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SCMパッケージソフト 開発勉強日記です。 SCM / MRP / 物流等々情報を集めていきます。
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失敗しないための戦略立案のポイント

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この世にSCM(Supply Chain Management)という言葉が生まれてから、かなりの時間が過ぎた。今では、多くの企業がこのSCMを経営戦略上の重要課題として位置づけるようになっているが、その一方で、実際に成果を上げている企業は決して多くない。そのうえ、聞こえてくるのは「SCMは難しい」、「どのように取り組んだらよいのか分からない」といった消極的な言葉ばかりである。いったいSCMのどこが難しいのであろうか。本稿では、プロジェクトを失敗に終わらせる要因の1つともなっている誤った“SCM神話”の正体を暴くとともに、今、CIOが目を向けるべき“本質”を明らかにしたい。

今岡善次郎 ビジダイン 代表取締役/コンサルタント

依然として高いSCMへの関心度
 筆者が1998年3月、日本でおそらく初めてのSCMタイトル書籍である『サプライチェーンマネジメント』(工業調査会)を上梓してから、早くも4年半が経過しようとしている。その間のSCMという言葉の広がりを調べるために、今夏、アマゾン・ジャパンの取扱書籍を「サプライチェーン」もしくは「SCM」でキーワード検索してみたところ、前者が47冊、後者が6冊と合計で53冊にも上った。1998年2月以前にはサプライチェーンをタイトルにする著作は無きに等しい状態だったことを思えば、このSCMという言葉が、経営用語としていかに画期的なブームとなっているかが分かる。

 筆者自身も、その後、さまざまな出版社からSCM関連書籍を上梓しているが、読者からの反応の大きさ、この件にまつわる講演・コンサルティング依頼の多さなどを通じて、このテーマについての関心の高さを身をもって実感しているところである。それにしても、SCMは、かつてのSIS(Strategic Information System)、BPR(Business Process Reengineering)、CIM(Computer Integrated Manufacturing)のように、一時の流行語で終わると言われながら、期待(?)に反してなかなか衰えを見せない。これはいったいなぜなのだろうか。筆者は、その理由は主に以下の3点にあると考えている。

●SCMの課題に、製造業や流通業が抱える永遠の経営課題が含まれること
●産業構造のパラダイムが変わり、従来の経営論のみでは収益が改善しなくなったこと
●ITが真の意味で経営の一部となって、ビジネス・モデルと一体化してきたこと


SCMの5つの“神話”
 以上のように、SCMへの関心は依然として衰えを見せていないが、すべての企業の担当者がSCMの意義を正しくとらえることのできる環境が整っているかといえば、そうとばかりも言い切れない。先に触れたように、SCM関連の情報は増加の一途をたどっているものの、肝心の中身に目を移すと、欧米におけるコンセプトの表面的な紹介、数少ない事例の重複使用、本質を理解せずに受け売りの話を紹介した伝達ゲーム等々、受け手が混乱しかねないようなものも少なくないのである。

 SCMは、全体最適やキャッシュ・フローで語ることのできる経営論である。それを真に役立つ手法にまで昇華させるためには、ビジネス戦略の枠組みにシンプルさと網羅性とが必要となる。いかにすばらしいコンセプトであっても、事実に裏づけられていなければ一時の興味で終わってしまうだろう。

 そこで、筆者が考えついたのが、SCMに関する実際の失敗事例や批判を分析することで、SCMの枠組みに網羅性があるかないかを検証することができるのではないかということであった。以下では、筆者がコンサルタントとして参加する企業のプロジェクトでの経験や、新聞・雑誌で紹介されている記事の内容を通して、一部のユーザーに見られる“誤解”を5つの視点からまとめてみたものである(表1)。ちなみに、この内容は拙著(『サプライチェーン18の法則』日本経済新聞社、2000年1月)の中でも紹介している。興味のある方はぜひ参考にされたい。


