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サプライチェーンの全体最適化を図る国内アパレル業界
業界標準構築へ、取引慣行にメスを入れよ
関連トップページ:SCM/設計製造
日本のアパレル(衣服)業界は、長い間、前近代的で非効率な商慣行の下で取り引きを行い、そこで生じるリスクをすべて商品単価に上乗せさせてきた。つまり、業界各社は“反・顧客主義”的なビジネスを長く展開してきたわけだ。しかし、ここ数年の深刻な不況はアパレル各社にも深刻な打撃を与え、業界全体が構造改革の必要に迫られている。その帰結として、にわかに活発化してきたのが、IT(情報技術)を駆使したビジネス・フロー改革の動きだ。本稿では、そうした業界各社の取り組みを紹介する。それを通じて、日本のアパレル業界が目指すべき方向性について考察したい。
三田村蕗子 text by Fukiko Mitamura
リスク回避のビジネス・モデル
日本におけるアパレル産業の歴史は古く、その市場規模は、紳士服や婦人服、子供服のほか関連製品を含めて10兆円台の後半から20兆円(小売価格ベース)と推測され、きわめて巨大な市場である。
ただし、その規模は、いわゆる「平成不況」に入ってから、一貫して縮小傾向にあり、業界各社の内実はきわめて厳しい。しかも、アパレル業界は関連する企業も非常に多く、その大半を中小企業が占めているのが特徴である。そこでは商品の製造/流通プロセスに多数のプレーヤーが介在し、前近代的で非効率的な取引形態が長い間維持されてきた。そうした“構造的な欠陥”も、ここ最近の不況によって、一挙に噴出する格好になっている。
こうした構造的な欠陥の1つに、小売り側とアパレル企業(アパレル・メーカーや卸売会社など)間の旧態依然とした取引形態がある。
例えば、小売り側が、アパレル企業から商品を仕入れるとしよう。その際の形態は大きく3つに分かれる。それは、「買い取り仕入れ」と「委託仕入れ」、および「消化仕入れ」だ。
このうち、「買い取り仕入れ」は、小売り側がリスクを負って商品を仕入れ、販売するというものだが、この形態が取られるケースはきわめて少ない。つまり、大抵の場合は、「委託仕入れ」や「消化仕入れ」といった形態の取り引きが行われてきたわけだ。特に、百貨店がアパレル企業と取り引きする際には、ほとんどのケースで「委託仕入れ」が選択されてきたのである。
「委託仕入れ」とは、「売れ残った商品については、すべて返品が可能」という形態であり、小売り側は販売上のリスクを一切追わない。また、「消化仕入れ」にしても、店頭で売れた分を仕入れとして計上するといった形態であり、売価の決定責任も在庫のリスクも、商品の納入元であるアパレル企業が負う。つまり、小売り側のリスクは完全に排除されているのである。
こうした構造はアパレル企業側に、大量返品への強い警戒心を植え付けてきた。そのため、彼らは、納入量を極力抑えようとし、結果的に、小売り側が商品の販売機会を逸することもしばしばであった。しかも、アパレル各社は、あらかじめ返品分を見越して、それを納入価格に上乗せするという戦略すら取ってきたのだ。
当然のことながら、そのリスクを最終的にかぶるのは、商品を購入する側、すなわち消費者となる。つまり、アパレル業界は、いわば、小売り側とメーカー側の双方が、両者の事業リスクを顧客に追わせるようなビジネル・モデルを温存させてきたのである。
口約束の契約形態
このようなビジネス・モデルは、小売り側とアパレル・メーカー間のずさんな契約形態ももたらした。
実を言えば、小売り側とアパレル企業間ではこれまで、取り引きに関する契約書が交わされるケースはほとんどなかった。つまり、取り引きの大半が“口約束”に基づいて行われてきたわけだ。しかも、この口約束がその言葉どおりに履行されることもまれであり、「発注した商品が、約束どおりの数量で納品されない」といったことが当たり前のように行われてきたのである。
こうした商習慣を生んだのも、大量返品を回避するというアパレル企業側のスタンスにほかならない。つまり、彼らが約束どおりに商品を納入しないのは、大量返品に対する「予防線」を張るための手法であったわけだ。
さらに、リクス回避の努力を続けながらも、アパレル企業は商品の慢性的な余剰在庫にも悩まされていた。というのも、商品販売の責任を追わない小売り側が、その販売力を低下させてしまったからだ。
こうしたことから、商品の供給側には余剰の在庫がたまっていき、それを処分するためにバーゲン・セールの頻発を余儀なくされた。その結果、業界各社の収益構造は悪化の一途をたどったのである。残念ながら、このような業界の構造は、依然として大きく改善されていない。
しかし、景気が長い低迷期に入った今日、このような“反・顧客主義”的なビジネス・モデルを維持し続けるのは、もはや不可能であり、現実的ではない。実際、「ユニクロ」ブランドで知られるファーストリテイリングのように、旧態依然としたアパレル業界の体質とは一線を画するかたちで、劇的な成功を収めている企業も増えている(囲み記事「column:ユニクロの成功とリスク」を参照)。
こうした事情を背景に、日本のアパレル各社も、ようやく商品の製造/流通プロセスを全体的に見直し、それを改革する作業に乗り出したのである。
COLUMN:ユニクロの成功とリスク
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IT化を阻む壁
言うまでもなく、上のような改変を推進していくうえでは、ITの活用が必須となる。
ところが、日本のアパレル各社のIT化は、一部の大手(または新興企業)を除いて、かなり遅れている。とりわけ、取引業務におけるIT化の遅れは顕著だ。
この状況を生み出した最大の要因は何なのか。それはもちろん、先にも触れた「口約束を起点にした取り引きのプロセス」だ。このような、前近代的な取引形態が業界に蔓延していれば、そのIT化が遅れるのは当然の帰結と言えるだろう。
