万能に思えるが、導入に関してはビジネスモデルの再考からであることを再認識してほしい。
   
  情報システム部門の人間は、SCMパッケージの高機能ぶりを見ると、システムを土台に議論を推進したほうが現実的と判断しがちである。しかし、一社として同じサプライチェーンはない。基本はTOC思考プロセスから入って、ビジネスモデルを再考することからのスタートである。バリュー創造ポイントにSCM高機能ソフトを適用すると効果的であろう。

   
[2] システムインターフェイスおよびSCMの基礎データの蓄積(DBの整備)が前提である。
   
  SCMシステムはそれ自体にマスタDBを持つよりは、基幹システムからデータを受理して処理するアーキテクチャになることが通常である。インターフェイス開発の議論の30%近くを占めることは覚悟されたい。また、SCMの前提になる基礎データの蓄積があまりにも不完全なら、ERPのような基幹システムの整備を優先すべきである。




 手前みそではあるがシーアイエスのホームページではITに関する基礎を解説している。またSCM、TOCの事例も掲載している。ご一読願いたい。参考文献は以下を参照されたい。

SCM サプライチェーン経営革命
福島美明著
日本経済新聞
1998年9月
ISBN4-532-14684-4
1600円+税



TOC戦略マネジメント
竹之内隆、加藤治彦、村上悟著
日本能率協会マネジメントセンター
1999年4月
ISBN4-8207-1419-8
2500円+税



計画の科学
加藤昭吉著
講談社ブルーバックス(B-35)
1965年4月
ISBN4-06-117635-8
820円+税


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TOC──全体最適による
業務改革戦略ガイド

第3回   TOC導入のポイント

竹之内 隆
シーアイエス株式会社
コンサルティングカンパニー カンパニープレジデント
2001/12/1

<今回の内容>
■ スループット会計に根差す管理指標の適用
■ TOC、JIT、SCM──敵か味方か?
■ 各担当者へのアドバイス
 前回(「制約を解決するSCMソフトと思考プロセス」)は、どこに着目し、どこから改革に着手すべきかに関して、まずは制約条件をとらえることからスタートするという点に触れた。制約条件が物理的な制約と方針制約のような企業組織に根差す問題に分かれること、および物理的な制約であればSCMソフトなどで特定し一気に解消されるが、企業組織に根差した方針制約は取り扱いが難しいという点も指摘した。企業のトップ層でさえ全体最適な観点から施策を打ち出しているかといえば、必ずしもそうではないケースが散見される。こうした場合、思考プロセスを適用してプロジェクトメンバー全員でブレークスルーする必要がある。

  スループット会計に根差す管理指標の適用

■市場に機敏に対応した生産の必然性

 第1回の中で従来のコスト管理の世界では前提条件として、各部門、工程を個別指標に基づいた改善をすれば企業全体の収益性が改善するし、各製品の標準原価を下げると企業のトータルコストは減るという考え方にあるが、その前提は事実無根であると指摘した。そこでの代表的な指標として以下のような例を紹介した。

コスト管理の世界の指標
■設備稼働率=稼働時間/操業時間
■標準原価=資材費+作業時間×ローディング
■時間当たり生産高=生産高(加工高)/操業時間

 これまで製造業に属する多くの企業が、その方針の筆頭に「品質第一」という標語を掲げていた。わが国の製造業で品質、原価、納期をうたわない企業はないくらいだった。そこには「良いものを作れば必ず売れる」という確信があった。しかし、現在のデフレ経済下ではいかがなものであろう。

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 企業側で企画した製品を大量生産して、「安く」「速く」供給するというコンセプトは近年の大手スーパーの蹉跌からも実態を読み取れるのではないだろうか。いまでは大量生産・多量消費の拡大再生産サイクルは、わが国経済の一昔前の実態になってしまったといえる。

 さらに、消費は二極化しているように思われる。し好品はメディアの影響から一過性のブームが起きると途方もないピーク性を持ち、短期間で驚くほどの消費を喚起する。しかし、そうした製品でも極めて短期間しか受け入れられない。それは、例えば有名なミュージシャンのCDの消費行動に代表されるだろう。たった1カ月間ほどで数百万枚が購入されるが、翌月からはピッタリとその売り上げは止まるのである。良くも悪くもメディアの発展は、個人の消費行動に影響を与えている。

