SCMパッケージソフト 開発勉強日記です。
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コクヨ
“顧客起点”のマーケティングを流通チャネルに持ち込む
身近で、どこででも手に入るというイメージから流通の世界で先端を歩んでいると思われがちなオフィス向け消耗品だが、その実、流通面の改革では後れをとっていた。コクヨは、そんな市場にマーケティングの視点を持ち込むことで、メーカーの枠にとらわれない流通革新を引き起こすべく、その先導役を務めている。同社の意図する「マーケティング」とは、いったいどのようなものなのか。本稿では、コクヨが新たなる流通チャネルと位置づけている@office事業を取り上げながら、そこに込められた同社の「マーケティング革新」のビジョンと戦略を明らかにする。
CIO Magazine編集部 text by CIO Magazine
メーカーが流通にかかわる時代
業界最大手のコクヨにあって、オフィス向け消耗品のマーケティング革新をリードする@office部長の遠藤竹彦氏(右)と、ECグループ課長の間渕憲一氏。両氏は、マーケティングにおけるITの役割を追求しつつも、業界の流通全体の変革を目指している。 photo by Tetsuo Hoshino
オフィスでごく当たり前に使われているボールペンやクリップ、コピー用紙といった消耗文具品。その流通体系が今、変革期を迎えている。必需品でありながら、そのあまりの汎用性の高さがたたってか、流通改革が遅々として進まなかった市場に、ここ数年「調達の効率化」をキーワードとした新しいビジネス・モデルが出現しているのである。特に、企業をターゲットとした通販事業は、「手間をかけずに文具品を調達したい」という潜在ニーズをとらえるかたちで急成長を遂げている。
そんななか、業界最大手メーカーであるコクヨも、従来までの“メーカー然”としたたたずまいを捨て、“顧客起点”を合い言葉とした“マーケティング企業”への脱皮を図っている。
そうした一連の戦略を具体化したのが、大、中規模企業向けの「@office(あっとオフィス)」、SOHOを含む中小企業向けの「Kaunet(カウネット)」という2つの通販事業である。
国内消耗文具品市場において“1強時代”を築いてきたコクヨが、今、「顧客起点」、「マーケティング革新」にこだわる理由はどこにあるのか。また、同社は今後、消耗文具品の流通をどのようにリードしていこうとしているのか。
この問いに対して、@office事業を統括する流通企画カンパニー、@office部長の遠藤竹彦氏は、次のように答える。
「これまでは、メーカーはモノを作っていればそれでよかった。だが、今や、顧客満足度に大きな影響を及ぼす流通を革新しなければ、業界の未来はない、という時代に入った。そこで、我々の立場から、どうしたら流通体系、ひいては末端のお客様を支援していけるかを考え、チャレンジしていくことにした。そのチャレンジを具体化したものが、@office事業なのだ」
以下では、こうしたビジョンの下で展開されている@office事業を通して、コクヨが目指す「マーケティング革新」の全体像に迫る。
顧客との“近くて遠い”関係
そもそも、コクヨが“顧客起点”をビジネスの中心に据えるようになったのは、1990年代後半のことである。
それまでのコクヨは、「メーカー」、「卸」、「小売り」から成る3層構造の流通体系の中で、品ぞろえを充実されることで強大な勢力を築いてきた。つまり、全国津々浦々に点在する“街の文具屋さん”にいかに豊富な商品を届け、それを消費者へ浸透させるか――それこそが、コクヨにとっての最重要課題であり、競争力の源泉だったわけだ。
だが、そうした“多種多売”による成長戦略の根幹を揺さぶる事態が突然やってきた。オフィスにOA機器が急速に普及し、文具品の定義が大きく変化するとともに、外資系ディスカウント・ストアや他業種企業の参入、競合メーカーのプラスによる通販事業「アスクル」の台頭が相次いで起こったのである。そして、ビジネスのあり方を見つめ直さざるをえなくなったコクヨが導き出した答えが、「マーケティング革新」だったのである。
とはいえ、3層構造の流通体系の中で長らくビジネスを展開してきたコクヨには、マーケティング革新を実践するために欠かせない消費者についての情報が決定的に不足していた。多くの消費者に親しまれていた同社をしても、消費者の真のニーズがつかみ切れていなかったわけだ。
この“近くて遠い”消費者との距離を縮めるために、コクヨがとったのは、新しい流通チャネルの創出と、顧客情報を集約し、分析・共有するためのマーケティング情報システムの構築という方策であった。
