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SAP、サプライチェーンソフトウェアの強化を発表
文:Colin Barker(ZDNet UK)
翻訳校正:河部恭紀(編集部)
2006/03/14 17:08
SAPは同社のサプライチェーン管理パッケージを6月に一新する計画だ。
新バージョンの最も重要な新機能は、同パッケージのサービス部品管理ツールに見られる。同ツールは、適切な部品を適切な場所に「ジャストインタイム」で届けることを重視する小規模の製造業や流通業のような業界を主に狙ったものだ。
新バージョン「MySAP Supply Chain Management version 5.0」は、先週後半、ドイツのハノーバーで開催されたトレードショー「CeBit」で発表された。SAPによると、この最新バージョンは、低価格部品まで効率的に管理でき、企業が従来の線形のサプライチェーンをより柔軟で動的なサプライチェーンパートナーで構成されるネットワークに発展させるのを支援できるという。これまでSAPの製造用ソフトウェアは柔軟性に欠けていると批判されてきた。
パッケージの一連の新ツールで小売業者は顧客サービスを向上させながら、商品在庫を減らすことができるようになるとSAPは述べた。小売業者は、リードタイムの長い製品を補充すると同時に、季節商品を扱ったり、似たような製品の履歴情報を利用して需要を予測したりすることでライフサイクルの短い新製品を導入できるようになる。
最新バージョンは、業界固有の機能性を備えており、衣料業界から化学製品業界まで、幅広い業界に対応できるようになっている。
文:Colin Barker(ZDNet UK)
翻訳校正:河部恭紀(編集部)
2006/03/14 17:08
SAPは同社のサプライチェーン管理パッケージを6月に一新する計画だ。
新バージョンの最も重要な新機能は、同パッケージのサービス部品管理ツールに見られる。同ツールは、適切な部品を適切な場所に「ジャストインタイム」で届けることを重視する小規模の製造業や流通業のような業界を主に狙ったものだ。
新バージョン「MySAP Supply Chain Management version 5.0」は、先週後半、ドイツのハノーバーで開催されたトレードショー「CeBit」で発表された。SAPによると、この最新バージョンは、低価格部品まで効率的に管理でき、企業が従来の線形のサプライチェーンをより柔軟で動的なサプライチェーンパートナーで構成されるネットワークに発展させるのを支援できるという。これまでSAPの製造用ソフトウェアは柔軟性に欠けていると批判されてきた。
パッケージの一連の新ツールで小売業者は顧客サービスを向上させながら、商品在庫を減らすことができるようになるとSAPは述べた。小売業者は、リードタイムの長い製品を補充すると同時に、季節商品を扱ったり、似たような製品の履歴情報を利用して需要を予測したりすることでライフサイクルの短い新製品を導入できるようになる。
最新バージョンは、業界固有の機能性を備えており、衣料業界から化学製品業界まで、幅広い業界に対応できるようになっている。
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パーベイシブコンピューティングで変わるサプライチェーン
何もかもが楽観的に見えた90年代後半、Lou Gerstnerでさえいつもの懐疑的な態度を改め、自らのテクノユートピア構想について語っていた。
当時IBMの最高経営責任者(CEO)であったGerstnerは、いつか自動車がワイヤレスネットワークと遠隔診断装置を使ってエンジンの不調をメーカーに連絡したり修理されたりするだろうと語ったのだ。しかも、それがドライバーの気付かないうちに起こるというのだ。同様のテクノロジーが、自動販売機からビデオレコーダーまであらゆるものに使われるようになるとも彼は言った。
不幸なことに、皆がGerstnerの発言に耳を傾けた。
「それからしばらくの間は、家庭の冷蔵庫がオンラインスーパーマーケットのWebvanに電話をして食料品を注文してくれるようになる、というような類のアイデアがいくつも出てきた。しかし今は、あれは失敗だったと皆が思っている」と半導体チップの新興メーカーUbicomのCEOであるBulent Celebiは言う。
しかし数年後には、このコンセプトをもとに、果敢にも新しい取り組みを展開する企業が現れた。このコンセプトには、パーベイシブコンピューティング、デバイスコンピューティング、エクステンデッドインターネットなど様々な名称がついた。現在UbicomやEmwareといった企業は、実用的なアプリケーションを開発しており、両社の製品はこのコンセプトを社会的に認知させるきっかけとなりそうだ。またこのコンセプトは、これもほかのドットコム計画と同様に単なる思い付きだという悪評をぬぐおうとしている。
Ubicomは、オーバーヘッドプロジェクタから暖房換気システムに至るまであらゆる商品のメーカーに対し、ネットワークプロセッサを13ドルで販売している。このプロセッサは企業が自社システムを遠隔地から監視できるようにするものだ。Emwareは、メーカーが浄水施設のコントローラーなどからデータを取り出したり、家庭用サーモスタットを遠隔操作したりできるようにする内蔵ソフトウェアを販売している。
膨大な数のデバイスが相互に接続された超ネットワーク化社会が実現するのは数十年先のことであろうが、パーベイシブコンピューティング用のアプリケーションを支えるインフラのほうは、工場や積貨場や精油施設など目立たない場所でゆっくりと根づき始めている。一般消費者のマーケットと違いこのような産業界の動向は、半導体チップ、リモートセンサー、ワイヤレスネットワーキング装置、OS、ソフトウェアアプリケーションなど、遠隔から瞬時でデータを収集・処理できる多くのテクノロジーにとって絶好の機会を生み出している。
「Eコマース革命におけるチャンスの再来だ」とAccenture Technology研究所の主任科学研究員Glover Fergusonは言う。すでにAccentureとIBMでは、それぞれ「ユビキタスコンピューティング」、「スマートマシンにEビジネスを」と銘打ったコンサルティングサービスを確立している。
これらが全てうまくいけば、GerstnerはIBMの再建者としてだけでなく、優れた先見性の持ち主として人々の記憶に残るだろう。
トレンドの陰で、草の根的に発展
新しいテクノロジーのほとんどは何もないところから生まれている。新興企業や既存の企業はあらゆる産業界のニッチに対し、パーベイシブコンピューティングの部類に入りそうなアプリケーションを提供しているのだ。
例えば医療機器メーカーのBeckman Coulterは「注意一秒ケガ一生」という言い習わしに従いAxeda Systemsのソフトウェアを採用した。このソフトウェア導入で、Beckmanはインターネットを使って病院内の医療機器を遠隔から監視できるようになり、何かが起こる前に問題を発見し対応できるようになった。機器が故障したときだけ技術者を派遣するのではなく、Beckmanの臨床試験機器は故障診断の結果を同社のサービス部門に直接送信できるソフトウェアを搭載している。したがって患者のBeckmanに対する信頼度も高くなり、さらに機器の故障を未然に防ぎ技術者の派遣回数を減らすことができる。
パーベイシブコンピューティングは化学工業分野でも利用されている。例えばSupplyNet Communicationsでは、化学品タンクの内容量を計測するためのワイヤレスセンサーを製造している。このセンサーは、BASFなどの化学品メーカーが顧客企業のタンクに設置しており、これでリアルタイムな在庫確認を行い、必要に応じて在庫補充をしたり商品流通の効率化を図ったりしている。
いくつかのソフトウェア会社やサービス企業は、ネットワーク化されたデバイスから集めたデータを既存のエンタープライズシステムに提供するビジネスアプリケーションの構築を進めている。これにより各社は、在庫がサプライチェーンを流れるスピードや商品の納品先での稼動状況など、ビジネスに欠かせない瞬時の情報を入手し測定できるようになる。