表1:SCM5つの神話




【神話】
【落とし穴】
【成功のために】


1.SCMは、在庫を下げることである
在庫を下げて倒産した店、稼働率を落とした工場などが存在する
供給速度の制御能力によって適切な安全在庫が設定できる。その能力を向上させるSCMが実現できて初めて、在庫と稼働率の問題が解決する。


2.SCMは、需要予測することである
アルゴリズムを増やしてもデータを増やしても、完璧な需要予測はできない
需要予測だけのSCMは、距離を短縮することなく標的をねらうことに等しい。需要(標的)と供給予定(予測)のサイクル(距離)を短縮するなどの取り組みが必要となる。


3.SCMは、ITを導入することである
ソフトの導入に成功しても、経営の成功とは言えない事例がある
ソフトに合わせて業務改革を進める場合にはベスト・プラクティスを用意しておくことが前提となるが、その多くは過去のビジネス・モデル。SCMの本質を突いたうえでITを導入する必要がある。


4.SCMは、サプライチェーンのトータル・コストを下げる
トータル・コストは下がっても、在庫は上がったり、リードタイムが長くなったりすることもある
コストと在庫はトレードオフの(相矛盾する)関係にある。それを解決するのが、SCMの革新としての速度制御である。


5.SCMは、他社の成功事例を当てはめればよい
現場の事情や制約が違えば、反発や不信感が生まれ、スタッフのやる気を失わせる
現場・現実を理解してSCMの本質から入ることが重要となる。




【神話1】SCMとは、在庫を下げるものである

 「在庫を下げればキャッシュ・フローが改善する」との強い信念から、在庫削減のかけ声がSCMの下で叫ばれている。ところが、サプライチェーンのメカニズムについての理解が不足したまま力ずくで在庫を下げると、かえって品切れを引き起こして販売機会の損失につながったり、材料不足によって工場の設備を止めざるをえなかったりといった状況が生まれてしまう。「在庫」は、サプライチェーン改革を進める際に焦点を当てるべき対象ではあるが、これのみを削減対象にするのはかなり危険である。仮に、そのような手法で一時的に在庫が削減されたとしても、すぐにまた元に戻ってしまうことだろう。

 とはいえ、サプライチェーンの最適化を進める際に、その目標の中に在庫削減を含めないというのでは、逆にSCMとは呼べない。したがって、この「在庫」をどのように認識しているかが、SCMの本質を理解しているかどうかを測る試金石であると筆者は考える。

 在庫は、サプライチェーン内における複数の連鎖業務の連携で増減するものである。したがって、在庫管理とは複数業務のマネジメント、すなわち全体最適指向によって実現されるものだと言える。サプライチェーンを交通の流れに見立てれば、在庫は車間距離に相当する。車間距離が前後2台の車の速度差で増減するように、在庫は連鎖する複数業務の速度制御(稼働率)によって上下するのである。こうした視点に立ち、在庫削減と稼働率向上の相矛盾する関係を解決しなければならないのである。

【神話2】「SCM=需要予測」である

 現状における経営の問題解決セッションの中で、「なぜ在庫がたまるのか」、「なぜ欠品が起こるのか」といったことの原因を、現行のビジネス・モデルを維持した状態で追究していくと、多くの企業では「需要予測が外れる」という結論に行き着く。ゆえに、欠品や過剰在庫をなくすには、まず第1に需要予測の精度を上げることが必要だ──と短絡的に考えられがちである。その結果、需要予測エンジンの調査や需要予測ロジックの研究に、必要以上に邁進してしまう企業が少なからず見受けられる。

 需要予測に熱心に取り組むのは結構だが、データの整備やロジックの検証ばかりにエネルギーを費やしていると、往々にしてSCM本来の目的を見失うおそれがある。そのうえ、現時点では完璧な需要予測などまずありえない。したがって、完璧を目指せば目指すほど、果てしないデータとの格闘が続くことになるのだ。