 その一方で、個人や個々の企業の欲求にピッタリ合う製品・サービスが購入される傾向もある。いわゆるカスタムメードへの流れである。自分にピッタリの洋服や靴は、少々高価であっても売れている。PCもインターネットから自分で仕様を選定して購入することが当たり前になった。HDDが××GbytesでCPUは××MHzのPCを自分の好みで選択し、少し急いで配達してもらうか、ゆっくりと船便で送ってもらうかまで決めることができ、それによって購入単価も個人によって変わってくる仕組みだ。

 前者は販促イベント・広告に多額の予算を投じてテレビ、新聞、雑誌という旧式のメディアからインターネット、iモードなどのニューメディアに至るまで一斉に告知し、マルチメディアを利用しつつ、段階を追った情報漏えいによる消費者の扇動を行う。じらしつつ、発売直前に消費者の関心のピークを持っていくのである。

 後者は購入者の希望を製品に取り込むことで「自分だけの××」という一種の満足感を誘い水にする。

 いずれも、売れるものをいち早く生産し供給することが、現代のサプライチェーンのポイントになっている。タイミングを外したローコスト生産は無意味なのである。

 こうした経済環境下で品質、原価、納期をどれほど管理していても、“在庫”になってしまえば意味のないことはお分かりいただけるであろう。いかにコストを下げても、高品質であっても、それが売れないモノを作るための努力であれば意味はないのである。

■マインドウェアの導入

 わが国の製造業関係者にはTQC経験から、コストダウンの信奉者が圧倒的である。そこでの問題は「製販コントロール」「製販統合」「サプライチェーン・マネジメント」という売りに結び付く改革という視点が具体化されずに、「できる部分から着手する」という旧式の改善活動になってしまうことにある。これは方針制約であり、行動制約という信念に近い、マインドウェアの変換が第一義的に重要だということを示唆している。

 TOCでは、売れるものを売れる順番で製造し、しかもスループットという変動費利益を把握し、これを制約工程の占有時間当たりで評価する。制約工程の時間当たりスループットで製品を評価することで、販売戦略と生産を結び付けようとしている。

製品ROA= Σt〔(売価-材料費)×販売数量〕-Σt〔コストをa に応じて配賦〕
総資産×Σt(a÷z)×(t÷1年)

t=対象期間、a=製品Aを生産するために使用した時間、z=設備を使用した時間の総和


 すなわち、製品の実売粗利{(実売単価×数量)-資材費}と生産効率を両にらみで最適化することで売れるモノへ生産設備・人員という資源を集中投資するよう現実的に促す指標の提供を狙う。

 営業部門はしゃにむに商談に走り、低粗利でもビッグディールを狙うが、生産部門はまったく別世界で大量生産による原価削減という在庫の積み増しを行う。──これでは大口商談の欲しい製品の納期は危うく、かつ生産部門は商談の優先順位とは別の評価指標で生産活動をコントロールしてしまう。企業サプライチェーンとしてはぶつ切りで、1+1が2にさえなれない。製販コントロール、製販統合、サプライチェーン・マネジメントを実現するための管理指標(KPIとも呼ばれる)は以下のようになる。


製版コントロール、製版統合、SCM実現の管理指標(KPI)

 製品別、製品群別に売り上げとスループットをとらえることに加えて、地域・仕向け地ごとに同様の売り上げ、スループットを把握することで販売計画と施策策定の前提をそろえる。加えて、販売計画の対象製品を作るのにどの程度の制約工程を占有してしまうかを時間で測定する。これによって時間当たりのスループットが測定される。

■スループット/製造所要時間
 売りやすく(成果が出ている)、作りやすい製品を特定することで、チャネル横展開や設計に工夫をしやすくする。さらに売る計画、販売の意思に対して在庫を完成品、仕掛品を引き当てて売る順番に棚卸資産をキャッシュ化していく。

■販売計画(需要予測)/棚卸(製品在庫・部品在庫)
これが毎週の製販コントロールに活かされて、結果的に販売活動に生産活動がシンクロする製販統合に結び付くのである。


 ここで指摘してきたわが国の企業の根本的な問題は、マインドウェアの変換という方針制約、行動制約に起因することから、TOC思考プロセスからプロジェクトをスタートすることが求められる。

 過去を支えてきた信念であるコストダウン、工程改善と、新たな全体最適化の葛藤はたとえようのないほどのもので、厳しいやり取りが繰り広げられる。

 参加する役員、プロジェクトメンバーは全員が信念を持っているのだから、当たり前ではあるが真剣な討論である。そしてその熱の入る方向は「TOCや製販コントロール、製販統合、サプライチェーン・マネジメントという概念は非現実的である」とか、「自社には不適合な概念である」などと否定的に見られがちである。しかしながら、従来の改善思考ではデフレ経済を乗り切るのは不可能なことに気が付いてもいるのである。