Maria Martinezは2000年の始めにこのようなツールの重要性に既に気付いていた。その頃、Martinezは9年勤務したMotorolaを離れ、ハードウェアベンチャーKaveri Networksの社長兼CEOに就任しようとしていた。Kaveri Networksは、各種デバイスのインターネット接続が可能となるようなプロセッサを設計する企業として生まれた。
そこでMartinezは、ある反発的なエンジニアのグループが研究していたプロジェクトに徐々に興味を持つようになる。そのエンジニアグループはネットワーク化チップを開発するだけでなく、PC以外のマシンからデータを読み取ったり、そのデータを企業のインフォメーションシステムに送るためのソフトウェアプラットフォームを創り出そうとしていたのだ。
商品そのものよりも、デバイスを接続するという発想と、それが生み出す空間に強い興味を抱いたとMartinezは言う。「自分たちの周りには何かを可能にするテクノロジーが溢れていることに気付き、チップがニッチ市場以上のものを狙えることに気がついた。私たちがめざしたのはもっと大きなビジネスだった」(Martinez)
そして翌年、MartinezはKaveri Networksという社名をEmbrace Networksに変更し、事業の中心を半導体チップからソフトウェアへと移した。今では、同社はタイムレコーダーから人事のアプリケーションに情報を送ったり、遠隔生物測定セキュリティターミナルからの情報を使って認証情報を更新したりする機能のソフトウェアを販売している。
Embrace Networksはゆっくりではあるが着実な成果を手にしており、数社のクライアントから、エンタープライズシステムのネットワーク接続や、安全性管理、データ取り込み、そしてデバイスの遠隔操作ができるようなアプリケーションの構築を請け負っている。
商品タグもコンピュータ化
パーベイシブコンピューティングの支持者は、RFID(無線周波ID)タグとして知られるテクノロジーにより、パーベイシブコンピューティングが大きな一歩を踏み出せるだろうと信じている。RFIDタグは、個々の商品を識別したり、製造日や流通経路、また倉庫内での在庫位置などの重要な商品情報を転送するのに十分なデータを記録できる小さなプラスチック製のデバイスだ。
このタグがサプライチェーンに与える影響は重大なものになるだろう。このタグにはチップと無線周波アンテナが内蔵されているが、とても小さいことから簡単に衣類に縫いこんだり包装済商品に取り付けたりできるからだ。リサーチャーの予測でも、現在随所で見られる商品バーコードに代わり、RFIDタグが全ての物品に取り付けられ、より多くの情報を記録するようになると言われている。
マサチューセッツ工科大学Auto-ID CenterのエグゼクティブディレクターKevin Ashtonは、RFIDはコンピュータ業界のアメーバだと言う。「RFIDにも微小のロジックとメモリが搭載されているが、いまやコンピュータが身の回りに溢れているので、RFIDの存在など気に留めることもない」からだ。
Wal-Mart、Gillette、Procter & Gambleなど小売業界の重鎮が出資するAuto-ID Centerは、タグとコンピュータ間の情報の送受信を標準化するシステムを開発中である。同システムは今年10月中に完成予定だ。タグのアンテナ範囲やデータ容量は様々だが、全てのタグは単純な構造でできた読み取り機へデータを送り、その読み取り機はある一定の距離内で情報を受け取ることができる、というものだ。
オフィス用品販売を手がけるStaples の最高情報責任者(CIO)Paul Gaffneyは、このシステムにより安全在庫(供給不足を避けるための余剰在庫)が不要となり、数十億ドルの節約が可能だという。売れ行きのいいアイテムの在庫が減ったら、RFIDタグが店主に警告を送信することができるからだ。
デバイスのネットワーク化は、新商品や新サービスに対する需要を増加させるだろうとアナリストは言う。例えば冷蔵庫メーカーは、自社のネットワークを使わずに、データマイニングソフトウェアや数々のデバイスから集めた大量の情報を処理するサービスを希望するかもしれない。
「日に3回、毎回15件の内容をレポートしてくるデバイスが10個ある家庭を想像してみればいい」とビジネスコンサルティング会社のHarbor ResearchのシニアアナリストIan Barkinは言う。「それだけでもどこかのサーバーに兆単位のデータが集まることになる」
Harborの予測ではインターネットで接続されたデバイスは2000年代後半に爆発的に増加し、2007年までには関連の商品やサービスの売上げが1.5兆ドル以上になるという。
AMR Researchもまた、RFIDシステムの完成版の販売が2005年には50億ドルと頂点に達し、2006年内に150億個のタグが販売されると予測している。RFIDタグは既に使われているが、アナリスト曰く、タグ本体の値段が1個5セント程度まで下がらなければタグは普及しないという。現在のタグのコストは20セントから10ドルまで、様々である。
値段が適当なレベルにまで下がれば、RFIDタグは現在のサプライチェーンに革命的変化をもたらし、より大きな相互接続デバイスネットワークにも徐々に広がっていくだろうと、アナリストやAuto-IDのメンバーは言う。
「どこにコンピュータがあるか、どこでコンピュータ化が進んでいるのか、見えにくい時代がやってくる。ネットワーク中が小さなコンピュータだらけになるからだ」とAuto-IDのAshtonは言う。「21世紀のコンピュータは、全てを統合することになるだろう」
何もかもが楽観的に見えた90年代後半、Lou Gerstnerでさえいつもの懐疑的な態度を改め、自らのテクノユートピア構想について語っていた。
当時IBMの最高経営責任者(CEO)であったGerstnerは、いつか自動車がワイヤレスネットワークと遠隔診断装置を使ってエンジンの不調をメーカーに連絡したり修理されたりするだろうと語ったのだ。しかも、それがドライバーの気付かないうちに起こるというのだ。同様のテクノロジーが、自動販売機からビデオレコーダーまであらゆるものに使われるようになるとも彼は言った。
不幸なことに、皆がGerstnerの発言に耳を傾けた。
「それからしばらくの間は、家庭の冷蔵庫がオンラインスーパーマーケットのWebvanに電話をして食料品を注文してくれるようになる、というような類のアイデアがいくつも出てきた。しかし今は、あれは失敗だったと皆が思っている」と半導体チップの新興メーカーUbicomのCEOであるBulent Celebiは言う。
しかし数年後には、このコンセプトをもとに、果敢にも新しい取り組みを展開する企業が現れた。このコンセプトには、パーベイシブコンピューティング、デバイスコンピューティング、エクステンデッドインターネットなど様々な名称がついた。現在UbicomやEmwareといった企業は、実用的なアプリケーションを開発しており、両社の製品はこのコンセプトを社会的に認知させるきっかけとなりそうだ。またこのコンセプトは、これもほかのドットコム計画と同様に単なる思い付きだという悪評をぬぐおうとしている。
Ubicomは、オーバーヘッドプロジェクタから暖房換気システムに至るまであらゆる商品のメーカーに対し、ネットワークプロセッサを13ドルで販売している。このプロセッサは企業が自社システムを遠隔地から監視できるようにするものだ。Emwareは、メーカーが浄水施設のコントローラーなどからデータを取り出したり、家庭用サーモスタットを遠隔操作したりできるようにする内蔵ソフトウェアを販売している。
膨大な数のデバイスが相互に接続された超ネットワーク化社会が実現するのは数十年先のことであろうが、パーベイシブコンピューティング用のアプリケーションを支えるインフラのほうは、工場や積貨場や精油施設など目立たない場所でゆっくりと根づき始めている。一般消費者のマーケットと違いこのような産業界の動向は、半導体チップ、リモートセンサー、ワイヤレスネットワーキング装置、OS、ソフトウェアアプリケーションなど、遠隔から瞬時でデータを収集・処理できる多くのテクノロジーにとって絶好の機会を生み出している。
