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SCMパッケージソフト 開発勉強日記です。 SCM / MRP / 物流等々情報を集めていきます。
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パンドラの箱

 協力会社の役員の話は、悲鳴に近かった。「『プロジェクトの内部は大混乱。これではITのプロとしての仕事を果たせない』とリーダーが泣きついてきた」と言う。

 社長室との確執以来、意識的にプロジェクトから距離を置いていた金山だったが、旧知の役員からの訴えとあっては無視できない。早速、プロジェクト・メンバーを水面下で呼び出して、事情聴取を始めた。

 事態は、金山が想像した以上にひどかった。ビジネス・ロジックが比較的簡単なサブシステムは、実際のコーディング作業が始まっている。だが、独自開発する最難関の生産管理システムは、まだ内部設計が終わっていない。角川が協力会社のエンジニアのマネジメントに忙殺されているのが、影響している。

 残る中核システムである会計システムと販売管理システムはパッケージを使うのだが、実業務とのフィット・アンド・ギャップ分析に手間取っていた。現行の会計システムや販売管理システムは、創業当時から使い続け、拡張に拡張を続けてきただけに、全体像を理解している者がいない。それだけに作業は手間取った。

 木下ら社長室が最初に提出したプランでは、現行システムの機能の整理をしたあと、汎用性のある業務パッケージに置き換えることになっていた。「世界を相手にしたグローバル経営の時代には、同じ道具を使い、同じ方法で“違う”戦い方をしなければならない。情報システムも経営を支える道具として、間接コストを切り詰めるため、他社と同じ道具と方法で戦うべきだ」と木下は、盛んに主張していた。

 だが、現実は違った。戦い方以前の問題として、道具によって業務が縛られそうになっていた。例えば、会計システムへの採用が決まった「リアルタイム会計 PLUS」で経理部門が期待していた機能を実現しようとすると、昨年出荷が始まった「Ver.5」を使う必要がある。だが、「Ver.5」は最新版のOS でしか動かない。一方、販売管理システムに使う「CSS販売システム」は、一つ前のバージョンのOSしかサポートしていない。異なるバージョンのOSを入れることは、運用面からもあり得ない。「業務システムは企業の戦略そのもの。安易にパッケージに頼っては、競争優位は実現できない」と日ごろから考えていた金山は頭を抱えた。

 金山の調査で、もう一つ難問が発覚した。購買システムと他システムの連携である。「なに、システムがつながらないとは、どういうことだ」。担当のメンバーからのヒアリングの最中、金山は思わず叫んだ。「購買システムはほとんど変更しないんだろう。新システムにリアルタイムでデータを渡すだけじゃないか。いったい何が問題なんだ」。担当メンバーへの質問もつい語気が荒くなる。

 「いや、私も最初はそう思ったのですが…」。担当メンバーは焦って説明を始めた。

 説明によると、この購買システムは、もともとデータ連携をほとんど考慮しないで作られたもの。夜間のFTP(ファイル転送プログラム)から日中のリアルタイム転送に変えるとなると、システムの処理形態自体をバッチからオンラインに替える必要がある。

 「どの程度影響がでそうだ」。金山の問いに、担当メンバーは答えた。「総プログラム200本の約3割、58本です。今の見積もりでは、32人月はかかる計算です」。

 「32人月か。1人月100万円として、3200万円か。そんな追加予算は、申請されていないよな」。金山は嘆く。

 追い打ちをかけるように、担当メンバーは言った。「もちろんです。しかも、新システムが要求する形式でデータを用意するには、同じぐらいの工数が別にかかるはずです」。

 「すると合計で64人月、6400万円が別途必要というわけだな」。金山の表情がますます暗くなった。

 「社長室の木下君はこの件を認識しているのかね」。金山の問いかけに、担当メンバーは「はい、ご存知です」と即答する。

 “パンドラの箱”が徐々に開きつつあった。

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