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SCMパッケージソフト 開発勉強日記です。 SCM / MRP / 物流等々情報を集めていきます。
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ファーストリテイリング

400の店舗を支える2つのSCM ~品切れ“ゼロ”を目指すユニクロの戦略~

関連トップページ:SCM/設計製造

名 称 株式会社ファーストリテイリング
所在地 山口県山口市大字佐山717-1
設 立 1963年5月
代表者 柳井 正(代表取締役社長)
資本金 31億7,400万円
従業員数 1,265人
売上高 2,289億円(2000年8月期)
url http://www.uniqlo.co.jp/
http://www.uniqlo.com/(インターネット通信販売)

ユニクロのブランド名でカジュアルウェアを全国のショップで販売するファーストリテイリングは、販売と生産を直結するサプライチェーン・マネジメント(SCM)の構築に取り組んでいる。そのねらいは、「どの店に行っても欲しいものがある」という環境を実現することにある。衰えることをしらないユニクロ・ブームのなか、同社にとって品切れを防止することは最重要課題である。そのカギを握るのは、本部系と店舗系の2つのSCMシステムである。同社は、需要予測の精度を高めると同時に、最前線で活躍する店長の店鋪運営を支援しながら、サプライチェーンのさらなる効率化を図ろうとしている。

小林秀雄 text by Hideo Kobayashi

ユニクロ人気の秘密

ファーストリテイリングの常務取締役として同社のIT戦略全体を統括する堂前宣夫氏は、本部系と店舗系の2つのSCMの構築に取り組んでいる。 photo by Keiji Kaneda

 ユニクロの名を一躍全国区に押し上げたのはフリース製品である。1999年秋からのシーズンに800万枚を売り上げ、2000年秋からのシーズンには1,200万枚のフリース製品の売上げを目指した。その転機は、フリース・キャンペーンを本格的に展開した1998年に訪れた。郊外型を中心に店舗展開してきたファーストリテイリングが、首都圏初の都心型ショップを東京の原宿に出店したのも、その1998年のことである。原宿店には、フリース製品目当ての若者が大挙して押し寄せたものだ。1998年以降のユニクロ人気は、まさに“一大ブーム”の観を呈している。

 実際に、ファーストリテイリングの売上高の推移を見ると、1998年8月期が831億円、1999年8月期が1,110億円、2000年8月期が2,289億円と急成長を遂げている。また、2001年8月期の売上げは3,300億円と予測されており、わずか3年間で、売上高1,000億円未満の企業から3,000億円以上の企業へと駆け上ろうとしているのである。

 しかし、ファーストリテイリングには急成長を遂げているゆえの課題もある。それは、ユニクロ人気が同社の予測を上回り、顧客が求める色やサイズの製品の品切れを防ぎ切れていないことだ。これは外部から見れば、“うれしい悲鳴”ととらえることもできるが、ファーストリテイリングにとっては決してそうではない。同社が定める「ユニクロ・ビジネス原則」では、品切れは許されないのである。この原則は3カ条からなり、顧客に対して以下に示す「3つの約束」を実行すると宣言している。

(1)いつも気分良く買い物をしてもらうため、クリンリネス(清潔さ)の徹底した売場を作る。
(2)広告商品の品切れを防止する(万一品切れの場合は、すぐに取り寄せるか代替品を手配する)。
(3)理由を問わず、購入後3カ月間は、いつでも返品・交換する。

 フリース・キャンペーンで大成功を収めたファーストリテイリングだが、2000年の秋にはエアテック製品のキャンペーンを大々的に展開した。新素材を使用したこのエアテック製品も大きな評判を呼び、同社の売上げ増加に大きく貢献した。しかし、顧客が殺到したために、品不足が生じたのも事実である。これにより、販売機会をロスしたことになるが、それ以上に“顧客への約束”を果たせなかったことの意味は大きい。その約束を守るための方策、それこそがサプライチェーン・マネジメント(SCM)の実現なのである。

実現を目指す2つのSCM

 ファーストリテイリングは、商品企画から生産・販売まで一貫してコントロールするSPA(製造小売り)事業を展開し、高品質で低価格の商品の提供を目指している。実際に同社では、商品の企画・デザインを自社で行い、中国にある40の工場で生産を行って、それを国内に輸送し、全国の店舗で販売している。その業態を貫く背骨となるのがSCMシステムということになる。