「Eコマース革命におけるチャンスの再来だ」とAccenture Technology研究所の主任科学研究員Glover Fergusonは言う。すでにAccentureとIBMでは、それぞれ「ユビキタスコンピューティング」、「スマートマシンにEビジネスを」と銘打ったコンサルティングサービスを確立している。
これらが全てうまくいけば、GerstnerはIBMの再建者としてだけでなく、優れた先見性の持ち主として人々の記憶に残るだろう。
トレンドの陰で、草の根的に発展
新しいテクノロジーのほとんどは何もないところから生まれている。新興企業や既存の企業はあらゆる産業界のニッチに対し、パーベイシブコンピューティングの部類に入りそうなアプリケーションを提供しているのだ。
例えば医療機器メーカーのBeckman Coulterは「注意一秒ケガ一生」という言い習わしに従いAxeda Systemsのソフトウェアを採用した。このソフトウェア導入で、Beckmanはインターネットを使って病院内の医療機器を遠隔から監視できるようになり、何かが起こる前に問題を発見し対応できるようになった。機器が故障したときだけ技術者を派遣するのではなく、Beckmanの臨床試験機器は故障診断の結果を同社のサービス部門に直接送信できるソフトウェアを搭載している。したがって患者のBeckmanに対する信頼度も高くなり、さらに機器の故障を未然に防ぎ技術者の派遣回数を減らすことができる。
パーベイシブコンピューティングは化学工業分野でも利用されている。例えばSupplyNet Communicationsでは、化学品タンクの内容量を計測するためのワイヤレスセンサーを製造している。このセンサーは、BASFなどの化学品メーカーが顧客企業のタンクに設置しており、これでリアルタイムな在庫確認を行い、必要に応じて在庫補充をしたり商品流通の効率化を図ったりしている。
いくつかのソフトウェア会社やサービス企業は、ネットワーク化されたデバイスから集めたデータを既存のエンタープライズシステムに提供するビジネスアプリケーションの構築を進めている。これにより各社は、在庫がサプライチェーンを流れるスピードや商品の納品先での稼動状況など、ビジネスに欠かせない瞬時の情報を入手し測定できるようになる。
Maria Martinezは2000年の始めにこのようなツールの重要性に既に気付いていた。その頃、Martinezは9年勤務したMotorolaを離れ、ハードウェアベンチャーKaveri Networksの社長兼CEOに就任しようとしていた。Kaveri Networksは、各種デバイスのインターネット接続が可能となるようなプロセッサを設計する企業として生まれた。
そこでMartinezは、ある反発的なエンジニアのグループが研究していたプロジェクトに徐々に興味を持つようになる。そのエンジニアグループはネットワーク化チップを開発するだけでなく、PC以外のマシンからデータを読み取ったり、そのデータを企業のインフォメーションシステムに送るためのソフトウェアプラットフォームを創り出そうとしていたのだ。
商品そのものよりも、デバイスを接続するという発想と、それが生み出す空間に強い興味を抱いたとMartinezは言う。「自分たちの周りには何かを可能にするテクノロジーが溢れていることに気付き、チップがニッチ市場以上のものを狙えることに気がついた。私たちがめざしたのはもっと大きなビジネスだった」(Martinez)
そして翌年、MartinezはKaveri Networksという社名をEmbrace Networksに変更し、事業の中心を半導体チップからソフトウェアへと移した。今では、同社はタイムレコーダーから人事のアプリケーションに情報を送ったり、遠隔生物測定セキュリティターミナルからの情報を使って認証情報を更新したりする機能のソフトウェアを販売している。
Embrace Networksはゆっくりではあるが着実な成果を手にしており、数社のクライアントから、エンタープライズシステムのネットワーク接続や、安全性管理、データ取り込み、そしてデバイスの遠隔操作ができるようなアプリケーションの構築を請け負っている。
商品タグもコンピュータ化
パーベイシブコンピューティングの支持者は、RFID(無線周波ID)タグとして知られるテクノロジーにより、パーベイシブコンピューティングが大きな一歩を踏み出せるだろうと信じている。RFIDタグは、個々の商品を識別したり、製造日や流通経路、また倉庫内での在庫位置などの重要な商品情報を転送するのに十分なデータを記録できる小さなプラスチック製のデバイスだ。
このタグがサプライチェーンに与える影響は重大なものになるだろう。このタグにはチップと無線周波アンテナが内蔵されているが、とても小さいことから簡単に衣類に縫いこんだり包装済商品に取り付けたりできるからだ。リサーチャーの予測でも、現在随所で見られる商品バーコードに代わり、RFIDタグが全ての物品に取り付けられ、より多くの情報を記録するようになると言われている。
マサチューセッツ工科大学Auto-ID CenterのエグゼクティブディレクターKevin Ashtonは、RFIDはコンピュータ業界のアメーバだと言う。「RFIDにも微小のロジックとメモリが搭載されているが、いまやコンピュータが身の回りに溢れているので、RFIDの存在など気に留めることもない」からだ。
Wal-Mart、Gillette、Procter & Gambleなど小売業界の重鎮が出資するAuto-ID Centerは、タグとコンピュータ間の情報の送受信を標準化するシステムを開発中である。同システムは今年10月中に完成予定だ。タグのアンテナ範囲やデータ容量は様々だが、全てのタグは単純な構造でできた読み取り機へデータを送り、その読み取り機はある一定の距離内で情報を受け取ることができる、というものだ。
オフィス用品販売を手がけるStaples の最高情報責任者(CIO)Paul Gaffneyは、このシステムにより安全在庫(供給不足を避けるための余剰在庫)が不要となり、数十億ドルの節約が可能だという。売れ行きのいいアイテムの在庫が減ったら、RFIDタグが店主に警告を送信することができるからだ。
デバイスのネットワーク化は、新商品や新サービスに対する需要を増加させるだろうとアナリストは言う。例えば冷蔵庫メーカーは、自社のネットワークを使わずに、データマイニングソフトウェアや数々のデバイスから集めた大量の情報を処理するサービスを希望するかもしれない。
「日に3回、毎回15件の内容をレポートしてくるデバイスが10個ある家庭を想像してみればいい」とビジネスコンサルティング会社のHarbor ResearchのシニアアナリストIan Barkinは言う。「それだけでもどこかのサーバーに兆単位のデータが集まることになる」
Harborの予測ではインターネットで接続されたデバイスは2000年代後半に爆発的に増加し、2007年までには関連の商品やサービスの売上げが1.5兆ドル以上になるという。
AMR Researchもまた、RFIDシステムの完成版の販売が2005年には50億ドルと頂点に達し、2006年内に150億個のタグが販売されると予測している。RFIDタグは既に使われているが、アナリスト曰く、タグ本体の値段が1個5セント程度まで下がらなければタグは普及しないという。現在のタグのコストは20セントから10ドルまで、様々である。
値段が適当なレベルにまで下がれば、RFIDタグは現在のサプライチェーンに革命的変化をもたらし、より大きな相互接続デバイスネットワークにも徐々に広がっていくだろうと、アナリストやAuto-IDのメンバーは言う。
「どこにコンピュータがあるか、どこでコンピュータ化が進んでいるのか、見えにくい時代がやってくる。ネットワーク中が小さなコンピュータだらけになるからだ」とAuto-IDのAshtonは言う。「21世紀のコンピュータは、全てを統合することになるだろう」
RFIDで医薬品サプライチェーンを守れ!