また、アパレル業界には、中小規模の企業が数多く存在しているが、それも業界全体のIT化の足かせになってきた。確かに、中小の企業にすれば、取引業務のIT化を個別に進めるのは資金的にも人的リソース的にも困難である。しかも、これまでは、IT投資に対する見返りもそれほど期待できなかった。それゆえに、多くの企業が、IT化にきわめて消極的であったのである。
さらに、アパレル業界における商品製造工程の複雑さや多様性も、取引業務の標準化とIT化を遅らせてきた一因と言える。
例えば、糸を生地に仕立て、既製服に仕上げる工程だけをとらえても、その製造フローは複雑で、かつ長期にわたり、介在する企業も多種多様となる。そうした工程内の取り引きを標準化し、IT化するのは、実に難しいのだ。
加えて、ファッション関連の商品は、ライフサイクルが短い割に、生産から店頭に至るまでのリードタイムが比較的長い。こうした商品特性も、業界各社がIT化に無頓着でいられた要因かもしれない。
業界団体が進めるEDI
以上のような課題を抱えながらも、日本のアパレル業界は現在、ITによる取引業務の効率化へ向けて徐々に前進しつつある。彼らの取り組みとは具体的にいかなるものなのだろうか。
その1つは、アパレル業界と百貨店業界、およびテキスタイル(織物)業界を標準的なEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)ネットワークによって相互に接続し、それぞれの取引業務をオンライン化するという試みだ。この取り組みの中心となり、基盤整備を進めているのは、主要なアパレル・メーカー、327社が加盟する日本アパレル産業協会(JAIC)である。
実のところ、JAICは、百貨店とアパレル・メーカー間の取引フローの標準化と迅速化(つまり、商品の早期発注/納品の実現)を目指し、8年前から「QR*1コードセンター」を立ち上げ、それによるEDI化を進めてきた。しかし、その試みは、思うような進展を見せてこなかったという。
JAIC参事の中曽根晟二氏は、その辺りの理由をこう説明する。
「各社のEDI化を阻害してきた要因は大きく2つある。1つは、EDIネットワークの利用料金が1企業当たり年間200万円と高額だったこと。もう1つは、EDIシステムの標準化がなされていなかったことだ」
そこで、JAICが独自に開発したのが「JAIC固定長共通フォーマット」と呼ばれるEDI用の業界標準メッセージである。
そもそも、百貨店側のEDIフォーマットには、各社でバラツキがあった。例えば、丸井のEDIシステムは国内標準のCII仕様に準拠し、三越のそれは国際標準のEDIFACT仕様に準拠する、といった具合だ。このような状況にアパレル側が対応していくには、各百貨店のEDI仕様に合わせたシステムを構築するしか方法はなかった。
しかしながら、体力のない中小規模のメーカーにとって、そのようなシステム作りを進める資金的な余裕はない。結果的にEDI化を断念せざるをえなくなったのだ。
このような問題を解決するために、JAICはまず、百貨店/アパレル間のあるべきビジネス・プロセスを想定し、項目の絞込みを行った。そのうえで、アパレル業界共通のEDIメッセージ(つまり、JAIC固定長共通フォーマット)を開発し、それと各種のEDIフォーマットを相互に変換するシステムを導入した。これにより、アパレル・メーカーは、百貨店側の各種EDIシステムへ個別に対応せずとも、各社とのオンライン取り引きを行うことが可能になったのである(図1)。
ただし、百貨店とアパレル・メーカーを結ぶ現状のEDIシステムは、メインフレーム同士を連携させた閉鎖的な環境であり、導入の敷居も高い。そのため、中小のアパレル・メーカーへの普及は、今もさほど進んでいない。そこで、JAICでは、EDIネットワークのWeb対応化(つまり、Web-EDI)の導入を計画しているという。
図1:JAICが推進する各標準フォーマットとJAIC固定長共通フォーマットの相互変換サービス
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契約書の“モデル”を示す
もっとも、EDI用の共通フォーマットが開発され、そのネットワークがWeb化されたところで、「口約束」による不透明な取引形態がそのままであれば、アパレル企業の取引業務が完全にEDI化(オンライン化)されることはないだろう。実際、中曽根氏も、その辺りの問題点をこう指摘する。
「EDIの目的は、企業間の契約文書を電子化し、取引業務を効率化することにある。したがって、契約内容が文書化されておらず、その履行の順守も徹底されていないようなビジネス・フローにEDIを持ち込んだところで、何の意味もない。ところが、残念なことに、そのような取引形態が、アパレル各社には根づいているのだ」
業界の構造的な欠陥を抜本的に解消するために、JAICは1つの施策を展開することにした。それは「モデル契約書」の作成だ。
現在、JAICは、日本百貨店協会と手を組み「FBA(ファッション・ビジネス・アーキテクチャ)」と呼ばれるビジネス・モデルの構築プロジェクトを推進している。これは、百貨店とアパレル各社が商品の需要予測/販売計画情報を互いに共有し、業界全体のサプライチェーンを最適化するというプロジェクトだ。
上の「モデル契約書」は、このFBA構想に沿って作成された取引契約の雛型である。ここでは以下のような情報の明示や、取り決めが義務づけられている。
●百貨店側の商品消化率
●アパレル・メーカー側の納入数量
●未消化商品についての百貨店側のリスク負担
●アパレル・メーカーによる納期と数量の順守
ただし、これはあくまでもガイドラインにすぎず、強制力はない。契約とは本来、企業ごとに個別に交わされるものだからだ。
となれば、リスク回避の体質が根づいているアパレル各社や小売り側が、上のような契約モデルをすんなり受け入れるとは考えにくい。しかし、中曽根氏は、その指摘にこう反論する。
