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SCMパッケージソフト 開発勉強日記です。 SCM / MRP / 物流等々情報を集めていきます。
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TOC──全体最適による
業務改革戦略ガイド

第2回   制約を解決するSCMソフトと思考プロセス

竹之内 隆

  ドラム・バッファ・ロープとSCMソフトアルゴリズム


 TOCのロジックに基づくSCPソフトはどのような作業を行っているのだろうか。

 かいつまんで説明すると、TOCの供給スケジューリングはスループット最大化に主眼を置き、制約条件の徹底活用を促進するアルゴリズムを持っている。棚卸資産(完成品在庫+部品在庫)も同時に最小化するために「同期生産」(Synchronous Manufacturing)の思想に基づいたスケジューリングが行われる。資材過不足と生産能力の双方を同時に考慮し、MRP(Material Requirement Planning=資材所要量計画)機能の一部を取り込んでいる。

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 他方で従来のMRP利用型の供給スケジュールは需要予測や販売計画から基準生産日程計画(MPS)を作成する際に無限負荷山積みを利用し、設備や倉庫の能力を超える供給計画であってもいったんは納期から逆算するバックワードスケジュールで組んでしまっていた。負荷が能力を超えていることは警告するのだが、現実解に調整するのは人手を介しているのである。負荷ならしのための計画調整は人手を拘束するだけではなくトレードオフ(あちら立てれば、こちらが立たぬ)という関係の中で調整するので非常に難しい。結局はベテランの勘と経験に依存することになりがちだった。そのうえで、MRP展開による資材調達計画と供給スケジュールの対比を行う。能力が足りても部品が足りなければあぶはち取らずになるのである。ここで当初立てた生産スケジュールを変更することもしばしばだった。

 ゴールドラット博士の発想はこうしたMRPの問題を背景に生まれていた。一般にTOCのスケジューリング手法はDBR(ドラム・バッファ・ロープ)とも呼ばれる。これはTOCスケジューリングの最も重要な3つの要素を分かりやすく表現している。

ドラム 制約工程を特定し、その工程をフル活用する生産スケジュールのこと
バッファ 制約工程が受注変動に左右されないように保護時間を設定する
ロープ 制約工程に同期した部材の配当計画のこと

 軍隊の隊列アナロジーを使ってTOCスケジューリングの原理原則を説明していこう。軍隊の隊列が行進して山道を登っているとする。これを生産と対比すれば、各兵士は生産の各工程設備で、当然工程作業の順序を守らなければならないように兵士も前の兵士を追い越すことはできない。この隊列の隊長の任務はなるべく短時間に全員を頂上に登らせることである。兵士が登山を始めると何が起こるかを考えてみよう。まず兵士の体力やその日の体調は1人ひとり違う。そこで一番遅い兵隊が先頭以外の位置にいると遅い兵士とその前の兵隊との間の距離はどんどん拡大する。この現象は生産工程におけるボトルネック設備と最新の設備の関係に相当する。

 また1人ひとりの兵士は登山途中で、道のでこぼこにつまずいたり、靴の中に入った砂利や砂を出すことがしばしば起こる。その都度その兵士と前の兵士の間に開きができる。しかし最も遅い兵士の後ろの兵士はギャップができても、最も遅い兵士より早く歩けるので、やがて追い付くことができる。従ってこのようなばらつきがあっても最も遅い兵士の後ろで、隊列はあまり広がらない。ちょうど各工程の生産活動にチョコ停(短時間の工程の停止)、不良品の発生、工程担当者の欠勤などの揺らぎがあることに相当する。そしてこの生産活動の揺らぎが仕掛け増大の原因の1つになるのである。

 軍隊の行進なら、最も遅い兵士を先頭に持ってくれば隊列の広がりを防ぐことができる。しかし生産では工程順序を変えることも、特定の工程の能力を変えることも容易にできるわけではない。

 そこで再度隊列のアナロジーで説明すると、最も遅い兵士が隊列の途中にいてその位置を変えることができないのであれば、その兵士と先頭の兵士の間をロープでつなぎ、この間が開きすぎないように固定する。その場合、このロープは兵隊の最少間隔分の距離より長くして余裕を持たせるのである。