 具体的かつ現実的なやり方とは、「現状のできるところから改善を……」ではないことにやがて全員が気付く。自覚された問題の構造は、解決策を求めて苛立ちをエスカレートさせる。ここで全員参加のブレークスルーアイデアを求めて対立解消図を利用したり、ブレーンストーミングを行ったりすることが通常となる。問題構造を逆転するビジネスモデルの糸口や、製販コントロールの仕組みのアイデアを抽出することがポイントである。

 一般的には、コンピュータシステムを導入することで、いきなり解決するほど問題の構造が明確化されていないケースが99%以上である。同様に現状では、TOCへの理解も信頼もほぼゼロからのスタートがほとんどである。

 わが国では、製造業を筆頭にTQC(Total Quality Control)に代表される改善活動にはなじみがあるのだが、TOCというとまだまだ新参者で理解者は少数派なのだ。とはいえ、TOC思考プロセスは新QC七つ道具の問題点連関図に非常によく似ており、進め方によっては受け入れられやすいのではないかとも考えている。われわれはコンサルティングのスタート時点で思考プロセスを利用している。

  TOC、JIT、SCM──敵か味方か?

 TOCをご存じなくても“JIT”(Just In Time)は身近な言葉になっていることであろう。もともとJITは低成長化においても無駄を徹底的に排除し、利益を最大化するためにコスト管理、品質管理、数量管理、工程管理の諸手段を体系化したものといえる。どちらかといえば「目で見る管理、実物管理」を標ぼうし、ソフトウェアというよりは設備思想の強い改善の体系と解釈できる。

 また、サプライチェーン・マネジメント(SCM)も近年ではなじみの言葉・概念になってきている。SCMは、JITとは逆に計画志向で、IT利用を全面に打ち出している。また、工場中心ではなく製版統合やBtoBという企業間関係を対象にサプライチェーンを形成しつつ、企業価値最大化を狙う。では、TOC、JIT、SCMは相いれない概念なのだろうか?


TOC、JIT、SCMの関係性は──

■SCMの方法論としてのTOC、JIT

 SCMは企業価値最大化のためにIT技術を徹底活用することで顧客から原材料までのモノの流れを情報の力で制御し、需要変動に最適な供給を実現しようというマネジメント手法である。前述したが、SCMを実現するためにはソフトウェアを適用する前に、問題の構造を共有化しなければあぶはち取らずになりかねない。

 ここにおいてTOC思考プロセスが有効である。また、ソフトウェアを適用するだけで現実の生産工程はそのままでは何も改善されない。従って、TOC 5ステップを適用したり、JIT改善によるハード改善を適用したりすることで初めてサプライチェーンは高次元に移行できる。

 もう少し、例を挙げて解説しよう。

 最近では、JIT改善に集中する工場関係者が増えている。他方で本社を中心にSCMプロジェクトを立ち上げるケースが多く見受けられる。JITとSCMは実際には両立するのだが、対立すると誤解されている場合がある。

 ある自動車部品メーカーがその典型例だった。工場はJITと称してセル生産を導入していた。仕掛かり削減のために部品配膳の仕組みを改めたり、コンベヤーラインをU字ラインに変更したりして流れ生産を実現しようとしていた。

 そこへ本社サイドからサプライチェーン・マネジメントと称してプロジェクトが立ち上がった。工場関係者はちゅうちょしたが、SCMのほうは様子を見ながらJITを継続することにした。コンサルタントとして参加した私(筆者)は工場関係者に次のように伝えた。

 「冷静に考えると工程バラシからU字ラインへの機械設備のレイアウト変更や段取り時間の短縮、多能工育成は小ロット化への前提作りでもあり、作業者数の少人化(弾力化)につながるので、SCMで推進する需要の変化に弾力的に対応する生産・供給体制の基礎になる。JITでは引き取りカンバンないしは生産指示カンバンを製造着手のトリガーに使用するが、これをすべての工程連鎖に使用できるかといえば、見込み生産と受注生産が混在する工場では完全なカンバン運用はできない。そこでSCMソフトとJITの連動が効果的な運用を生み出すのである。SCMソフトはサプライチェーン全体に時間軸を提供する。いつからいつまでに、どの部品と設備を使用して何を加工・組み立てなければいけないかを明確化する。まさに分秒単位で設備能力にかなった実施可能な計画を指示していく。これに沿って工程はカンバンで運用することが可能である。部品の手配や出庫指示も同様にSCMソフトの指示が時間軸を提供してくれる」