 そのような努力を続けるくらいなら、ほかに確実な手がいくらでもある。例えば、実需に応じて製品を組み立て、製品在庫を極力持たないBTO(受注組立)方式を採用するなどといった、ビジネス・モデルの再設計がその1つだ。

 需要予測のみに頼ったSCMは、的との距離を短縮せず遠くからひたすら射撃を行っているようなものである。だが多くの場合、「どこから撃ったらいいのか」という、自社のポジショニングを定めることのほうが肝要であることが多くなっている。

【神話3】SCMはIT(パッケージ・ソフト)を導入することである

 SCMという名のソフトウェア(IT)導入の成功が、そのままSCMの成功につながるとは限らない。システムが動いても経営を動かすことまではできないのと同じだ。ソフトウェアを導入すれば、サプライチェーンのBPRが実現できるとアピールするITベンダーは少なくないが、そうしたマーケティング手法を責めてばかりいても始まらない。

 SCMを本気で推進しようとするのであれば、プロジェクト・メンバーひとりひとりが、ITベンダーやSIベンダー任せではなく、主体的に新たなビジネス・モデルを創造するというくらいの気概を持つことが必要である。仮に、外部のコンサルタントに頼る場合でも、あくまでも自社のスタッフにそのような信念を持たせたうえで支援を受けなければならない。一から十まで外部任せというようなプロジェクトでは、成功はおぼつかないと覚悟すべきであろう。

 自社のビジネス・モデルの成功要因(KFS=Key Factor for Success)をしっかりと定義したうえで、SCMのメカニズムの本質から、ITを活用することである。プロジェクト・メンバーを選ぶ際にも、「どこかで似たようなシステム構築プロジェクトに参加したことがあるかどうか」、「経験が豊富かどうか」といった問題にこだわるのではなく、「問題解決のための本質的なアプローチを心得ているかどうか」を見極めることのほうがはるかに重要である。

【神話4】SCMはトータル・コストを下げる

 集中生産をすることで製造コストは下がっても、広く分布している販売拠点への物流コストが上がる、輸送コストが下がっても、今後は配送コストが上がる──というように、コスト要素は相反する動きをするものだ。それらをトータルに把握して全体のコストを下げるのがSCMの役割であると認識している企業も多いが、実はこれも神話であると言える。なぜならコストは下がっても在庫は減らない、在庫が下がってもコストは上がるといったように、在庫とコストは在庫と稼働率の関係と同様、相矛盾する要素であるからだ。

 それに、コスト削減だけを目的とする改革ならば、ほとんどの企業でこれまでも継続的に取り組んできたはずである。そう考えると、今さらSCMのテーマで蒸し返す必要はないのではないかという気もする。コストと在庫などのようなトレードオフの関係(相矛盾する関係)を解決するには、従来の手法ではなく何らかの革新なり、違う視点での発想を必要とする。筆者は、SCMの全体最適の革新としての速度制御の問題としてとらえる必要があると考えている。

【神話5】SCMはどこかの成功事例を持ってくればいい

 たとえ同じ業界に属していても、会社が違えばサプライチェーンの事情がまったく異なる場合も少なくない。筆者の知る企業では、どこかの成功事例を押しつけられたことで、せっかく自社の事情を独自に反映した自信作が無視されたことにより、反発が生まれたりやる気が損なわれたり、さらにはプロジェクトへの不信感が生まれたりし、その結果失敗の憂き目を見るケースも過去にあった。自社の社員の独創性より、知名度の高いITベンダーの(内部の事情を知らない)コンサルタントを重視するケースも多々あったが、そうしたことは無駄な投資であるばかりでなく優秀な社員のやる気を喪失させるという2重の損失にもつながるので極力避けなければならない。自社の現場・現実を理解したうえでSCMの本質からアプローチすることが重要である。