 ファーストリテイリングの常務取締役で同社のIT戦略全体を統括する堂前宣夫氏は、「我々が目指すSCMの目標は1つだ。それは、どの店に行っても顧客が求める色とサイズの商品が必ずあるという状況を作り出すことだ。しかも商品の数は適切でなくてはならない」と語る。

 同社にとってSCMの意味はこのようにきわめて明快である。どの店に行っても欲しいものがある。SCMが理想的に行われている姿がそこにある。

 ファーストリテイリングのSCMに対するアプローチは2つある。1つは、販売・需要予測と生産計画を一致させることである。これは、事業全体を管理する本部に軸足を置いた仕事である。堂前氏はこれを狭義のSCMと位置づけている。2つ目は、店舗に最適な商品を置くことである。これは現場の店舗に軸足を置いたもので、広義のSCMとなる。1つ目の本部系のSCMは、コンピュータ・システムとしてすでに開発が完了しており、今年から運用が開始されることになっている。2つ目の店舗系のSCMは、現在開発が進められている段階だ。

 ファーストリテイリングには、SCMの構築が開始される以前から需要予測チームがあり、表計算ソフトのExcelを使って需要予測を行っていた。しかし、店舗数と売上高の急増に加え、商品のアイテム数や色数の増加により、対応に限界が出ていた。それを改善し、さらにきめ細かな対応を行うために、本格的なSCMシステムを構築することになったのである。

 ファーストリテイリングは、実際にどのようなSCMを実現しようとしているのだろうか。まず最初にシステムの開発が完了した本部系のSCMのイメージを見てみよう。その基本的な考え方は、店頭の在庫と店頭の販売数量をきちんと予測し、その数量に対応する生産を確実に行うことにある。

 その際に重要になるのは、1つ1つの商品について、それぞれ色やサイズの単位で需要予測を正確に行うことである。ただし、SCMシステムが行う需要予測は、あくまでも客観的なアウトプットであるため、最終的には社員の経験的な感覚を加味しながら、店舗での在庫や販売数などの販売計画が確定されることになる。なお、現在の販売計画は日本全国を対象としたものだが、将来的にはブロック単位で販売計画を立てられるようになるという。

 販売計画が確定すると、生産・物流のリードタイムを視野に入れながら生産量や材料の備蓄量に関する計画を策定し、商品ごとに製造を委託している工場で生産が行われる。生産は、販売計画の変更に伴って随時修正できるようになっている。

 ファーストリテイリングのSCMの目的は、中間在庫の削減や物流の効率化ではなく、生産計画と販売計画を直結することにある。「一般的な企業のSCMでは、販売の前に倉庫の在庫や物流、生産があって、それらを1つ1つどうしていくのかを考えることが多い。しかし、当社の場合は作ったらすべてを売らなければならないため、販売と調達・生産は直結したほうが望ましいと考えている」と堂前氏。

 すでに、狭義のSCMを実行するためのコンピュータ・システムは完成している。システムの開発は、SCMパッケージをベースにするのではなく、これまで紹介してきたファーストリテイリングのSCMモデルに合ったかたちで進められている。堂前氏は、「SCMシステムには、マニュジスティックスやオラクルのパッケージも使っているが、これらはあくまでも我々のモデルを実現するためのツールとして必要だったから採用した」と強調する。

店長の販売感覚を尊重

 以上は、堂前氏が「狭義のSCM」と位置づけている取り組みである。ファーストリテイリングでは、さらに店舗系のSCM、つまり広義のSCMにも力を注いでいる。

 「どの店に行っても欲しい商品がある」という環境は、本部が主導して機械的に商品を店舗に割り振るだけでは実現できない。自動計算でアウトプットされる本部予測と、店長1人1人の経験に基づく肌感覚による販売計画を融合することによって、初めて最適な販売計画の作成が可能になるのである。それが、広義のSCMのねらいである。