「明確な契約が交わされなければ、メーカー側は適正な数量でモノを作ることはできない。また、商品の供給側が(返品を恐れて)納入数量を抑えれば、小売り側が販売機会を逸する回数は自ずと増える。それはすなわち、アパレル/百貨店の双方にとっての損失を意味するのだ。今日、そうしたことに、アパレル各社も小売り側も、ようやく気づき始めている。ゆえに、我々が策定した契約書モデルが広く受け入れられる可能性は高い」
ちなみに、JAICでは、百貨店とアパレル各社間の取り引きの実態を調査し、その後、3段階に分けた契約書モデルの導入プログラムを今年8月ごろから展開するという。
業界向けASPサービスの効用
一方、IT業界の技術革新と、それに伴う新サービスの登場も、アパレル業界のIT化を後押ししつつある。
例えば、そうしたITサービスの1つに、2002年2月にスタートを切ったアパレル業界向けのASPサービス「CollaboAgent(コラボエージェント)」がある。
これは、中小企業総合事業団が1997年から推進してきた「QRコードセンター向けデータベース・サービス」を土台にしたもの。このサービス事業は、その後、富士通に移管されたが、それを基盤に同社が始めたサービスがCollaboAgentである(図2)。
CollaboAgentは、商品情報や取引条件などを管理するデータベース・サービスを提供するASPサービスであり、その基盤となった旧来サービスに比べ、いくつかの点で機能が拡張されている。その中で特に大きな変更点は、もちろんインターネット・テクノロジーの全面的な採用だ。以前のサービスは、VAN回線や専用線を介したものであり、それを利用するには専用の端末アプリケーションが必要とされていた。しかし、CollaboAgentでは、インターネットと標準的なWebブラウザを通じて、各種のデータベース・サービスが提供されるようになっている。また、従来システムでは、商品情報が文字ベースでしか表示されなかったが、CollaboAgentではこれに画像情報が加えられている。サービス料金の面でも、中小規模の企業が導入しやすい低価格な設定となっているようだ。さらに今後はSCMなどの拡張機能サービスを展開していくという。
とはいえ、今年2月の事業開始時点では、Collabo Agentのユーザー企業は、旧サービスの導入企業のみにとどまっている。具体的には、小売り側が丸井、伊勢丹、松坂屋、阪急百貨店などの計6社、アパレル側はオンワード樫山や三陽商会、ナイガイ、ダーバン、イトキン、フランドルなど計68社だ。これは、CollaboAgentが開設後間もないサービスであることを考えれば、当然と言えなくもない。しかし今後、同サービスが業界の標準基盤として成長していくには、ユーザー層の拡大が求められるところだ。
図2:CollaboAgentのサービス概要
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XMLベースのコミュケーション基盤
アパレル業界向けのIT基盤サービスとしては、CollaboAgentのほかにもう1つ注目に値するものがある。それは、イー・シャトルの「ApparelArc(アパレル・アーク)」だ。これは、素材/テキスタイル・メーカーとアパレル・メーカー間の取り引きをXMLを軸に効率化するためのプラットフォームであり、ターゲット領域の面で、上述したCollaboAgentとは一線を画している。
ApparelArcはもともと、2000年7月に設立された非営利団体、QR-XML普及協議会(設立当初の名称は「Apparel Arc-XML普及協議会」)が立ち上げたサービス・プラットフォームであった。その後、昨年11月にイー・シャトルが設立され、ApparelArcの事業運営が同社に移管された。
現在、イー・シャトルには計33社が出資しており、その中には、NTTコミュニケーションズや蝶理コム、伊藤忠商事、丸紅のほかに、オンワード樫山やイトキン、ナイガイなどのアパレル・メーカーも名を連ねている。
ApparelArcを通じたイー・シャトルの主な事業内容は以下のとおりである。
●XMLベースのEDIプラットフォーム(コミュニケーション・プラットフォーム)の提供
●企業間の情報共有を起点にしたSCM(Supply Chain Management)サービスの提供
●商品掲示/検索サービスの提供
事業展開のねらいを、同社の代表取締役副社長、佐伯雅晴氏は以下のように説明する。
「繊維/アパレル業界のIT化は20年前から進められてきたが、それは各社個別の取り組みすぎず、取引先との発注/契約で使う用語もバラバラだった。そうした『言葉』を統一して、標準技術のXMLを用いた企業間コミュニケーションの共通基盤を提供することが、我々の使命であり、戦略だ」
同社は現在、XMLベースのコミュニケーション・インフラの運営と提供を事業の柱としており、その基盤上に乗せる個別の業務システムについても、段階的に提供していく構えだ。
ApparelArcのユーザー企業(参加企業)はすでに140社を数えており、その構成はアパレル会社とソーイング(縫製)会社、およびテキスタイル会社が、それぞれ3分の1ずつを占めるといった格好だ。また、こうしたユーザー企業を1,000社にまで拡大することが、イー・シャトルの当面の目標として設定されている。
「コミュニケーション・インフラの必要性に対する認識は、アパレル・メーカーやテキスタイル・メーカー、さらにはソーイング各社の間で、かなり深まりつつある」と佐伯氏。ただし、そうした共通基盤を通じて取引業務の効率化を図ることに対しては、各社間で見解の相違が顕著に見られるようだ。というのも、取引業務のIT化においては、どういったシステムを導入すれば効果が上がるのか、もしくは、その費用対効果はどうなのか、といった辺りが見えにくいからだ。
「よって、我々にとって重要なのは、成功事例をいち早く作り、そのモデル・ケースを起点にユーザーの裾野を広げていくことだと考えている。最終的には、業界における取引プロセスのデファクト・スタンダードを確立させたい」(佐伯氏)