 その理由は、仮に最も遅い兵士の直前の兵士がつまずいたときに、最も遅い兵士も立ち止まらなければならないわけだが、この最も遅い兵士が立ち止まったことにより失われた行進距離は永久に取り戻せないからだ。それ以外の兵士は何らかの理由で立ち止まっても、隊列の歩行速度は最も遅い兵士の速度なのでやがて取り戻せる。つまり、最も遅い兵士は何があっても止めてはならないので、その直前を行進する兵士の影響を受けないように、隊列は最も遅い兵士とその前の兵士の間だけは距離があるが、それ以外は詰めた隊列になるのである。これは生産ラインでは、先頭工程への資材投入をボトルネック工程の生産速度に合わせることと、制約条件の前だけには制約条件の活動を保護するバッファを設置することに相当する。


図2 最も遅い兵士にドラムを持たせ、ほかの兵士はそれに合わせて行進するのが効率的

 つまりドラム、バッファ、ロープとは、それぞれ次のことを指している。ドラムのアナロジーは、昔の行軍はドラムをたたいて歩調を合わせたことから、隊列全体の歩調を決めるもの──すなわち最も遅い兵士を意味している。ロープとは先頭兵士と最も遅い兵士の間に結んだロープのこと、バッファとは最も遅い兵士が前の兵士に阻害されないようにロープに持たせた余裕のことである。

 賢い皆さんはすでにお気付きのことと思うが、TOCドラム・バッファ・ロープは全体の中の最も弱点になる、能力上の制約工程を特定し、サプライチェーン全体の供給に悪影響を与えないようにバッファ時間を計算し、材料の投入を制御していくことで全体最適の達成を支援する考え方なのである。そしてこの考え方は前回触れたOPTというソフトで実現されていたわけだ。この制約条件を特定し、そこを中心に全体最適化計画を策定するSCMソフトは、最初はOPTのみだったが、その後の発展の中で多数のソフトが登場している。

  ソフトでは解決できない制約を改善する思考プロセス

■思考プロセスの意義

 能力制約のような物理的な問題はソフトウェアを利用することで問題の所在を特定し、解消も可能である。しかし、別の種類の問題もある。

 1つの問題はサプライチェーン改革やTOCの生産改善を推進する場合に、方針上の制約条件が大きな障害になるケースがたびたびあるということである。販売方針と生産方針が対立するなど、方針を変えることは複数の部門が複雑に絡む問題で、多くの対立が生じてなかなか議論が前に進まないことも散見される。方針の対立には人間組織が介在し、機械的な取り扱いは不可能である。ソフトウェアに自動的な処理を依頼するわけにはいかない。

 もう1つの問題はTOCの生産改善手法を適用して、一定の需要に対して生産がうまく適用できると能力に余剰が生まれてしまうケースである。販売もそれに対応して売り上げが伸びればよいのだが、うまくいかないとなると、多くの場合生産部門のレイオフにつながってしまう(米国では過去にもそうだった)。しかしいったんレイオフが行われると、これらの部門では改善活動が跡形もなく消えてしまい、改善を進めた部門が犠牲になるという最も好ましくない結果だけが残ってしまう。

 このような背景の下に生まれたのが思考プロセス(TP: Thinking Process)と呼ばれる手法である。思考プロセスは根深い対立のある複雑な問題に対して妥協案ではないブレークスルー案を考え出し、それを実施まで持っていくためのシステマチックな手法である。

 ゴールドラット博士は思考プロセスを1980年代後半から開発し始め、1994年にはそれを解説した『It's Not Luck』という小説を出版した。この結果TOCは製造業でのマーケティングや方針制約といった生産以外の問題だけでなく、サービス業や米軍といった幅広い組織での問題にも活用されるようになった。

■思考プロセスのステップ

 TOC思考プロセス(TP)では「何を変えるか」を特定するために現在問題構造ツリーを作成し、中核問題を特定・抽出することで、方針上の問題や制度が引き起こす問題を共有化することが可能になった。

 これらを「何に変えるか」という対立解消図でブレークする案を検討し、創造するのである。

 さらに未来問題構造ツリーで案の有効性を検証し、「どうやって変えるか」を前提条件ツリーで実行上の障害を抽出し、移行ツリーで方針制約解消行動の実行計画を作成するわけである。

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