 小売業界では、これまで多くの企業が本部主導型でビジネスを展開してきた。本部が販売計画を策定して、全国一律のオペレーションを徹底し、コスト・ダウンを図り、それを競争力の基盤とするというものだ。ファーストリテイリングの場合は、本部は自動計算による計画を店舗に提供するが、店長は本部が提供した計画をそのまま活用するか、自分の予測を加味して店舗運営を行うかを自分の意思で決めることができる。

 具体的には、まず本部から店舗の売上げの状況に応じて自動的に発注を行う仕組みが提供される。その発注量は、過去の実績、店舗の面積などをベースに自動計算され、それに基づく本部標準が示される。これに従っていれば、日常的な発注作業が自動的に行われ、店長は平均的な店舗運営を行うことができる。

 店舗系SCMは、本部が提供する本部標準と店長の肌感覚を融合させることによって実現される。店長は、本部標準が自分の肌感覚合わないと判断すれば、販売計画を修正してもかまわない。店長の裁量を認めようというのが、ユニクロ特有の店舗運営手法なのである。

 しかし、店舗系のSCMをうまく動作させるためには、1人1人の店長が商品ごとに販売計画を立て、レイアウト計画を作成し、それに基づいて商品を発注して、商品を売り切るという一連のプロセスを自分自身で出来るようにならなければならない。そういう意味では、店舗系SCMを成功に導くカギは、店長の商売人としての能力を磨くことにあるのかもしれない。ファーストリテイリングでは、現在それを支援するための仕組み作りに着手している。

 同社では、2年ほど前から「スーパースター(SS)店長」制度をスタートさせているが、店舗系SCMシステムを自店運営に生かせると期待されているのは、このSS店長たちなのである。堂前氏は、「SS店長の中の一部の人は、自分で販売計画や在庫計画を立て、それに基づいて自分で発注を行うことによって、大きな成功を収めている。そういう人にとって非常に使いやすいシステムを構築していきたい」と語る。

 品切れのない店舗の実現。そのカギを握るのが店長の資質である。とはいえ、店長の育成には時間がかかる。「新前の店長でも店舗をスムーズに運営でき、ベテラン店長が、自分の能力をさらに発揮することができる仕組みを確立していく」と堂前氏。その仕組みこそが店舗系のSCMシステムなのである。

ダイレクト販売への挑戦

ファーストリテイリングの常務取締役、堂前宣夫氏は、「新前の店長でも店舗を平均的に運営でき、ベテラン店長には自分の能力をさらに発揮してもらえる仕組みを確立していく」と強調する。 photo by Keiji Kaneda

 以上、SCMに対するファーストリテイリングの取り組みを概観してきたが、同社は今、SCMシステム構築に勝るとも劣らない大きな計画を抱えている。それは、カタログ販売やインターネット通販というダイレクト販売への対応である。

 同社がカタログ販売を始めたのは1999年のこと、またインターネット通販を開始したのは2000年になってからである。そのねらいは、店舗販売とダイレクト販売を融合させることにより、顧客との新しい接点を作っていくことにある。

 つまり、顧客が「この商品が欲しい」と思ったら、いつでもどこでもすぐに買えるようにし、しかも店舗とダイレクト販売が有機的に連動するサービスを実現することを目的としているのだ。

 例えば、顧客が勤務先に近い店で注文して、商品を家に届けてもらったり、自宅に不在がちの顧客がカタログを見てインターネットで注文し、商品を店で受け取ったりすることが可能になる。

 これが、店舗とダイレクト販売が有機的に連動する例である。

 しかし、それを行おうとすると基幹系システムをすべて入れ替える必要が出てくる。なぜなら、これまでファーストリテイリングでは、店舗販売がすべてであったため、在庫は店舗だけにあればよく、在庫引き当ては不要だった。しかし、ダイレクト販売を推進しようとすると、商品を製造して国内に運んできたあと、それを店舗用とダイレクト販売用に分けて管理する仕組みを構築する必要が生じる。

 また、ダイレクト販売を行う場合には、顧客管理の面からも、新たな情報システムの開発が必要になる。堂前氏は「店舗でも、ダイレクト販売と同じように、自分を自分として認めてほしい顧客もいるだろうし、これまでどおり無記名のままを望む顧客もいるだろう。そのような個別の対応が必要になると、かなり大きな業態の変更が生じる」と説明する。