同社では、すでにいくつかのモデル・システムを構築しており、その1つ「ATネット」は男性用衣料の分野で活用されている。これは、アパレルとテキスタイルの業界各社を相互に結び、生地から衣服までの生産管理を行うサービスである。
業界ポータルの展開
このほか、昨年3月に登場したコロモ・ドット・コムもアパレル業界のIT化を語るうえで、忘れてはならない存在だ。
同社は、オンワード樫山や三陽商会、サンエーインターナショナル、ファイブフォックス、ワコール、東レ、帝人、丸井、三井物産、三菱商事、住友商事、さらにはNTT-Xの計12社の出資によって設立された企業だ。現在、ファッション業界のポータル・サイトの構築やIT化を支援している。
同社で代表取締役社長を務める斉藤恒夫氏は、自社の目的とねらいをこう説く。
「我々の最大のミッションは、日本のファッション情報を世界に向けて発信することにある。ファッション関連企業は、IT活用の面で他業界の企業に遅れを取ってきた。だからこそ、ファッション業界全体の情報を発信する、我々のような組織が必要とされたのだ」
コロモ・ドット・コムのポータル・サイトでは、動画の導入など、ビジュアル面でのさまざまな工夫が凝らされているほか、ファッション産業の活性化に向けた提言コラムや、業界人へのインタビューなども掲載されている。また、日本やアジアから世界へ向けてのファッション・トレンドの発信や、世界各国のストリート・ファッション情報の提示、さらには、国内外のイベント/展示会の情報提供なども併せて行われている。
しかし、ここに至るまでには相当な試行錯誤があったようだ。斉藤氏は言う。
「我々は、昨年7月に仮サイトを立ち上げたが、サイトの運営だけでは業界で広く認知されるのに限界があることが分かった。今後は、求人情報ページの開設や、テナントとディベロッパーのマッチングなど、さまざまなサービスを提供していくつもりだ」
さらに、同社は、ITベンダーが提供するパッケージを土台にして、今後は業界各社の個別要件に沿ったSCMシステムやCRM(Customer Relationship Management)システムの構築サービスも展開する計画である。
「日本のファッション業界では、社員のインターネット環境すら整えていない企業が少なくなく、生産管理や販売管理のシステム導入に失敗した会社も多い。そのせいか、業界各社の大半は、IT化には消極的だ。そこで当社ではまず、実世界のビジネスとインターネットの世界をリンクさせるようなサービスを用意し、のちにCRMやSCMを実現する安価なソリューションを提供していくことにした。こうすることで、業界全体のITリテラシーを向上させることができるはずだ」(斉藤氏)
いかに連携を図るかがカギ
以上のように、アパレル業界のIT化を促す動きは、さまざまなかたちで活発化しつつある。むろん、それぞれの取り組みには差異はあるが、互いに重なり合う部分も少なくない。また、それらの本質的な目的も同一だ。
すなわち、1つ1つの取り組みは独立したものだが、業界の古い構造を打ち壊し、素材の調達から商品の生産、卸売り、さらには小売りに至る一連の取引プロセスの全体最適を図ることこそ、上述した種々のサービスの共通のゴールなのだ。
だとすれば、業界各社にとって、そうしたサービスやインフラは一本化されるほうが望ましいはずだ。実際、そのほうが取り引きの円滑化を図るうえで、手間もコストもより少なくてすむ。そして何より、利用する側であるアパレル企業にとってITの仕組みがより分かりやすいものとなるのである。
それではなぜ、アパレル業界のIT化を推進する複数のサービス、ネットワーク・インフラが存在しているのだろう。
1つの理由としては、業界を構成する企業の種類、そして規模が多岐にわたるという点が挙げられよう。それゆえに、業界全体を網羅するIT基盤サービスを構築し、運営していくには莫大なコストや手間がかかるのである。
また、上述したIT組織のいくつかが、異なる行政団体を母体に生まれたことも、基盤サービスの分散化をもたらした一因と言える。
さらに、各組織の背後には、それぞれ主導権を握るITベンダーが存在することも、もう1つの理由として指摘できる。それゆえに、各組織間で、ある種の競合関係も生まれているのだろう。
もっとも、背景事情はどうあれ、業界各社を横断したIT化の取り組みが、複数のサービスや組織、ソリューションによって実現されるというのは、決して好ましい図式とは言えない。よって今後は、それぞれの取り組みにおいて、システム的な相互連携が求められることになろう。仮にそれに失敗すれば、アパレル業界としてサプライチェーンの全体最適化を図ることは不可能となるのだ。
ちなみに、先の記述からも分かるとおり、オンワード樫山などのアパレル・メーカーの多くは、複数の取り組みに重複して参加している。そうした企業がリーダーシップを発揮していけば、最終的には異なるITサービスが1つに統合される可能性は十分にある。
ところで、読者は、古くからある大手アパレル・メーカーの中で、ワールドの名が上述したいずれの取り組みにもないことに、気づかれただろうか。
実は、同社はアパレル業界の先陣を切ってSPA(アパレル製造/小売りの統合事業:詳細は左ページ囲み記事を参照)に乗り出したメーカーであり、独自のシステムを構築してSCMに意欲的に取り組んでいる。そうした事情から、ワールドは、業界全体を対象にしたIT化の取り組みから一定の距離を置いているのかもしれない。
とはいえ、アパレル商品の資材調達から小売りに至る長い工程を考えれば、それを完璧に自己で完結しうるとは考えにくい。必ずそこには、中小規模のさまざまな企業との取り引きが絡んでくるはずだ。そして、業界全体を巻き込んだIT化の取り組みは、中小規模の企業にもIT活用の門戸を開き、標準的な取り引きのフローを確立することを目的とする。というのも、それがあって初めてアパレル業界の活性化が約束されるからだ。
将来的に、こうした業界の取り組みが浸透していけば、現在は独自路線にシフトしている企業も巻き込んで、業界全体でのコラボレーションが実現する可能性もあるだろう。
(CIO Magazine 2002年5月号に掲載)