 SCMではしばしば週次コントロールを標ぼうするが、JITとどのように連携してよいかが分からずに対立するケースもあるようだ。これもMRP(Manufacturing Automation Protocol)に代表されるSCMソフトのタイムバケットを週次+日次にすれば事なきを得るはずである。SCM、JITの相乗効果を上げることができるわけである。

TOC──全体最適による
業務改革戦略ガイド

第2回   制約を解決するSCMソフトと思考プロセス

竹之内 隆

  ドラム・バッファ・ロープとSCMソフトアルゴリズム


 TOCのロジックに基づくSCPソフトはどのような作業を行っているのだろうか。

 かいつまんで説明すると、TOCの供給スケジューリングはスループット最大化に主眼を置き、制約条件の徹底活用を促進するアルゴリズムを持っている。棚卸資産(完成品在庫+部品在庫)も同時に最小化するために「同期生産」(Synchronous Manufacturing)の思想に基づいたスケジューリングが行われる。資材過不足と生産能力の双方を同時に考慮し、MRP(Material Requirement Planning=資材所要量計画)機能の一部を取り込んでいる。

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 他方で従来のMRP利用型の供給スケジュールは需要予測や販売計画から基準生産日程計画(MPS)を作成する際に無限負荷山積みを利用し、設備や倉庫の能力を超える供給計画であってもいったんは納期から逆算するバックワードスケジュールで組んでしまっていた。負荷が能力を超えていることは警告するのだが、現実解に調整するのは人手を介しているのである。負荷ならしのための計画調整は人手を拘束するだけではなくトレードオフ(あちら立てれば、こちらが立たぬ)という関係の中で調整するので非常に難しい。結局はベテランの勘と経験に依存することになりがちだった。そのうえで、MRP展開による資材調達計画と供給スケジュールの対比を行う。能力が足りても部品が足りなければあぶはち取らずになるのである。ここで当初立てた生産スケジュールを変更することもしばしばだった。

 ゴールドラット博士の発想はこうしたMRPの問題を背景に生まれていた。一般にTOCのスケジューリング手法はDBR(ドラム・バッファ・ロープ)とも呼ばれる。これはTOCスケジューリングの最も重要な3つの要素を分かりやすく表現している。

ドラム 制約工程を特定し、その工程をフル活用する生産スケジュールのこと
バッファ 制約工程が受注変動に左右されないように保護時間を設定する
ロープ 制約工程に同期した部材の配当計画のこと

 軍隊の隊列アナロジーを使ってTOCスケジューリングの原理原則を説明していこう。軍隊の隊列が行進して山道を登っているとする。これを生産と対比すれば、各兵士は生産の各工程設備で、当然工程作業の順序を守らなければならないように兵士も前の兵士を追い越すことはできない。この隊列の隊長の任務はなるべく短時間に全員を頂上に登らせることである。兵士が登山を始めると何が起こるかを考えてみよう。まず兵士の体力やその日の体調は1人ひとり違う。そこで一番遅い兵隊が先頭以外の位置にいると遅い兵士とその前の兵隊との間の距離はどんどん拡大する。この現象は生産工程におけるボトルネック設備と最新の設備の関係に相当する。

 また1人ひとりの兵士は登山途中で、道のでこぼこにつまずいたり、靴の中に入った砂利や砂を出すことがしばしば起こる。その都度その兵士と前の兵士の間に開きができる。しかし最も遅い兵士の後ろの兵士はギャップができても、最も遅い兵士より早く歩けるので、やがて追い付くことができる。従ってこのようなばらつきがあっても最も遅い兵士の後ろで、隊列はあまり広がらない。ちょうど各工程の生産活動にチョコ停(短時間の工程の停止)、不良品の発生、工程担当者の欠勤などの揺らぎがあることに相当する。そしてこの生産活動の揺らぎが仕掛け増大の原因の1つになるのである。

 軍隊の行進なら、最も遅い兵士を先頭に持ってくれば隊列の広がりを防ぐことができる。しかし生産では工程順序を変えることも、特定の工程の能力を変えることも容易にできるわけではない。