不正医薬品の撲滅に取り組み始めた米国製薬業界
関連トップページ:SCM/設計製造 | セキュリティ管理(CSO Online) | 【特別企画】RFIDレビュー
不正医薬品や不正価格医薬品の流通によって、全世界で毎年460億ドルもの損害を被っているとされる製薬業界。また、不正医薬品の使用によって身体にダメージを受けたり死亡したりする人が絶えないことも深刻な問題となっている。そうしたなか、いくつかの製薬会社は、複雑な医薬品サプライチェーンにおいて医薬品を追跡・管理できるようにするため、RFID技術に目を向けている。本稿では、医薬品のサプライチェーンでRFIDがどう活用されているか、それを導入するうえではどんな注意が必要かといったことを探りたい。
スザンナ・パットン ● text by Susannah Patton
氾濫する不正医薬品
パーデュー・ファーマのサプライチェーン担当アソシエート・ディレクター、マイク・セランターノ氏(左)とCSO(最高セキュリティ責任者)のアーロン・グラハム氏は、パイロット・プロジェクトの一環として特定の医薬品が入ったケースにRFIDチップを取り付けることにした。 photo by Derek Dudek
米国麻薬取締局(DEA)と食品医薬品局(FDA)のおとり捜査官だったアーロン・グラハム氏は、不正医薬品(有害あるいは効力のない成分によって製造された製品や偽のパッケージに入った薬など)が製薬業界のサプライチェーンにいとも“巧みに”潜り込む様子をじかに見てきたという、特異な経験を持つ。現在、パーデュー・ファーマの副社長兼CSO(最高セキュリティ責任者)を務める同氏は、FDAに在籍していた折に実施したおとり捜査の様子を次のように生々しく証言する。
「2年にわたって展開された『グレーピル作戦』と呼ばれるおとり捜査で、私はある製薬企業のマネジャーをかたり、療養施設に医薬品を販売していた2次卸売業者に格安価格で医薬品を販売すると持ちかけた。作戦が始まると、すぐに電話が鳴り始めた。数十社の小規模な医薬品卸売会社が、自分たちにも薬を売ってほしいと熱心に働きかけてきたのだ」
現在、医薬品の2次卸売業者や「グレー市場(半合法市場)」の卸売業者は米国だけでなく、世界各地で低価格の医薬品を買い漁り、それを大手の卸売会社に売ることで利鞘を稼いでいる。グラハム氏によると、なかには、製薬会社ではなく、中国やタイ、コロンビアといった国にある犯罪組織から不正医薬品を買っているような2次卸売業者も存在するという。
「グレーピル作戦」では、大手や中小の医薬品卸売会社が多層化した医薬品のサプライチェーンに乗じて、不当な値段で医薬品を売買している“からくり”を暴くことができたという。医薬品が療養施設など国から補助金を受け取っている医療機関に値引き価格で販売されていたことや、低価格で海外に輸出されていたことなどが、おとり捜査によって明らかになったのだ。
また、グラハム氏らは最終的に、中小の医薬品卸売会社が低価格の医薬品を大量に米国に密輸し、大手の卸売会社に転売することで、巨額の利益を得ているという事実も突きとめた。
一般的に、医薬品はさまざまな段階を経て、流通業者の間を何度も行き来する。そのため、医薬品を巡ってはきわめて複雑かつ脆弱なサプライチェーンが形成されることになる。そして、医薬品が流通する過程で、間に入る業者の数が増えれば増えるほど、不正医薬品が正規のサプライチェーンに入り込みやすくなってしまうのだ。
当然ながら、このような“穴だらけ”のサプライチェーンは、医薬品を服用する患者に大きなリスクをもたらすとともに(毎年、全世界で数千人もの患者が偽薬を摂取したことによって死亡している)、製薬業界に対しても大きな損害をもたらすことになる。WHO(世界保健機構)が行った最近の研究によると、全世界で販売されている医薬品の10%以上が不正医薬品であり、製薬業界は毎年460億ドルに上る損失を被っているという。また、FDAも2004年、不正医薬品の捜査件数が前年に比べて150%増加したことを明らかにしている。
そもそも、不正医薬品の流通が増加している背景には、これらの販売が、ヘロインやコカインといった違法な麻薬を販売するよりも利益率が高く、刑罰が軽いということがある。そのため、犯罪組織などがかかわっているケースも多く見られるのだ。
「医薬品は、薬局に着くまでの過程で非常に多くの業者を経ているため、その薬がどのようなルートを通ってきたのかを完璧に把握するのは至難の業だ。さらに、現在の法律では、不正医薬品が正規医薬品のサプライチェーンに入り込むのを完全に防ぐことはできない」(グラハム氏)
製薬会社は断固として戦う姿勢を示せ
しかし、こうした問題を解決するため、近年では多くの政府機関や製薬会社が“サプライチェーンの穴”、とりわけ製薬メーカーから消費者に至るまでの流通ネットワークに開いた“穴”をふさぐための取り組みを始めている。
例えば、米国の複数の州は、薬剤の製造元や取扱業者を保証する「系図」を作成し、医薬品の信頼性を確保することを製薬会社に義務づけている。
また、FDAは、医薬品の追跡能力を強化するためにRFIDを導入するよう製薬会社に勧告している。
そうしたことから、現在ではいくつかの製薬会社がRFIDを試験的に導入し、医薬品の追跡や認証に取り組み始めた。
パーデューも、ファイザーやグラクソスミスクラインといった他の大手製薬会社と同様、製造元から消費者に至る医薬品の流れを追跡するためのパイロット・プロジェクトを実施する中で、人気の高い医薬品にRFIDタグを取りつけている。
だが、グラハム氏によると、パイロット・プロジェクトの多くは、ITインフラに対する巨額の投資が原因で継続が難しくなっているという。
また、薬の瓶にRFIDタグを取りつけ、薬の販売に関するデータを収集するようになると、プライバシーやセキュリティの問題が生じるが、これに対する対策もまだ完璧とはいかない。
とはいえ、RFIDタグを本格的に導入していない製薬会社も、RFIDに関する標準やプライバシーにかかわる法規制がまだ固まっていないからといって、無策のままでいるべきではない。製薬会社は、新しい流通プロセスをサポートするためのITインフラの設計に着手し、できるだけ早い時期にパイロット・プロジェクトをスタートさせる必要がある。というのも、国際的な広がりを見せる不正行為に対して製薬業界が一丸となって断固反対の立場を取らなければ、医薬品や患者にまつわるリスクは、減らないどころか増えてしまうからである。
MIT(マサチューセッツ工科大学)で医療研究計画担当ディレクターを務めるダニエル W.エンゲルス氏は、「製薬会社は、正規医薬品のサプライチェーンを守るために、できることは何でもやるという姿勢を示さなければならない」と厳しく指摘する。
医薬品の「系図」を証明する
残念ながら、現在の製薬業界は、世界で最も複雑かつ透明性の低いサプライチェーンを運用していると言わざるをえない。この業界には多くの規制が設けられているが、薬価を見ても分かるように、規制が国によって異なるため、「合法的な取引」、「外見上合法的な取引」、「非合法な取引」が複雑に絡み合ってしまっているのだ。
例えば、米国には、カーディナル・ヘルス、マッケソン、アメリソースバーゲンという3つの有力な医薬品卸売会社があり、この3社で米国医薬品市場の90%の流通を取り扱っているが、これらの大手卸売会社の余剰在庫の売買をしている小規模な2次卸売業者は、それこそ星の数ほど存在する。
こうした小規模な2次卸売会社の多くは、医薬品の買い取り先を効率的に見つけ出すことで、医薬品サプライチェーンの動きを円滑にしている合法的な企業だ。しかし、こうした企業が医薬品のサプライチェーンに入り込むことで、正規医薬品のサプライチェーンに流通する不正医薬品を見つけ出すのが難しくなっているのも事実だ。
不正医薬品の大半は、きわめて劣悪な条件下で製造されており、それを摂取したことで、毎年数千人が(先進国も含め)世界中で死亡している。
例えば、2003年、ファイザーは、薬局で販売されていた高脂血症治療薬「Lipitor(2004年に世界で最も多く販売された医薬品)」の中から偽薬が見つかったために、1,800万錠を回収した。
さらに英国では、2004年に勃起不全症治療薬「Cialis」の偽薬が発見されたうえ、2006年にも、「Lipitor」の偽薬が73ケース発見され、12万ケースが回収された。
このような問題の発生を防ぐため、連邦と州政府は、犯罪ネットワークの捜査と不正医薬品の取り締まりのために、多くのリソースを投入し始めている。
フロリダ州とカリフォルニア州は他州に先駆けて、医薬品の製品認証を行う仕組みを整備することを製薬業界に義務づける法律を制定した。2006年7月に施行されたフロリダ州の法律は、医薬品卸売業者に対し、紙の「系図」または、薬の製造元を示す記録の提出を義務づけている。
一方、2007年1月から施行されるカリフォルニア州の法律は、薬局で販売されるすべての医薬品に、「電子系図」または、シリアル番号を付けるよう義務づけている。
両州の法律とも、当面は医薬品卸売業者が系図(紙もしくは電子データのいずれか)の作成責任を負うが、将来的には製薬メーカーにもこの法律の順守が徹底されることになるかもしれない。
薬を認証することで不正医薬品の流通を防ぐ