業界標準構築へ、取引慣行にメスを入れよ
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日本のアパレル(衣服)業界は、長い間、前近代的で非効率な商慣行の下で取り引きを行い、そこで生じるリスクをすべて商品単価に上乗せさせてきた。つまり、業界各社は“反・顧客主義”的なビジネスを長く展開してきたわけだ。しかし、ここ数年の深刻な不況はアパレル各社にも深刻な打撃を与え、業界全体が構造改革の必要に迫られている。その帰結として、にわかに活発化してきたのが、IT(情報技術)を駆使したビジネス・フロー改革の動きだ。本稿では、そうした業界各社の取り組みを紹介する。それを通じて、日本のアパレル業界が目指すべき方向性について考察したい。
三田村蕗子 text by Fukiko Mitamura
リスク回避のビジネス・モデル
日本におけるアパレル産業の歴史は古く、その市場規模は、紳士服や婦人服、子供服のほか関連製品を含めて10兆円台の後半から20兆円(小売価格ベース)と推測され、きわめて巨大な市場である。
ただし、その規模は、いわゆる「平成不況」に入ってから、一貫して縮小傾向にあり、業界各社の内実はきわめて厳しい。しかも、アパレル業界は関連する企業も非常に多く、その大半を中小企業が占めているのが特徴である。そこでは商品の製造/流通プロセスに多数のプレーヤーが介在し、前近代的で非効率的な取引形態が長い間維持されてきた。そうした“構造的な欠陥”も、ここ最近の不況によって、一挙に噴出する格好になっている。
こうした構造的な欠陥の1つに、小売り側とアパレル企業(アパレル・メーカーや卸売会社など)間の旧態依然とした取引形態がある。
例えば、小売り側が、アパレル企業から商品を仕入れるとしよう。その際の形態は大きく3つに分かれる。それは、「買い取り仕入れ」と「委託仕入れ」、および「消化仕入れ」だ。
このうち、「買い取り仕入れ」は、小売り側がリスクを負って商品を仕入れ、販売するというものだが、この形態が取られるケースはきわめて少ない。つまり、大抵の場合は、「委託仕入れ」や「消化仕入れ」といった形態の取り引きが行われてきたわけだ。特に、百貨店がアパレル企業と取り引きする際には、ほとんどのケースで「委託仕入れ」が選択されてきたのである。
「委託仕入れ」とは、「売れ残った商品については、すべて返品が可能」という形態であり、小売り側は販売上のリスクを一切追わない。また、「消化仕入れ」にしても、店頭で売れた分を仕入れとして計上するといった形態であり、売価の決定責任も在庫のリスクも、商品の納入元であるアパレル企業が負う。つまり、小売り側のリスクは完全に排除されているのである。
こうした構造はアパレル企業側に、大量返品への強い警戒心を植え付けてきた。そのため、彼らは、納入量を極力抑えようとし、結果的に、小売り側が商品の販売機会を逸することもしばしばであった。しかも、アパレル各社は、あらかじめ返品分を見越して、それを納入価格に上乗せするという戦略すら取ってきたのだ。
当然のことながら、そのリスクを最終的にかぶるのは、商品を購入する側、すなわち消費者となる。つまり、アパレル業界は、いわば、小売り側とメーカー側の双方が、両者の事業リスクを顧客に追わせるようなビジネル・モデルを温存させてきたのである。
口約束の契約形態
このようなビジネス・モデルは、小売り側とアパレル・メーカー間のずさんな契約形態ももたらした。
実を言えば、小売り側とアパレル企業間ではこれまで、取り引きに関する契約書が交わされるケースはほとんどなかった。つまり、取り引きの大半が“口約束”に基づいて行われてきたわけだ。しかも、この口約束がその言葉どおりに履行されることもまれであり、「発注した商品が、約束どおりの数量で納品されない」といったことが当たり前のように行われてきたのである。
こうした商習慣を生んだのも、大量返品を回避するというアパレル企業側のスタンスにほかならない。つまり、彼らが約束どおりに商品を納入しないのは、大量返品に対する「予防線」を張るための手法であったわけだ。
さらに、リクス回避の努力を続けながらも、アパレル企業は商品の慢性的な余剰在庫にも悩まされていた。というのも、商品販売の責任を追わない小売り側が、その販売力を低下させてしまったからだ。
こうしたことから、商品の供給側には余剰の在庫がたまっていき、それを処分するためにバーゲン・セールの頻発を余儀なくされた。その結果、業界各社の収益構造は悪化の一途をたどったのである。残念ながら、このような業界の構造は、依然として大きく改善されていない。
しかし、景気が長い低迷期に入った今日、このような“反・顧客主義”的なビジネス・モデルを維持し続けるのは、もはや不可能であり、現実的ではない。実際、「ユニクロ」ブランドで知られるファーストリテイリングのように、旧態依然としたアパレル業界の体質とは一線を画するかたちで、劇的な成功を収めている企業も増えている(囲み記事「column:ユニクロの成功とリスク」を参照)。
こうした事情を背景に、日本のアパレル各社も、ようやく商品の製造/流通プロセスを全体的に見直し、それを改革する作業に乗り出したのである。
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IT化を阻む壁
言うまでもなく、上のような改変を推進していくうえでは、ITの活用が必須となる。
ところが、日本のアパレル各社のIT化は、一部の大手(または新興企業)を除いて、かなり遅れている。とりわけ、取引業務におけるIT化の遅れは顕著だ。
この状況を生み出した最大の要因は何なのか。それはもちろん、先にも触れた「口約束を起点にした取り引きのプロセス」だ。このような、前近代的な取引形態が業界に蔓延していれば、そのIT化が遅れるのは当然の帰結と言えるだろう。