 以上の「SCM5つの神話」に対して、筆者が、前掲書の第1に挙げたのは「在庫は時間である」というコンセプトである。理屈っぽい話で恐縮だが、SCMにITを活用して、さらにそれをモデル化しようとするのであれば、多少なりとも理論が必要である。その理論を解説するのは本論の主旨ではないが、種明かしをすれば、ベストセラー小説「ザ・ゴール」で有名なTOC(制約理論)と日本発のJIT(ジャスト・イン・タイム)、TQC(総合的経営品質改善)、TPM(トータル・プロダクティブ・マネジメント)をハイブリッドして(混ぜ合わせて)エキスを取り出したまでだ。


日米のSCMの違い
 SCMの重要性は世界共通である。とはいえ、そのアプローチを、例えば日米間で比較すれば、多少なりとも違いが出てくることは確かである。SCMは、基本的にデマンド(需要)への対応方法として出発しているため、日米におけるSCMの違いは何かと問われれば、それはすなわちデマンドを発生させる顧客、つまり末端となる消費者の特徴の違いを観察することがその答えになると考えていいだろう。

 また、SCMのコンセプト自体は確かに米国で生まれたものだが、その特徴を表すデマンドの仕組みは、表2に示すように日本のほうがはるかにSCM的であるとも言える。コストでは割り切れない“時間”に対してメンタルな切迫感を持っているのは、せっかちな日本人の気質でもあるし、「お客様は神様です」の精神構造も“近江の御用聞き商法”として古くから確立されている。また、メーカーと資材ベンダーといった売り手と買い手の関係を見ても、日本企業の場合は系列的なものとなっているケースが多く、法の下で対等なパートナーとなっている米国とは大きく異なる。


表2:日米におけるSCMの相違点






【日本】
【米国】


顧客満足度への執着
お客様は神様です
消費者権利


消費スタイル
多頻度購買
週サイクル・ショッピング


消費者と小売業者との関係
鮮度重視
コスト重視


メーカーと資材ベンダーとの関係
顧客のライン停止はあってはならない
対等なパートナー




 実際、カスタマー・サティスファクション(CS)という20世紀後半に流行した経営用語は、元GE会長のジャック・ウエルチ氏が日本企業を意識して命名したものである。また米国では、トヨタで始まったJITが国際用語としてリーン・プロダクションとなった。「次工程はお客様」という引っ張り方式(プル型)によるサプライチェーンのコンセプトも日本が発祥の地である。

 米国では、インターネット・バブルがはじけたとはいえ、消費経済は依然として強い。しかも、その内実は相変わらず大量消費経済である。まとめて買ったほうが価格は安いし、まとめて運べば物流コストも下がる。それに加えて倉庫を建設する土地の値段も安いため、大型の物流センターが全米中に建設され、稼働率とコストを基準とするサプライチェーンが形成されることになる。そのような生産性重視の姿勢の下では、当然ながらSCMもシステム指向に傾く。

 だが、ここにきてそうした米国型SCMも1つの曲がり角にさしかかりつつある。本誌CIO Magazineの2001年12月号に掲載された「シスコの教訓」では、最先端の需要予測システムを有していたはずの米シスコシステムズが景気交代を予見できず、大きな損害を被った事例が紹介された。「いくら優れたシステムであっても、販売担当者の心中を察するすべまでは持っていなかった」、「あまりにも高度な需要予測技術を売り物にしていたので人間の判断力や直観力が軽視されパートナー同士の率直な意見交換の場が持てなくなった」と、ITありきのSCMの問題点が描かれている。今、必要なのが「コンピュータのスクリーンから1度目を離し、窓の外に目を向けること」であるというのは、多くの米国企業に共通して言えることである。

 一方、日本では供給過剰の状況が続き、経済も長期低迷を続けている。このような不況下で求められる経営とは、需要不足でもキャッシュに不足なくサプライチェーンを回すことにほかならない。具体的には、需要を喚起しつつ、求められるモノを最小の資金で供給することが必要となっているのだ。そうした状況下での需要喚起は、毎年ヒット商品を出し続ける自信がないかぎり、「お客様は神様です」という御用聞き経営によってしか生まれない。かつての工業時代、技術力に自信のある会社は「売ってやる」という強気の姿勢で経営を行うことも可能であった。しかし今、かつての“優等生”ほど過剰在庫に窮々としている。生き残るためには、製造業も流通業も需要喚起とリーンなサプライの仕組み作りに励まざるをえない。まさに日本的経営モデルとはSCMなのである。