ジェンザイムの資材管理担当副社長ジム・シューマン氏は、英国とアイルランドにある自社の施設から出荷される製品を追跡するため、Webベースのシステムをテストしている。 photo by John Soares
もっとも、製薬会社側も、法律で縛られるまでもなく、不正医薬品や不正価格医薬品が正規医薬品のサプライチェーンに潜り込むのを、すでにさまざまな手法を駆使して阻止しようとしている。現在、多くの製薬会社が試しているのは、ホログラムや特殊インク、透かしを使ってパッケージや錠剤を認証するという方法だ。
一般的な病気の治療に使われる薬を製造しているジェンザイムでは、インクと染料を使った認証方法を検討しており、すでに一部の医薬品では、不正開封を防ぐためのパッケージ・テープを導入している。同社の資材管理担当副社長、ジム・シューマン氏によると、これらの対策を講じたことで、腎臓病や関節炎の治療薬の偽造や価格操作を見つけ出すことができたという。
また、ジェンザイムでは、自社の医薬品の追跡体制を世界規模で強化するため、UPSと共同で、英国とアイルランドの自社施設から出荷された製品をWebベースのシステムで追跡しているという。これにより、英国とアイルランドに医薬品を発注したジェンザイムのスタッフは、自社のWebサイトにアクセスし、製品の配達状況を追跡したり、流通プロセスをたどったりすることができる。シューマン氏は、「今後もUPSと共同でこのWebベース・システムを拡張し、カバーできる地域を増やしていく」と意気込む。
医薬品の「電子系図」を作成するには、バーコードやRFIDなどの追跡・逆探知技術が有効だ。過去20年間にわたって使いこなされてきたバーコードはRFIDよりも低いコストで導入できるが、サプライチェーンの各段階によって手作業でパッケージを読み取らなければならないため、結局のところ、運用費が高くついてしまう。一方、パッシブRFIDタグは、倉庫に設置された電子読み取り機に通すだけで自動的にデータを読み取ることができるため、パッケージをわざわざ開封しなくても済む。
そうしたなか、ファイザーとパーデューは、他社に先駆けてRFIDタグのパイロット・プロジェクトを開始した。両社は人気が高いために盗難や偽薬といった被害に遭いやすい勃起不全症治療薬の「Viagra」と癌の痛みを和らげる鎮痛剤の「Oxycontin」という薬を製造しており、これらの薬にRFIDタグを付加して実験を行っているのだ。
MITのエンゲルス氏は、「RFIDは、単にバーコードに取って代わるだけの技術ではない。タグにセンサを取りつければ、製品の温度履歴を記録したり、製品についてのデータベースを作成したりすることもできるのだ」とRFIDのメリットを強調する。
RFIDを使って電子系図を作成する
実は、パーデュー・ファーマは、FDAがRFIDの導入を勧告する前から、RFIDに対する取り組みを進めてきた。というのも、同社では常習性の強いOxycontinを含むいくつかの睡眠薬をウォルマートに出荷しており、ウォルマートは2004年に、同社に搬入するすべての製品のパッケージにRFIDタグを付けるように求めていたからだ。
パーデューのサプライチェーン・システム/RFID担当アソシエート・ディレクターのマイク・セランターノ氏によると、同氏のグループが初めてRFIDタグについて調査を始めたとき、RFID技術はまだ熟成しておらず、手本にできるような事例も少なかったという。
「ウォルマートはタグの周波数とタイプを指定しただけで、ソリューションを見つけるのは我々の仕事だった」(同氏)
そんななか、パーデューは試行錯誤を重ね、Oxycontinが48本入りのケースに収まるまでの生産ラインにおいてタグを取りつけるという方法を考案した。これにより、ウォルマートの要求を守ることができるとともに、データ収集やRFIDを使った追跡・逆探知技術についてのノウハウを得ることもできたわけだ。
2006年初頭には、Oxycontinに取りつけたRFIDタグを使ってサプライチェーン内の動きを記録するとともに、Oxycontinの瓶1本1本を照合する「電子医薬品系図システム」のテストを開始した。セランターノ氏によると、このシステムは製薬メーカーから流通業者を経て、最終的に病院や薬局にデータを受け渡すというプロセスにおいてRFIDを活用するために考え出されたものだという。
同システムは、流通業者のH.D.スミスに出荷する前の段階でOxycontinのケースをスキャンし、ケースごとに異なる電子製品コード、バッチ番号、ロット番号、有効期限などのデータを記録する。H.D.スミスは、パーデューからOxycontinのケースを受け取った時点で、製品が本物かどうかを確認し、系図を認証し、シリアル番号(電子製品コード番号)がそれぞれの瓶に貼付されているRFIDタグの番号と一致していることを確認するという仕組みだ。
セランターノ氏は、このパイロット・プロジェクトを通して、RFIDを使った電子系図の作成が可能であることを確信したと力説する。
「RFIDを利用することで、かつてない精度で製品のサプライチェーンを管理することができるようになる。効率、安全性いずれの観点から見ても、RFIDの潜在能力はきわめて高い。さらに、錠剤をケース単位で追跡管理できるようになれば、サプライチェーンを流れる医薬品に付けられたデータを容易に照合できるようになり、流通業者が製品の出所を偽ることは不可能になるだろう」(同氏)
COLUMN 1 : RFIDを導入し始める医療機関
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RFIDの導入を阻む要因
ただ、セランターノ氏も、製薬業界でRFIDを導入しようとしている企業がいずれも深刻な問題を抱えていることはを認めている。
「RFIDは、サプライチェーンを引き締める手段の1つではあるが、万能薬ではない」(同氏)
RFIDの導入に伴う最も大きな問題は、RFIDをケースやパレットに付ければ十分に目的を達成できる消費者向けの加工品の場合とは異なり、医薬品の場合は薬瓶1本1本にタグを付けなければ、確実な認証システムを構築することができないという点だ。
また、無線周波数が生物製剤に与える影響を懸念する声もある。マッケソンのボーン氏によると、さまざまなテストの結果、固体の医薬品が無線電波で損傷を受けることはないという事実は確認されているものの、液状の医薬品や生物製剤がRFIDタグの影響を受けるかどうかについては、製薬業界で検証する必要があるという。
さらに、RFIDに必要なITインフラを構築するためのコストや、業界標準の欠如もRFIDの本格的な普及を妨げる原因になっている。
そうした問題はあるものの、グラハム氏やセランターノ氏は、テストの結果からRFIDの将来には楽観的だ。
グラハム氏は、パーデューが、H.D.スミス、ユニシスなどとともにテストを行っている電子系図システムを採用する製薬会社が増えれば、「グレー市場」の卸売業者はほぼ一掃され、サプライチェーンを引き締めることができると主張する。製薬メーカーが団結して、サプライチェーン全体で医薬品を追跡・管理するようになれば、中小の卸売業者が違法に入手した医薬品を販売できなくなるからだ。
パーデューのように今すぐ実験までは行わないにしても、RFIDタグの標準化が進み、実用性が高まったら同技術を導入しようと考えている企業は少なくない。そのひとつでもあるタップ製薬のサプライチェーン業務担当上級マネジャー、デニス・キム氏は、「製薬業界の大部分は、RFIDの実用性が実証されるのを待っているのだと思う。RFIDは確かに金のかかる技術だが、技術は日々進歩している。とはいえ、まだ本格的に導入できる状態にはないため、多くの企業が導入を控えているのだ」と語る。
タップでは、サプライチェーンとITの責任者たちが、RFIDの導入が必要となった時点ですぐに対応できるような体制を整えているという。
ジェンザイムのCIO、ロバート・コーウィー氏は、消費者向け製品のサプライチェーンを効率化するという点でRFIDは良いアイデアだと主張する。しかし同氏も、RFID技術が十分成熟していないため、直ちに自社で使うとは考えていない。
「タグの単価と信頼性のレベルを考えると、RFIDはまだ当社にとって実用的な技術とは言えない」(コーウィー氏)
フォレスター・リサーチの副社長ラウラ・ラモス氏も、技術の熟成が進むまで、大半の製薬会社はRFIDの導入を見合わせたほうがよいと語る。同氏によると、一般的なタグの故障率はきわめて低いものの、タグを特定の金属や液体の近くに置くと読み取り率は低下するという。
現在のところ、他社に先駆けてRFIDを導入しているのは、知名度の高い薬品やきわめて高価な薬品を販売している企業ばかりだ。価格の安い解熱鎮痛薬「Tylenol」の瓶に1個30セントのRFIDタグをつけるのは、経済性の面から言って現実的ではないが、50ドルあるいは100ドルの医薬品にタグをつけるのであれば、経済的にも十分に見合うからだ。
IBMビジネス・コンサルティング・サービスのアソシエイト・パートナー、ポール・チャン氏は、RFIDがすぐにバーコードにとって代わることはなく、2つの技術は今後数年間は共存する見ている。
COLUMN 2 : 医薬品サプライチェーンの“ほころび”はどこに!?