また、アパレル業界には、中小規模の企業が数多く存在しているが、それも業界全体のIT化の足かせになってきた。確かに、中小の企業にすれば、取引業務のIT化を個別に進めるのは資金的にも人的リソース的にも困難である。しかも、これまでは、IT投資に対する見返りもそれほど期待できなかった。それゆえに、多くの企業が、IT化にきわめて消極的であったのである。
さらに、アパレル業界における商品製造工程の複雑さや多様性も、取引業務の標準化とIT化を遅らせてきた一因と言える。
例えば、糸を生地に仕立て、既製服に仕上げる工程だけをとらえても、その製造フローは複雑で、かつ長期にわたり、介在する企業も多種多様となる。そうした工程内の取り引きを標準化し、IT化するのは、実に難しいのだ。
加えて、ファッション関連の商品は、ライフサイクルが短い割に、生産から店頭に至るまでのリードタイムが比較的長い。こうした商品特性も、業界各社がIT化に無頓着でいられた要因かもしれない。
業界団体が進めるEDI
以上のような課題を抱えながらも、日本のアパレル業界は現在、ITによる取引業務の効率化へ向けて徐々に前進しつつある。彼らの取り組みとは具体的にいかなるものなのだろうか。
その1つは、アパレル業界と百貨店業界、およびテキスタイル(織物)業界を標準的なEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)ネットワークによって相互に接続し、それぞれの取引業務をオンライン化するという試みだ。この取り組みの中心となり、基盤整備を進めているのは、主要なアパレル・メーカー、327社が加盟する日本アパレル産業協会(JAIC)である。
実のところ、JAICは、百貨店とアパレル・メーカー間の取引フローの標準化と迅速化(つまり、商品の早期発注/納品の実現)を目指し、8年前から「QR*1コードセンター」を立ち上げ、それによるEDI化を進めてきた。しかし、その試みは、思うような進展を見せてこなかったという。
JAIC参事の中曽根晟二氏は、その辺りの理由をこう説明する。
「各社のEDI化を阻害してきた要因は大きく2つある。1つは、EDIネットワークの利用料金が1企業当たり年間200万円と高額だったこと。もう1つは、EDIシステムの標準化がなされていなかったことだ」
そこで、JAICが独自に開発したのが「JAIC固定長共通フォーマット」と呼ばれるEDI用の業界標準メッセージである。
そもそも、百貨店側のEDIフォーマットには、各社でバラツキがあった。例えば、丸井のEDIシステムは国内標準のCII仕様に準拠し、三越のそれは国際標準のEDIFACT仕様に準拠する、といった具合だ。このような状況にアパレル側が対応していくには、各百貨店のEDI仕様に合わせたシステムを構築するしか方法はなかった。
しかしながら、体力のない中小規模のメーカーにとって、そのようなシステム作りを進める資金的な余裕はない。結果的にEDI化を断念せざるをえなくなったのだ。
このような問題を解決するために、JAICはまず、百貨店/アパレル間のあるべきビジネス・プロセスを想定し、項目の絞込みを行った。そのうえで、アパレル業界共通のEDIメッセージ(つまり、JAIC固定長共通フォーマット)を開発し、それと各種のEDIフォーマットを相互に変換するシステムを導入した。これにより、アパレル・メーカーは、百貨店側の各種EDIシステムへ個別に対応せずとも、各社とのオンライン取り引きを行うことが可能になったのである(図1)。
ただし、百貨店とアパレル・メーカーを結ぶ現状のEDIシステムは、メインフレーム同士を連携させた閉鎖的な環境であり、導入の敷居も高い。そのため、中小のアパレル・メーカーへの普及は、今もさほど進んでいない。そこで、JAICでは、EDIネットワークのWeb対応化(つまり、Web-EDI)の導入を計画しているという。
図1:JAICが推進する各標準フォーマットとJAIC固定長共通フォーマットの相互変換サービス
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契約書の“モデル”を示す
もっとも、EDI用の共通フォーマットが開発され、そのネットワークがWeb化されたところで、「口約束」による不透明な取引形態がそのままであれば、アパレル企業の取引業務が完全にEDI化(オンライン化)されることはないだろう。実際、中曽根氏も、その辺りの問題点をこう指摘する。
「EDIの目的は、企業間の契約文書を電子化し、取引業務を効率化することにある。したがって、契約内容が文書化されておらず、その履行の順守も徹底されていないようなビジネス・フローにEDIを持ち込んだところで、何の意味もない。ところが、残念なことに、そのような取引形態が、アパレル各社には根づいているのだ」
業界の構造的な欠陥を抜本的に解消するために、JAICは1つの施策を展開することにした。それは「モデル契約書」の作成だ。
現在、JAICは、日本百貨店協会と手を組み「FBA(ファッション・ビジネス・アーキテクチャ)」と呼ばれるビジネス・モデルの構築プロジェクトを推進している。これは、百貨店とアパレル各社が商品の需要予測/販売計画情報を互いに共有し、業界全体のサプライチェーンを最適化するというプロジェクトだ。
上の「モデル契約書」は、このFBA構想に沿って作成された取引契約の雛型である。ここでは以下のような情報の明示や、取り決めが義務づけられている。
●百貨店側の商品消化率
●アパレル・メーカー側の納入数量
●未消化商品についての百貨店側のリスク負担
●アパレル・メーカーによる納期と数量の順守
ただし、これはあくまでもガイドラインにすぎず、強制力はない。契約とは本来、企業ごとに個別に交わされるものだからだ。
となれば、リスク回避の体質が根づいているアパレル各社や小売り側が、上のような契約モデルをすんなり受け入れるとは考えにくい。しかし、中曽根氏は、その指摘にこう反論する。
「明確な契約が交わされなければ、メーカー側は適正な数量でモノを作ることはできない。また、商品の供給側が(返品を恐れて)納入数量を抑えれば、小売り側が販売機会を逸する回数は自ずと増える。それはすなわち、アパレル/百貨店の双方にとっての損失を意味するのだ。今日、そうしたことに、アパレル各社も小売り側も、ようやく気づき始めている。ゆえに、我々が策定した契約書モデルが広く受け入れられる可能性は高い」