 さらに堂前氏は、商品企画などのマーケティング分野の強化も必要になると考えている。「データ・マイニングに頼ろうとする気はさらさらないが、アンケートや顧客データは否応なく蓄積されていく。より高度な商品開発戦略やマーケティング戦略を立案するためには、どのデータを使って何をすればいいのかといった仕組みを考える必要がある」というように、取り組むべき課題は山積している。

 ファーストリテイリングでは、カタログ通販もインターネット通販もすでにスタートしており、現行のシステムを運用しながら基幹システムを大幅に変更することになりそうだ。「通信販売用のソフトや、店舗向けの流通業システムのソフトはあるが、それらを有機的に連動させたソフトは恐らくないだろう。今後はそういったものを構築していきたいし、それができるパートナーを求めている」と堂前氏。

 ファーストリテイリングの場合、会社本位ではなく、人物本位でパートナーを決めている。つまり、その人物がどれだけ業務のことを理解して、一緒になって新しいことを実現していけるのかが焦点になるのだ。ファーストリテイリングのSCMシステムの開発パートナーは新日本製鐵であるが、それもファーストリテイリングのSCM業務について最も深く理解したのが新日本製鐵のスタッフであったからだ。ダイレクト販売に伴う基幹システムの再構築についても、これまでにない業務システムを一緒に作り上げていける人たちとパートナーシップを組んでいきたいという。

業務システム部の使命

 このように、基幹システムの再構築というテーマを目前にしているファーストリテイリングだが、その中でシステム部門はどのような役割を果たしていくのだろうか。

 ファーストリテイリングのシステム部門の名称は「業務システム部」である。この名称が同社のシステム部門の役割を端的に表している。

 業務システム部のスタッフのミッションは業務を開発することであり、その業務をITを使って実現していくことである。もちろん、業務量に見合ったシステムのサイジングや、店舗をカバーするネットワーク基盤の整備といったIT周りの仕事も担当するが、業務開発の比重がかなり高い。SCMにおける予測ロジックの策定などは、その好例だ。

 前述したように、ファーストリテイリングには需要予測チームが以前から存在し、2年ほど前からExcelべースで需要予測の精度向上に取り組んできた。そのチームの中で需要予測のロジックの作成に取り組んできた社員が、現在はSCMでの需要予測システムの開発を担当しているのである。また、同様に店頭向けの本部標準の作成を進めてきた社員が現在はシステム開発を行っている。つまり、業務の開発に参画してきた社員
がシステム開発も担うという構図である。

 通常、企業のシステム部門は、社内のユーザー部門から要件をヒヤリングし、それに基づいてシステム化を行うという手法を採用している。いわば、システム部門はユーザー部門とシステム会社との“つなぎ役”の役割を果たしているのだ。それに対して、ファーストリテイリングの業務システム部の社員は、つなぎ役ではなく、自ら問題意識をもって集めた要件を基に自分で業務を立案し、そのシステム化を手がけていく。そのような社員を、堂前氏は「SIのできる人」と呼ぶ。SIのできる社員と、事業の分かるパートナーがチームを組み、新たな業務を創造しながらシステムを構築していくわけである。

 ファーストリテイリングの会社案内には、縦軸に2兆円までの売上高が、横軸に2010年までの期間が表示されたページがある。だが、棒グラフで実績と予定が描かれているのは、1998~2000年の3年間のみだ。そして、広大な空白の中央に一言、「まだまだです」とある。これは、ファーストリテイリングの意気込みを静かにかつ雄弁に物語っている。その意気込みを現実のものとするのは、変革を続ける業態を支える新たな業務と情報システムの開発である。その意味で、2つのSCMはファーストリテイリングのさらなる飛躍のカギを握っていると言えるだろう。


TITLE:Case File : ファーストリテイリング | 400の店舗を支える2つのSCM ~品切れ“ゼロ”を目指すユニクロの戦略~ - CIO Online
DATE:2007/06/09 20:14
URL:http://www.ciojp.com/contents/?id=00001100;t=23
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