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ビッグブラザー問題
RFIDが引き起こすと見られているプライバシー上の問題も、この技術の普及を妨げている原因の1つだ。米国自由人権協会や、CASPIAN(Consumers Against Supermarket Privacy Invasion and Numbering:スーパーマーケットのプライバシー侵害と番号化に反対する消費者団体)などのプライバシー保護団体は、消費者が購入し、自宅に持ち帰った商品を追跡するためにこの技術が使われた場合、プライバシーが損なわれるおそれがあるとして、RFIDの使用に懸念を示している。
今のところ、製薬業界でRFIDが使われているのは薬局までであり、消費者が薬局から持ち帰る錠剤の瓶にRFIDタグはつけられていない。しかし、フォレスターのラモス氏は、「RFIDにまつわるプライバシー上の懸念は、製品を追跡するというRFIDの潜在的な価値を大幅に制約しかねないきわめて深刻な問題になる可能性を秘めている」と指摘する。
米国以外の地域でも、消費者が購入する薬瓶のレベルでデータを収集する行為に対して、プライバシー侵害を懸念する声が高まっている。例えば、イタリアでは、医薬品の瓶にIDを一意的に割り当てることが法律で義務づけられている。薬瓶には、バーコードがついており、薬局や病院に至るまでのサプライチェーンの各段階で読み取るようになっている。イタリアの法律では、こうして収集されたデータを直接中央政府のデータベースに送ることが義務づけられている。
一方、米国では、政府がこのようなかたちでプライバシーに介入する行為はおそらく認められないだろう。しかし、米国の製薬会社も、一部の薬局チェーンから集められた処方箋情報にはアクセスしており、個々の医薬品につけられたRFIDタグがこうした動きを助長することになる可能性もある。
MITのエンゲルス氏は、「セキュリティとプライバシーの問題に関しては、これまでよりも包括的な視点で対応することが必要だろう」と説く。
このように、RFIDの導入に関しては、さまざまな問題が残されている。だが、パーデューのグラハム氏は、追跡・逆探知技術を導入することで、1995年に自分が摘発にかかわったような犯罪行為を食い止めることができると強く信じている。
同氏によると、「グレーピル作戦」の結果、100件を超える有罪判決が出され、事件にかかわった医薬品卸売業者には、2,500万ドルを超える罰金が科されたという。この事件から10年がたったが、似たような犯罪は一向に跡を絶たない。
「現在も状況はさほど変わっておらず、抜け道が至るところに残っている。だからこそ、RFID技術を使って追跡・逆探知をすることで、製薬会社が説明責任を果たすことがきわめて重要なのだ」(グラハム氏)
不正医薬品の撲滅に取り組み始めた米国製薬業界
関連トップページ:SCM/設計製造 | セキュリティ管理(CSO Online) | 【特別企画】RFIDレビュー
不正医薬品や不正価格医薬品の流通によって、全世界で毎年460億ドルもの損害を被っているとされる製薬業界。また、不正医薬品の使用によって身体にダメージを受けたり死亡したりする人が絶えないことも深刻な問題となっている。そうしたなか、いくつかの製薬会社は、複雑な医薬品サプライチェーンにおいて医薬品を追跡・管理できるようにするため、RFID技術に目を向けている。本稿では、医薬品のサプライチェーンでRFIDがどう活用されているか、それを導入するうえではどんな注意が必要かといったことを探りたい。
スザンナ・パットン ● text by Susannah Patton
氾濫する不正医薬品
パーデュー・ファーマのサプライチェーン担当アソシエート・ディレクター、マイク・セランターノ氏(左)とCSO(最高セキュリティ責任者)のアーロン・グラハム氏は、パイロット・プロジェクトの一環として特定の医薬品が入ったケースにRFIDチップを取り付けることにした。 photo by Derek Dudek
米国麻薬取締局(DEA)と食品医薬品局(FDA)のおとり捜査官だったアーロン・グラハム氏は、不正医薬品(有害あるいは効力のない成分によって製造された製品や偽のパッケージに入った薬など)が製薬業界のサプライチェーンにいとも“巧みに”潜り込む様子をじかに見てきたという、特異な経験を持つ。現在、パーデュー・ファーマの副社長兼CSO(最高セキュリティ責任者)を務める同氏は、FDAに在籍していた折に実施したおとり捜査の様子を次のように生々しく証言する。
「2年にわたって展開された『グレーピル作戦』と呼ばれるおとり捜査で、私はある製薬企業のマネジャーをかたり、療養施設に医薬品を販売していた2次卸売業者に格安価格で医薬品を販売すると持ちかけた。作戦が始まると、すぐに電話が鳴り始めた。数十社の小規模な医薬品卸売会社が、自分たちにも薬を売ってほしいと熱心に働きかけてきたのだ」
現在、医薬品の2次卸売業者や「グレー市場(半合法市場)」の卸売業者は米国だけでなく、世界各地で低価格の医薬品を買い漁り、それを大手の卸売会社に売ることで利鞘を稼いでいる。グラハム氏によると、なかには、製薬会社ではなく、中国やタイ、コロンビアといった国にある犯罪組織から不正医薬品を買っているような2次卸売業者も存在するという。
「グレーピル作戦」では、大手や中小の医薬品卸売会社が多層化した医薬品のサプライチェーンに乗じて、不当な値段で医薬品を売買している“からくり”を暴くことができたという。医薬品が療養施設など国から補助金を受け取っている医療機関に値引き価格で販売されていたことや、低価格で海外に輸出されていたことなどが、おとり捜査によって明らかになったのだ。
また、グラハム氏らは最終的に、中小の医薬品卸売会社が低価格の医薬品を大量に米国に密輸し、大手の卸売会社に転売することで、巨額の利益を得ているという事実も突きとめた。
一般的に、医薬品はさまざまな段階を経て、流通業者の間を何度も行き来する。そのため、医薬品を巡ってはきわめて複雑かつ脆弱なサプライチェーンが形成されることになる。そして、医薬品が流通する過程で、間に入る業者の数が増えれば増えるほど、不正医薬品が正規のサプライチェーンに入り込みやすくなってしまうのだ。
当然ながら、このような“穴だらけ”のサプライチェーンは、医薬品を服用する患者に大きなリスクをもたらすとともに(毎年、全世界で数千人もの患者が偽薬を摂取したことによって死亡している)、製薬業界に対しても大きな損害をもたらすことになる。WHO(世界保健機構)が行った最近の研究によると、全世界で販売されている医薬品の10%以上が不正医薬品であり、製薬業界は毎年460億ドルに上る損失を被っているという。また、FDAも2004年、不正医薬品の捜査件数が前年に比べて150%増加したことを明らかにしている。
そもそも、不正医薬品の流通が増加している背景には、これらの販売が、ヘロインやコカインといった違法な麻薬を販売するよりも利益率が高く、刑罰が軽いということがある。そのため、犯罪組織などがかかわっているケースも多く見られるのだ。
「医薬品は、薬局に着くまでの過程で非常に多くの業者を経ているため、その薬がどのようなルートを通ってきたのかを完璧に把握するのは至難の業だ。さらに、現在の法律では、不正医薬品が正規医薬品のサプライチェーンに入り込むのを完全に防ぐことはできない」(グラハム氏)
製薬会社は断固として戦う姿勢を示せ
しかし、こうした問題を解決するため、近年では多くの政府機関や製薬会社が“サプライチェーンの穴”、とりわけ製薬メーカーから消費者に至るまでの流通ネットワークに開いた“穴”をふさぐための取り組みを始めている。
例えば、米国の複数の州は、薬剤の製造元や取扱業者を保証する「系図」を作成し、医薬品の信頼性を確保することを製薬会社に義務づけている。
また、FDAは、医薬品の追跡能力を強化するためにRFIDを導入するよう製薬会社に勧告している。
そうしたことから、現在ではいくつかの製薬会社がRFIDを試験的に導入し、医薬品の追跡や認証に取り組み始めた。