ちなみに、JAICでは、百貨店とアパレル各社間の取り引きの実態を調査し、その後、3段階に分けた契約書モデルの導入プログラムを今年8月ごろから展開するという。
業界向けASPサービスの効用
一方、IT業界の技術革新と、それに伴う新サービスの登場も、アパレル業界のIT化を後押ししつつある。
例えば、そうしたITサービスの1つに、2002年2月にスタートを切ったアパレル業界向けのASPサービス「CollaboAgent(コラボエージェント)」がある。
これは、中小企業総合事業団が1997年から推進してきた「QRコードセンター向けデータベース・サービス」を土台にしたもの。このサービス事業は、その後、富士通に移管されたが、それを基盤に同社が始めたサービスがCollaboAgentである(図2)。
CollaboAgentは、商品情報や取引条件などを管理するデータベース・サービスを提供するASPサービスであり、その基盤となった旧来サービスに比べ、いくつかの点で機能が拡張されている。その中で特に大きな変更点は、もちろんインターネット・テクノロジーの全面的な採用だ。以前のサービスは、VAN回線や専用線を介したものであり、それを利用するには専用の端末アプリケーションが必要とされていた。しかし、CollaboAgentでは、インターネットと標準的なWebブラウザを通じて、各種のデータベース・サービスが提供されるようになっている。また、従来システムでは、商品情報が文字ベースでしか表示されなかったが、CollaboAgentではこれに画像情報が加えられている。サービス料金の面でも、中小規模の企業が導入しやすい低価格な設定となっているようだ。さらに今後はSCMなどの拡張機能サービスを展開していくという。
とはいえ、今年2月の事業開始時点では、Collabo Agentのユーザー企業は、旧サービスの導入企業のみにとどまっている。具体的には、小売り側が丸井、伊勢丹、松坂屋、阪急百貨店などの計6社、アパレル側はオンワード樫山や三陽商会、ナイガイ、ダーバン、イトキン、フランドルなど計68社だ。これは、CollaboAgentが開設後間もないサービスであることを考えれば、当然と言えなくもない。しかし今後、同サービスが業界の標準基盤として成長していくには、ユーザー層の拡大が求められるところだ。
図2:CollaboAgentのサービス概要
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XMLベースのコミュケーション基盤
アパレル業界向けのIT基盤サービスとしては、CollaboAgentのほかにもう1つ注目に値するものがある。それは、イー・シャトルの「ApparelArc(アパレル・アーク)」だ。これは、素材/テキスタイル・メーカーとアパレル・メーカー間の取り引きをXMLを軸に効率化するためのプラットフォームであり、ターゲット領域の面で、上述したCollaboAgentとは一線を画している。
ApparelArcはもともと、2000年7月に設立された非営利団体、QR-XML普及協議会(設立当初の名称は「Apparel Arc-XML普及協議会」)が立ち上げたサービス・プラットフォームであった。その後、昨年11月にイー・シャトルが設立され、ApparelArcの事業運営が同社に移管された。
現在、イー・シャトルには計33社が出資しており、その中には、NTTコミュニケーションズや蝶理コム、伊藤忠商事、丸紅のほかに、オンワード樫山やイトキン、ナイガイなどのアパレル・メーカーも名を連ねている。
ApparelArcを通じたイー・シャトルの主な事業内容は以下のとおりである。
●XMLベースのEDIプラットフォーム(コミュニケーション・プラットフォーム)の提供
●企業間の情報共有を起点にしたSCM(Supply Chain Management)サービスの提供
●商品掲示/検索サービスの提供
事業展開のねらいを、同社の代表取締役副社長、佐伯雅晴氏は以下のように説明する。
「繊維/アパレル業界のIT化は20年前から進められてきたが、それは各社個別の取り組みすぎず、取引先との発注/契約で使う用語もバラバラだった。そうした『言葉』を統一して、標準技術のXMLを用いた企業間コミュニケーションの共通基盤を提供することが、我々の使命であり、戦略だ」
同社は現在、XMLベースのコミュニケーション・インフラの運営と提供を事業の柱としており、その基盤上に乗せる個別の業務システムについても、段階的に提供していく構えだ。
ApparelArcのユーザー企業(参加企業)はすでに140社を数えており、その構成はアパレル会社とソーイング(縫製)会社、およびテキスタイル会社が、それぞれ3分の1ずつを占めるといった格好だ。また、こうしたユーザー企業を1,000社にまで拡大することが、イー・シャトルの当面の目標として設定されている。
「コミュニケーション・インフラの必要性に対する認識は、アパレル・メーカーやテキスタイル・メーカー、さらにはソーイング各社の間で、かなり深まりつつある」と佐伯氏。ただし、そうした共通基盤を通じて取引業務の効率化を図ることに対しては、各社間で見解の相違が顕著に見られるようだ。というのも、取引業務のIT化においては、どういったシステムを導入すれば効果が上がるのか、もしくは、その費用対効果はどうなのか、といった辺りが見えにくいからだ。
「よって、我々にとって重要なのは、成功事例をいち早く作り、そのモデル・ケースを起点にユーザーの裾野を広げていくことだと考えている。最終的には、業界における取引プロセスのデファクト・スタンダードを確立させたい」(佐伯氏)
同社では、すでにいくつかのモデル・システムを構築しており、その1つ「ATネット」は男性用衣料の分野で活用されている。これは、アパレルとテキスタイルの業界各社を相互に結び、生地から衣服までの生産管理を行うサービスである。
