忍者ブログ
SCMパッケージソフト 開発勉強日記です。 SCM / MRP / 物流等々情報を集めていきます。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 費用はざっと2000億円。成功しても2000億円をすぐには回収できない。失敗すれば経営の屋台骨が揺るぎかねない。そんな途方もないプロジェクトにトヨタ自動車が挑んでいる。日本経済新聞が6月10日付朝刊で報じた、情報システムの再構築計画である。

 トヨタのシステム再構築プロジェクトは、コンピューター業界においてかねて取りざたされていた。プロジェクトの規模と難易度がケタ外れであったからだ。システム業界の関係者が集まると、「本当にあんなことができるのか」とささやかれていた。

 筆者は日経コンピュータの副編集長をしていた時に、トヨタのこのプロジェクトを特集しようと思い立った。トヨタは、社内情報システムについて取材を一切受けない。やむを得ず、若手記者2人と業界関係者の間を駆け回って情報を集め、何とか16ページの特集を作り上げた(日経コンピュータ2001年12月17日号)。

 特集の取材を通じて痛感したのは、「トヨタは大胆不敵な企業である」ということだ。

 情報システムの取材一筋の筆者は、トヨタの経営者を取材したことはない。ただし印象として、「改善する企業」、「手堅い企業」、失礼ながら「カネに細かい企業」と思っていた。

 しかし今トヨタが取り組んでいる、システム再構築を見ると、経営陣は思いきった決断をしたとしか言いようがない。日本はもちろん、世界を見渡しても、これほど大胆なシステム再構築に挑むのはトヨタだけといって過言ではない。

失敗すると車が作れなくなる

 プロジェクトの骨子は、「グローバル統合部品表」を再構築する、というもの。部品表とは、部品に番号を振り、その部品のメーカー名、仕様、価格などを記録しておく「表」である。この表は、トヨタの心臓とも言える。試作、設計、部品調達、製造原価計算、生産指示、保守といったトヨタの全業務でこの表を使うからだ。

 トヨタの持つ巨大な情報システム群は、部品表データベースを利用しながら動いている。部品表を再構築するということは、部品表を取り巻くすべての業務システムに影響を与える。実際、トヨタは部品表の再構築と並行して、ほぼすべての業務システムも再構築する。

 部品表データベースの再構築に失敗したらどうなるか。トヨタといえども倒産しかねない。理由は簡単で、車を作れなくなるからだ。部品表を壊してしまったら、すべての業務システムが動かなくなる。つまりトヨタの業務が止まってしまう。

業務全体を変えないと効果は出ない

 では部品表を再構築した場合、どんな利点があるのか。実は、すぐに何かが劇的に良くなるわけではない。もちろん、部品の設計変更が素早くできる、標準仕様車だけでなく特別仕様車の部品も管理できる、といった効果は出る。ただし、これだけでは2000億円を回収できない。

 部品表を再構築する狙いは、グローバルな全体最適の実現である。試作、設計、生産準備といった各工程にまたがって、業務プロセスを改善できるようになる。しかもグローバルにである。実は現行のシステムでは、試作、設計、生産準備、そして海外生産といった各業務に応じて、別々の部品表データベースがあった。これでは試作の時に設計や生産に関連する情報を入力しようと思っても、うまくできなかった。

 とはいえ全体最適というのは簡単だが、実際には大ごとである。トヨタもまだ具体的な業務プロセス改革案をまとめきっていないと見られる。

西暦2007年問題への対策だった

 すぐには効果が出ないうえ、リスクだけは大きいプロジェクトをトヨタの経営陣はなぜ認めたのか。関係者の話を総合すると、情報システム部門とその担当役員が「ぜひともやりたい」と言ったからである。「そんなことがあるものか」と思われる読者は多いだろう。

 もちろん、再構築による直接的な効果や、先に述べたようなグローバルな全体最適の可能性について、経営陣は説明を受けている。だが腹の底から納得しているかというと疑問である。最終的に経営陣から承認を取りつけることができたのは、担当役員たちとシステム部門の熱意があったからであった。

 説得の決め手は、「今、再構築しないと二度とできません」という主張である。本欄で、情報システムの西暦2007年問題について書いたことがある。情報システムのベテランが引退し、大企業の基幹システムがブラックボックスになる危険がある,という問題である。

 トヨタの部品表はまさにその危機を迎えていた。一番最初に部品表データベースを作ったのはおよそ25年前。それから延々と手直しを加え、海外展開と相まって複数のデータベースが派生した。現在、複雑かつ肥大したデータベース群はかろうじて動いてはいるものの、中身を完全に把握しているベテラン社員がいなくなりつつある。トヨタのライバルである米ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターも、同じ問題を抱えているが、リスクを恐れ、部品表を再構築していない。

 トヨタがさらにグローバルに成長していくには、全体最適の業務プロセスを作り上げる必要がある。しかし部品表がばらばらのままで、しかもブラックボックスになってしまっては、将来必ず足かせになる。それを回避するために、リスクはあるものの、部品表を再構築したい。こうした主張をトヨタの経営陣は評価し,ゴーサインを出した。筆者が大胆不敵と評したのはこういう経緯を知ったからである。


PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
+カウンター

アクセスランキング
フリーエリア
アクセス解析
フィードメータ
人気ブログランキング - SCMパッケージソフト 開発勉強日記
現在の訪問者
忍者ブログ [PR]