パーデューも、ファイザーやグラクソスミスクラインといった他の大手製薬会社と同様、製造元から消費者に至る医薬品の流れを追跡するためのパイロット・プロジェクトを実施する中で、人気の高い医薬品にRFIDタグを取りつけている。
だが、グラハム氏によると、パイロット・プロジェクトの多くは、ITインフラに対する巨額の投資が原因で継続が難しくなっているという。
また、薬の瓶にRFIDタグを取りつけ、薬の販売に関するデータを収集するようになると、プライバシーやセキュリティの問題が生じるが、これに対する対策もまだ完璧とはいかない。
とはいえ、RFIDタグを本格的に導入していない製薬会社も、RFIDに関する標準やプライバシーにかかわる法規制がまだ固まっていないからといって、無策のままでいるべきではない。製薬会社は、新しい流通プロセスをサポートするためのITインフラの設計に着手し、できるだけ早い時期にパイロット・プロジェクトをスタートさせる必要がある。というのも、国際的な広がりを見せる不正行為に対して製薬業界が一丸となって断固反対の立場を取らなければ、医薬品や患者にまつわるリスクは、減らないどころか増えてしまうからである。
MIT(マサチューセッツ工科大学)で医療研究計画担当ディレクターを務めるダニエル W.エンゲルス氏は、「製薬会社は、正規医薬品のサプライチェーンを守るために、できることは何でもやるという姿勢を示さなければならない」と厳しく指摘する。
医薬品の「系図」を証明する
残念ながら、現在の製薬業界は、世界で最も複雑かつ透明性の低いサプライチェーンを運用していると言わざるをえない。この業界には多くの規制が設けられているが、薬価を見ても分かるように、規制が国によって異なるため、「合法的な取引」、「外見上合法的な取引」、「非合法な取引」が複雑に絡み合ってしまっているのだ。
例えば、米国には、カーディナル・ヘルス、マッケソン、アメリソースバーゲンという3つの有力な医薬品卸売会社があり、この3社で米国医薬品市場の90%の流通を取り扱っているが、これらの大手卸売会社の余剰在庫の売買をしている小規模な2次卸売業者は、それこそ星の数ほど存在する。
こうした小規模な2次卸売会社の多くは、医薬品の買い取り先を効率的に見つけ出すことで、医薬品サプライチェーンの動きを円滑にしている合法的な企業だ。しかし、こうした企業が医薬品のサプライチェーンに入り込むことで、正規医薬品のサプライチェーンに流通する不正医薬品を見つけ出すのが難しくなっているのも事実だ。
不正医薬品の大半は、きわめて劣悪な条件下で製造されており、それを摂取したことで、毎年数千人が(先進国も含め)世界中で死亡している。
例えば、2003年、ファイザーは、薬局で販売されていた高脂血症治療薬「Lipitor(2004年に世界で最も多く販売された医薬品)」の中から偽薬が見つかったために、1,800万錠を回収した。
さらに英国では、2004年に勃起不全症治療薬「Cialis」の偽薬が発見されたうえ、2006年にも、「Lipitor」の偽薬が73ケース発見され、12万ケースが回収された。
このような問題の発生を防ぐため、連邦と州政府は、犯罪ネットワークの捜査と不正医薬品の取り締まりのために、多くのリソースを投入し始めている。
フロリダ州とカリフォルニア州は他州に先駆けて、医薬品の製品認証を行う仕組みを整備することを製薬業界に義務づける法律を制定した。2006年7月に施行されたフロリダ州の法律は、医薬品卸売業者に対し、紙の「系図」または、薬の製造元を示す記録の提出を義務づけている。
一方、2007年1月から施行されるカリフォルニア州の法律は、薬局で販売されるすべての医薬品に、「電子系図」または、シリアル番号を付けるよう義務づけている。
両州の法律とも、当面は医薬品卸売業者が系図(紙もしくは電子データのいずれか)の作成責任を負うが、将来的には製薬メーカーにもこの法律の順守が徹底されることになるかもしれない。
薬を認証することで不正医薬品の流通を防ぐ
ジェンザイムの資材管理担当副社長ジム・シューマン氏は、英国とアイルランドにある自社の施設から出荷される製品を追跡するため、Webベースのシステムをテストしている。 photo by John Soares
もっとも、製薬会社側も、法律で縛られるまでもなく、不正医薬品や不正価格医薬品が正規医薬品のサプライチェーンに潜り込むのを、すでにさまざまな手法を駆使して阻止しようとしている。現在、多くの製薬会社が試しているのは、ホログラムや特殊インク、透かしを使ってパッケージや錠剤を認証するという方法だ。
一般的な病気の治療に使われる薬を製造しているジェンザイムでは、インクと染料を使った認証方法を検討しており、すでに一部の医薬品では、不正開封を防ぐためのパッケージ・テープを導入している。同社の資材管理担当副社長、ジム・シューマン氏によると、これらの対策を講じたことで、腎臓病や関節炎の治療薬の偽造や価格操作を見つけ出すことができたという。
また、ジェンザイムでは、自社の医薬品の追跡体制を世界規模で強化するため、UPSと共同で、英国とアイルランドの自社施設から出荷された製品をWebベースのシステムで追跡しているという。これにより、英国とアイルランドに医薬品を発注したジェンザイムのスタッフは、自社のWebサイトにアクセスし、製品の配達状況を追跡したり、流通プロセスをたどったりすることができる。シューマン氏は、「今後もUPSと共同でこのWebベース・システムを拡張し、カバーできる地域を増やしていく」と意気込む。
医薬品の「電子系図」を作成するには、バーコードやRFIDなどの追跡・逆探知技術が有効だ。過去20年間にわたって使いこなされてきたバーコードはRFIDよりも低いコストで導入できるが、サプライチェーンの各段階によって手作業でパッケージを読み取らなければならないため、結局のところ、運用費が高くついてしまう。一方、パッシブRFIDタグは、倉庫に設置された電子読み取り機に通すだけで自動的にデータを読み取ることができるため、パッケージをわざわざ開封しなくても済む。
そうしたなか、ファイザーとパーデューは、他社に先駆けてRFIDタグのパイロット・プロジェクトを開始した。両社は人気が高いために盗難や偽薬といった被害に遭いやすい勃起不全症治療薬の「Viagra」と癌の痛みを和らげる鎮痛剤の「Oxycontin」という薬を製造しており、これらの薬にRFIDタグを付加して実験を行っているのだ。
MITのエンゲルス氏は、「RFIDは、単にバーコードに取って代わるだけの技術ではない。タグにセンサを取りつければ、製品の温度履歴を記録したり、製品についてのデータベースを作成したりすることもできるのだ」とRFIDのメリットを強調する。
RFIDを使って電子系図を作成する
実は、パーデュー・ファーマは、FDAがRFIDの導入を勧告する前から、RFIDに対する取り組みを進めてきた。というのも、同社では常習性の強いOxycontinを含むいくつかの睡眠薬をウォルマートに出荷しており、ウォルマートは2004年に、同社に搬入するすべての製品のパッケージにRFIDタグを付けるように求めていたからだ。
パーデューのサプライチェーン・システム/RFID担当アソシエート・ディレクターのマイク・セランターノ氏によると、同氏のグループが初めてRFIDタグについて調査を始めたとき、RFID技術はまだ熟成しておらず、手本にできるような事例も少なかったという。
「ウォルマートはタグの周波数とタイプを指定しただけで、ソリューションを見つけるのは我々の仕事だった」(同氏)
そんななか、パーデューは試行錯誤を重ね、Oxycontinが48本入りのケースに収まるまでの生産ラインにおいてタグを取りつけるという方法を考案した。これにより、ウォルマートの要求を守ることができるとともに、データ収集やRFIDを使った追跡・逆探知技術についてのノウハウを得ることもできたわけだ。