業界ポータルの展開
このほか、昨年3月に登場したコロモ・ドット・コムもアパレル業界のIT化を語るうえで、忘れてはならない存在だ。
同社は、オンワード樫山や三陽商会、サンエーインターナショナル、ファイブフォックス、ワコール、東レ、帝人、丸井、三井物産、三菱商事、住友商事、さらにはNTT-Xの計12社の出資によって設立された企業だ。現在、ファッション業界のポータル・サイトの構築やIT化を支援している。
同社で代表取締役社長を務める斉藤恒夫氏は、自社の目的とねらいをこう説く。
「我々の最大のミッションは、日本のファッション情報を世界に向けて発信することにある。ファッション関連企業は、IT活用の面で他業界の企業に遅れを取ってきた。だからこそ、ファッション業界全体の情報を発信する、我々のような組織が必要とされたのだ」
コロモ・ドット・コムのポータル・サイトでは、動画の導入など、ビジュアル面でのさまざまな工夫が凝らされているほか、ファッション産業の活性化に向けた提言コラムや、業界人へのインタビューなども掲載されている。また、日本やアジアから世界へ向けてのファッション・トレンドの発信や、世界各国のストリート・ファッション情報の提示、さらには、国内外のイベント/展示会の情報提供なども併せて行われている。
しかし、ここに至るまでには相当な試行錯誤があったようだ。斉藤氏は言う。
「我々は、昨年7月に仮サイトを立ち上げたが、サイトの運営だけでは業界で広く認知されるのに限界があることが分かった。今後は、求人情報ページの開設や、テナントとディベロッパーのマッチングなど、さまざまなサービスを提供していくつもりだ」
さらに、同社は、ITベンダーが提供するパッケージを土台にして、今後は業界各社の個別要件に沿ったSCMシステムやCRM(Customer Relationship Management)システムの構築サービスも展開する計画である。
「日本のファッション業界では、社員のインターネット環境すら整えていない企業が少なくなく、生産管理や販売管理のシステム導入に失敗した会社も多い。そのせいか、業界各社の大半は、IT化には消極的だ。そこで当社ではまず、実世界のビジネスとインターネットの世界をリンクさせるようなサービスを用意し、のちにCRMやSCMを実現する安価なソリューションを提供していくことにした。こうすることで、業界全体のITリテラシーを向上させることができるはずだ」(斉藤氏)
いかに連携を図るかがカギ
以上のように、アパレル業界のIT化を促す動きは、さまざまなかたちで活発化しつつある。むろん、それぞれの取り組みには差異はあるが、互いに重なり合う部分も少なくない。また、それらの本質的な目的も同一だ。
すなわち、1つ1つの取り組みは独立したものだが、業界の古い構造を打ち壊し、素材の調達から商品の生産、卸売り、さらには小売りに至る一連の取引プロセスの全体最適を図ることこそ、上述した種々のサービスの共通のゴールなのだ。
だとすれば、業界各社にとって、そうしたサービスやインフラは一本化されるほうが望ましいはずだ。実際、そのほうが取り引きの円滑化を図るうえで、手間もコストもより少なくてすむ。そして何より、利用する側であるアパレル企業にとってITの仕組みがより分かりやすいものとなるのである。
それではなぜ、アパレル業界のIT化を推進する複数のサービス、ネットワーク・インフラが存在しているのだろう。
1つの理由としては、業界を構成する企業の種類、そして規模が多岐にわたるという点が挙げられよう。それゆえに、業界全体を網羅するIT基盤サービスを構築し、運営していくには莫大なコストや手間がかかるのである。
また、上述したIT組織のいくつかが、異なる行政団体を母体に生まれたことも、基盤サービスの分散化をもたらした一因と言える。
さらに、各組織の背後には、それぞれ主導権を握るITベンダーが存在することも、もう1つの理由として指摘できる。それゆえに、各組織間で、ある種の競合関係も生まれているのだろう。
もっとも、背景事情はどうあれ、業界各社を横断したIT化の取り組みが、複数のサービスや組織、ソリューションによって実現されるというのは、決して好ましい図式とは言えない。よって今後は、それぞれの取り組みにおいて、システム的な相互連携が求められることになろう。仮にそれに失敗すれば、アパレル業界としてサプライチェーンの全体最適化を図ることは不可能となるのだ。
ちなみに、先の記述からも分かるとおり、オンワード樫山などのアパレル・メーカーの多くは、複数の取り組みに重複して参加している。そうした企業がリーダーシップを発揮していけば、最終的には異なるITサービスが1つに統合される可能性は十分にある。
ところで、読者は、古くからある大手アパレル・メーカーの中で、ワールドの名が上述したいずれの取り組みにもないことに、気づかれただろうか。
実は、同社はアパレル業界の先陣を切ってSPA(アパレル製造/小売りの統合事業:詳細は左ページ囲み記事を参照)に乗り出したメーカーであり、独自のシステムを構築してSCMに意欲的に取り組んでいる。そうした事情から、ワールドは、業界全体を対象にしたIT化の取り組みから一定の距離を置いているのかもしれない。
とはいえ、アパレル商品の資材調達から小売りに至る長い工程を考えれば、それを完璧に自己で完結しうるとは考えにくい。必ずそこには、中小規模のさまざまな企業との取り引きが絡んでくるはずだ。そして、業界全体を巻き込んだIT化の取り組みは、中小規模の企業にもIT活用の門戸を開き、標準的な取り引きのフローを確立することを目的とする。というのも、それがあって初めてアパレル業界の活性化が約束されるからだ。
将来的に、こうした業界の取り組みが浸透していけば、現在は独自路線にシフトしている企業も巻き込んで、業界全体でのコラボレーションが実現する可能性もあるだろう。
(CIO Magazine 2002年5月号に掲載)
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