 米国型SCMであっても、よく見ると、本質を突いたものほど日本型に近い性質を持っている。現在、日本に紹介されている「SCM」は、その多くがマス・プロダクション時代の経営論であると筆者は見ている。かつて日本企業が持っていた経営理論は、決して時代遅れではないのである。


SCM戦略立案のポイント
 サプライチェーンをモデル化する際のフレームワークとなるのは、供給連鎖の要素である供給業務の能力(速度)と連鎖業務間の在庫である。図1に示すように、企業の業績指標としてのキャッシュ・フローはキャッシュという在庫から資材、仕掛、製品、売掛金という在庫を経てキャッシュに戻るという「キャッシュ・フロー・サイクル」を形成している。心臓から血液が全身を巡って再び心臓に戻るように、キャッシュが購買活動で資材に変換され生産活動で製品在庫に変換され、販売のサプライチェーンを巡ってキャッシュとなって企業に戻ってくるのである。




 従来型の効率化やコスト削減をねらった経営改善は、キャッシュの循環を目的としない部分最適の経営論であると言える。生産効率を上げて低コストで製品を作ることばかりに専念すれば製品在庫がたまり、資材コスト低減に邁進すれば今後は資材や仕掛在庫が増大するというジレンマを抱えていた。このように、局部的コスト削減を当面の目的とし、キャッシュ増大という全体最適を志向していない考え方では、真のSCMは実現できないのである。

 以上のように、フレームワークを基にSCMを定義すると、従来のIT化において常識とされてきた「情報」、「業務プロセス」、「組織」、「アプリケーション」という枠組みによって「業務を自動化する」といったものとは、方向性がかなり異なることが分かるはずだ。SCMの対象は「業務(プロセス)」ではなく、あくまでも「ビジネス」である。したがって、ビジネス設計までをも含めたかたちでSCMをとらえることこそ、成功の秘訣であると言える。

 SCMについての神話の項でも触れたが、対象とするシステムを業務プロセスとして見るのではなく、キャッシュを循環させる“ビジネス生態系”と見なすことがSCM戦略立案のポイントとなる。図2のように、業種を超え企業組織を超えて業務(能力)と在庫の交互の連鎖からなるサプライチェーンの経営資源の速度を同期化させることがキャッシュ・フローの増大につながり、逆に連鎖業務の速度がバラバラであれば過剰在庫と機会損失で流れが滞る。SCMの理論武装は、このように能力と在庫でモデル化することからスタートさせるべきであろう。




SCMにおけるITの役割
 SCMをキャッシュを循環させるビジネス生態系、もしくは「生きモノ」と見なすということは、とりもなおさず企業が、その生態系における食物連鎖ならぬ「供給連鎖」の中で、生き残りをかけてビジネス・モデルを進化させなければならないということである。実際の生態系の中でも、生物たちは生き残るために戦いを避けるか、あるいは有利に戦うために姿を変え、場所を変え、場合によっては餌すらも変えて進化してきた。まさにそれと同じことが企業にも求められるということである。

 一般的に我々人間を含めた「生きモノ」は、筋肉や骨格系、血液の循環を担う循環器系、食物を消化する消化器系、中枢神経と抹消神経をつかさどる神経系の枠組みでモデル化できる。生きモノ全体の制御を担うのは自律神経を含む神経系である。企業におけるSCMも、キャッシュ・フローを円滑に循環させるために、企業の「筋肉骨格系、循環器系、消化器系」である生産・物流・販売系を動かす神経系の役割を担っている。それを具現化する手段がITであると考えてよいだろう。