2006年初頭には、Oxycontinに取りつけたRFIDタグを使ってサプライチェーン内の動きを記録するとともに、Oxycontinの瓶1本1本を照合する「電子医薬品系図システム」のテストを開始した。セランターノ氏によると、このシステムは製薬メーカーから流通業者を経て、最終的に病院や薬局にデータを受け渡すというプロセスにおいてRFIDを活用するために考え出されたものだという。
同システムは、流通業者のH.D.スミスに出荷する前の段階でOxycontinのケースをスキャンし、ケースごとに異なる電子製品コード、バッチ番号、ロット番号、有効期限などのデータを記録する。H.D.スミスは、パーデューからOxycontinのケースを受け取った時点で、製品が本物かどうかを確認し、系図を認証し、シリアル番号(電子製品コード番号)がそれぞれの瓶に貼付されているRFIDタグの番号と一致していることを確認するという仕組みだ。
セランターノ氏は、このパイロット・プロジェクトを通して、RFIDを使った電子系図の作成が可能であることを確信したと力説する。
「RFIDを利用することで、かつてない精度で製品のサプライチェーンを管理することができるようになる。効率、安全性いずれの観点から見ても、RFIDの潜在能力はきわめて高い。さらに、錠剤をケース単位で追跡管理できるようになれば、サプライチェーンを流れる医薬品に付けられたデータを容易に照合できるようになり、流通業者が製品の出所を偽ることは不可能になるだろう」(同氏)
COLUMN 1 : RFIDを導入し始める医療機関
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RFIDの導入を阻む要因
ただ、セランターノ氏も、製薬業界でRFIDを導入しようとしている企業がいずれも深刻な問題を抱えていることはを認めている。
「RFIDは、サプライチェーンを引き締める手段の1つではあるが、万能薬ではない」(同氏)
RFIDの導入に伴う最も大きな問題は、RFIDをケースやパレットに付ければ十分に目的を達成できる消費者向けの加工品の場合とは異なり、医薬品の場合は薬瓶1本1本にタグを付けなければ、確実な認証システムを構築することができないという点だ。
また、無線周波数が生物製剤に与える影響を懸念する声もある。マッケソンのボーン氏によると、さまざまなテストの結果、固体の医薬品が無線電波で損傷を受けることはないという事実は確認されているものの、液状の医薬品や生物製剤がRFIDタグの影響を受けるかどうかについては、製薬業界で検証する必要があるという。
さらに、RFIDに必要なITインフラを構築するためのコストや、業界標準の欠如もRFIDの本格的な普及を妨げる原因になっている。
そうした問題はあるものの、グラハム氏やセランターノ氏は、テストの結果からRFIDの将来には楽観的だ。
グラハム氏は、パーデューが、H.D.スミス、ユニシスなどとともにテストを行っている電子系図システムを採用する製薬会社が増えれば、「グレー市場」の卸売業者はほぼ一掃され、サプライチェーンを引き締めることができると主張する。製薬メーカーが団結して、サプライチェーン全体で医薬品を追跡・管理するようになれば、中小の卸売業者が違法に入手した医薬品を販売できなくなるからだ。
パーデューのように今すぐ実験までは行わないにしても、RFIDタグの標準化が進み、実用性が高まったら同技術を導入しようと考えている企業は少なくない。そのひとつでもあるタップ製薬のサプライチェーン業務担当上級マネジャー、デニス・キム氏は、「製薬業界の大部分は、RFIDの実用性が実証されるのを待っているのだと思う。RFIDは確かに金のかかる技術だが、技術は日々進歩している。とはいえ、まだ本格的に導入できる状態にはないため、多くの企業が導入を控えているのだ」と語る。
タップでは、サプライチェーンとITの責任者たちが、RFIDの導入が必要となった時点ですぐに対応できるような体制を整えているという。
ジェンザイムのCIO、ロバート・コーウィー氏は、消費者向け製品のサプライチェーンを効率化するという点でRFIDは良いアイデアだと主張する。しかし同氏も、RFID技術が十分成熟していないため、直ちに自社で使うとは考えていない。
「タグの単価と信頼性のレベルを考えると、RFIDはまだ当社にとって実用的な技術とは言えない」(コーウィー氏)
フォレスター・リサーチの副社長ラウラ・ラモス氏も、技術の熟成が進むまで、大半の製薬会社はRFIDの導入を見合わせたほうがよいと語る。同氏によると、一般的なタグの故障率はきわめて低いものの、タグを特定の金属や液体の近くに置くと読み取り率は低下するという。
現在のところ、他社に先駆けてRFIDを導入しているのは、知名度の高い薬品やきわめて高価な薬品を販売している企業ばかりだ。価格の安い解熱鎮痛薬「Tylenol」の瓶に1個30セントのRFIDタグをつけるのは、経済性の面から言って現実的ではないが、50ドルあるいは100ドルの医薬品にタグをつけるのであれば、経済的にも十分に見合うからだ。
IBMビジネス・コンサルティング・サービスのアソシエイト・パートナー、ポール・チャン氏は、RFIDがすぐにバーコードにとって代わることはなく、2つの技術は今後数年間は共存する見ている。
COLUMN 2 : 医薬品サプライチェーンの“ほころび”はどこに!?
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ビッグブラザー問題
RFIDが引き起こすと見られているプライバシー上の問題も、この技術の普及を妨げている原因の1つだ。米国自由人権協会や、CASPIAN(Consumers Against Supermarket Privacy Invasion and Numbering:スーパーマーケットのプライバシー侵害と番号化に反対する消費者団体)などのプライバシー保護団体は、消費者が購入し、自宅に持ち帰った商品を追跡するためにこの技術が使われた場合、プライバシーが損なわれるおそれがあるとして、RFIDの使用に懸念を示している。
今のところ、製薬業界でRFIDが使われているのは薬局までであり、消費者が薬局から持ち帰る錠剤の瓶にRFIDタグはつけられていない。しかし、フォレスターのラモス氏は、「RFIDにまつわるプライバシー上の懸念は、製品を追跡するというRFIDの潜在的な価値を大幅に制約しかねないきわめて深刻な問題になる可能性を秘めている」と指摘する。
米国以外の地域でも、消費者が購入する薬瓶のレベルでデータを収集する行為に対して、プライバシー侵害を懸念する声が高まっている。例えば、イタリアでは、医薬品の瓶にIDを一意的に割り当てることが法律で義務づけられている。薬瓶には、バーコードがついており、薬局や病院に至るまでのサプライチェーンの各段階で読み取るようになっている。イタリアの法律では、こうして収集されたデータを直接中央政府のデータベースに送ることが義務づけられている。
一方、米国では、政府がこのようなかたちでプライバシーに介入する行為はおそらく認められないだろう。しかし、米国の製薬会社も、一部の薬局チェーンから集められた処方箋情報にはアクセスしており、個々の医薬品につけられたRFIDタグがこうした動きを助長することになる可能性もある。
MITのエンゲルス氏は、「セキュリティとプライバシーの問題に関しては、これまでよりも包括的な視点で対応することが必要だろう」と説く。
このように、RFIDの導入に関しては、さまざまな問題が残されている。だが、パーデューのグラハム氏は、追跡・逆探知技術を導入することで、1995年に自分が摘発にかかわったような犯罪行為を食い止めることができると強く信じている。
同氏によると、「グレーピル作戦」の結果、100件を超える有罪判決が出され、事件にかかわった医薬品卸売業者には、2,500万ドルを超える罰金が科されたという。この事件から10年がたったが、似たような犯罪は一向に跡を絶たない。
「現在も状況はさほど変わっておらず、抜け道が至るところに残っている。だからこそ、RFID技術を使って追跡・逆探知をすることで、製薬会社が説明責任を果たすことがきわめて重要なのだ」(グラハム氏)