 そこで再度隊列のアナロジーで説明すると、最も遅い兵士が隊列の途中にいてその位置を変えることができないのであれば、その兵士と先頭の兵士の間をロープでつなぎ、この間が開きすぎないように固定する。その場合、このロープは兵隊の最少間隔分の距離より長くして余裕を持たせるのである。

 その理由は、仮に最も遅い兵士の直前の兵士がつまずいたときに、最も遅い兵士も立ち止まらなければならないわけだが、この最も遅い兵士が立ち止まったことにより失われた行進距離は永久に取り戻せないからだ。それ以外の兵士は何らかの理由で立ち止まっても、隊列の歩行速度は最も遅い兵士の速度なのでやがて取り戻せる。つまり、最も遅い兵士は何があっても止めてはならないので、その直前を行進する兵士の影響を受けないように、隊列は最も遅い兵士とその前の兵士の間だけは距離があるが、それ以外は詰めた隊列になるのである。これは生産ラインでは、先頭工程への資材投入をボトルネック工程の生産速度に合わせることと、制約条件の前だけには制約条件の活動を保護するバッファを設置することに相当する。


図2 最も遅い兵士にドラムを持たせ、ほかの兵士はそれに合わせて行進するのが効率的

 つまりドラム、バッファ、ロープとは、それぞれ次のことを指している。ドラムのアナロジーは、昔の行軍はドラムをたたいて歩調を合わせたことから、隊列全体の歩調を決めるもの──すなわち最も遅い兵士を意味している。ロープとは先頭兵士と最も遅い兵士の間に結んだロープのこと、バッファとは最も遅い兵士が前の兵士に阻害されないようにロープに持たせた余裕のことである。

 賢い皆さんはすでにお気付きのことと思うが、TOCドラム・バッファ・ロープは全体の中の最も弱点になる、能力上の制約工程を特定し、サプライチェーン全体の供給に悪影響を与えないようにバッファ時間を計算し、材料の投入を制御していくことで全体最適の達成を支援する考え方なのである。そしてこの考え方は前回触れたOPTというソフトで実現されていたわけだ。この制約条件を特定し、そこを中心に全体最適化計画を策定するSCMソフトは、最初はOPTのみだったが、その後の発展の中で多数のソフトが登場している。

  ソフトでは解決できない制約を改善する思考プロセス

■思考プロセスの意義

 能力制約のような物理的な問題はソフトウェアを利用することで問題の所在を特定し、解消も可能である。しかし、別の種類の問題もある。

 1つの問題はサプライチェーン改革やTOCの生産改善を推進する場合に、方針上の制約条件が大きな障害になるケースがたびたびあるということである。販売方針と生産方針が対立するなど、方針を変えることは複数の部門が複雑に絡む問題で、多くの対立が生じてなかなか議論が前に進まないことも散見される。方針の対立には人間組織が介在し、機械的な取り扱いは不可能である。ソフトウェアに自動的な処理を依頼するわけにはいかない。

 もう1つの問題はTOCの生産改善手法を適用して、一定の需要に対して生産がうまく適用できると能力に余剰が生まれてしまうケースである。販売もそれに対応して売り上げが伸びればよいのだが、うまくいかないとなると、多くの場合生産部門のレイオフにつながってしまう(米国では過去にもそうだった)。しかしいったんレイオフが行われると、これらの部門では改善活動が跡形もなく消えてしまい、改善を進めた部門が犠牲になるという最も好ましくない結果だけが残ってしまう。

 このような背景の下に生まれたのが思考プロセス(TP: Thinking Process)と呼ばれる手法である。思考プロセスは根深い対立のある複雑な問題に対して妥協案ではないブレークスルー案を考え出し、それを実施まで持っていくためのシステマチックな手法である。

 ゴールドラット博士は思考プロセスを1980年代後半から開発し始め、1994年にはそれを解説した『It's Not Luck』という小説を出版した。この結果TOCは製造業でのマーケティングや方針制約といった生産以外の問題だけでなく、サービス業や米軍といった幅広い組織での問題にも活用されるようになった。

■思考プロセスのステップ

 TOC思考プロセス(TP)では「何を変えるか」を特定するために現在問題構造ツリーを作成し、中核問題を特定・抽出することで、方針上の問題や制度が引き起こす問題を共有化することが可能になった。

 これらを「何に変えるか」という対立解消図でブレークする案を検討し、創造するのである。

 さらに未来問題構造ツリーで案の有効性を検証し、「どうやって変えるか」を前提条件ツリーで実行上の障害を抽出し、移行ツリーで方針制約解消行動の実行計画を作成するわけである。

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