 自律神経や中枢神経が、階層構造ではなくネットワーク構造になっているのも、最近のインターネットを中心とするITインフラとの共通点である。先に挙げたSCMに関する誤解や失敗は、中枢神経のみですべてをまかなおうとしたり、神経系、あるいは筋骨格系のみで生きモノを動かそうとしたりする視野の狭さによるものであると言える。各部署や個人が意思決定を下せる自律神経を設計、利用できなければSCMの成功はおぼつかない。

 それでは、企業における理想的な神経系とは何なのだろうか。筆者は、システムや飛行機を運行する制御系モデルに近いものがそれに当たると考えている。制御系の設計には駆動装置やサーボ機構への理解が欠かせない。力学的数値を制御系に組み込むことが不可欠だからだ。サプライチェーンの制御系であれば、生産速度や販売速度、在庫時間などの数値制御が不可欠になる。

 現時点では、企業のサプライチェーンの数値を全域で把握できるシステムは、在庫や原価計算などを行う会計システムや生産管理システムであると言えよう。もちろん、それらの数値の持つ経営上の意味合いを理解するには、経営の本質が分からなければならない。サプライチェーンのオペレーションは、いつ何をどれだけ作るか、買うか、運ぶかという現場レベルでの判断や実行のメカニズムが基になっている。生産計画のMRP(Material Requirement Planning)からスタートしたERPと、生産スケジューラから発展したAPS(Advanced Planning and Scheduling)を比べると、後者のほうが日本型生産管理に近いきめ細かな制御系を構成する(図3)。言うなれば、ERP型はタイム・バケットの長いオープン制御系であり、APS型は計画サイクルの短い生産・販売を同時に計画するコンカレント・プラニングに相当するのである。




 生産をサプライチェーンの中核に置いた場合、資材・物流・販売の計画や意思決定の巧拙はキャッシュの流れに如実に反映される。ITはその判断を的確に下すために、制御の情報をつかさどるという重要な役割を担う。

 また、ITの活用によって見込まれる効果はもう1つある。企業におけるSCMの位置づけをおおまかに分類すれば、情報の流れは「分断」と「共有」、組織内の意思決定は「中央集権」と「自律分散」とそれぞれ2種類ずつあり、合わせて4つの組み合わせが考えられる(図4)。ITを効果的に活用すれば、図の右下の象限、つまり「情報をすべてのスタッフで共有し、個人レベルで自律性を持った意思決定を下す状態」に持ち込むことが可能になり、結果的に関係スタッフが「目標、状況、予測」といった情報を共有する強固な組織を形成することになるのである。




望まれる“型破り”のCIO
 以上のように、SCMにおけるITの役割が高まるなか、当然ながらSCM戦略を実現する立場にあるCIOの責任もますます重くなっている。ここまで述べたように、ビジネス戦略とSCM戦略はかなりの部分で重なっている。CIOは、CEOが的確に意思決定を下せるために必要な情報を提供するだけではなく、中枢神経や各部署・各社員の自律神経の仕組みをも整理したうえで、組織が機能するためのグランド・デザインをするという役割も持っている。また、自社の市場でのポジショニングを考えたうえで企業戦略としてSCMの構想を描けるデザイナーになるためには、官僚組織の中でうまく組織を動かす政治家としての一面も求められるだろう。

 現在、自らの役割の重要性を認識しているCIOは、積極的にビジネスにかかわろうとしている。自ら事業経験を積んでいたり、あるいは生産や営業の業務経験を持つ社員をITスタッフに加えたり、さらには各事業部門の現場スタッフをITプロジェクトに巻き込んだりといった手法を通じて、ビジネス全体のポイントを押さえているのである。また、なかにはITスタッフをITに限定しないビジネスの社内コンサルタントとして育成している企業もある。

 ただし、理想のエンジニア、CEO、CIO像を描くことは簡単だが、その立場にあるのはしょせんは生身の人間だ。スキルや知識よりも大切なものは、外部の借り物ではなく自社のビジネス・モデルを独自に描こうとする気概ではないだろうか。
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