2つの「マーケティング戦略」
「メーカーはモノを作っていればそれでいいという時代は終わった。これからは、マーケティング革新を通じて流通全体にインパクトを与えることが必要だ」と力説する@office部長の遠藤氏。 photo by Tetsuo Hoshino
コクヨが展開する@office事業では、コクヨ以外のメーカーの商品も含め、1万6,000点ものオフィス用品を取り扱っている。顧客からの発注はオンラインまたはファクスでなされ、受注の当日ないし翌日には配送される。また、決済方法も、部署単位あるいは全社単位というように、顧客の要求に応じて何とおりか用意されている。
それまで企業に大きな負荷がかかっていた文具品の調達を簡素化できるとあって、まず大企業を中心に利用され始め、現在では1日あたり1万件の部署に配送を行うまでに成長を遂げている。
ありふれたB2B(企業間)の流通チャネルと見なすこともできるが、その形態を細かく見ていくと、実は同事業がいわゆる「メーカーによる直販ビジネス」とは趣を大きく異にしていることが分かる。
まず、@officeのカタログを見ると、商品と並んで記載されている価格は“メーカー希望小売価格”のみ。これは、販売価格の決定権を各小売店が持っていることを意味している。また、消費者との直接の窓口も、あくまで小売店。これによって、各小売店は、自らの“得意先”を確保したまま、流通にかかる負荷のみを軽減することが可能なのである。
「受発注、配送といったルーチン・ワークがなくなれば、小売店はその分、セールスなどの戦略的な活動にリソースを振り向けることが可能になる。そのように、小売店を巻き込んだかたちでマーケティング革新を推進することに、@officeの目的がある」と遠藤氏は説明する。
現在、この@officeには、全国約1,000店の小売店が参加している。インターネットに接続できる環境があればサービスが利用できるという手軽さが受け、現在では、都市部で約2割、地方で約1割のコクヨ製品の流通が、このシステムを通して行われるようになっている。
さらに、この@officeには、実はもう1つの「マーケティング戦略」が隠されている。それは、コクヨ自身が顧客の動向をつぶさに把握することである。このシステムを使うことにより、それまで小売店や卸を介することでしか把握できなかった市場の実態を、直接、しかもリアルタイムに把握し、その情報を全社で共有することが可能になったのである。
コクヨは、デスク・セットや収納、間仕切りなどを主力とするファニチャー・ビジネスにおいては、以前から“顧客起点”を掲げていたが、同社のビジネスの両輪を成すもう一方の消耗品ビジネスにおいては、そうした戦略を構築できずにいた。
同社の戦略企画部でECグループ課長を務め、マーケティング戦略にも深くかかわってきた間渕憲一氏は、「顧客を知ること」の重要性をこう語る。
「比較的お客様との接点が多いファニチャー・ビジネスを進める中で、お客さまの声を聞き、それを商品開発や営業などあらゆる業務の起点とすることの重要性を痛感していた。そのため、そうした仕組みを消耗品ビジネスの分野でも何とか構築できないかと考えていた。@officeは、そんな考えを実行に移すにあたって、最適な環境だった」
日々膨大な数の商品が出荷される消耗品の販売動向を@officeを通じて正確に把握することができれば、経営情報の空白を埋められるだけでなく、自社製品の強み・弱みを的確に把握することができる。コクヨにとって@officeは、顧客との“距離”を近づけるための、きわめて貴重な流通チャネルとなっているのである。
「分析」と「共有」でデータを“知”に変える
以上のように、顧客の購買動向にまつわる情報を集約する仕組みを整えたコクヨだが、そうした情報をマーケティングに役立てるとなると、今度は、集めた情報をどう分析するかという新たな課題が生じることになる。
そこで、コクヨが活用しているのが、2種類のOLAP(Online Analytical Processing)ツール、テキスト・マイニング・ツールといったITインフラである。OLAPツールは、売上げをはじめとする定量情報を顧客属性などとひもづけて把握するために、テキスト・マイニング・ツールは、顧客の潜在的なニーズなど数値に表れない定性情報を把握するために、それぞれ用いられている。
いずれのツールも、当初は主にファニチャー・ビジネスの現状を分析するために利用されていたが、@officeから膨大なデータが上がってくるようになったことで、現在では消耗品ビジネスの動向を探るための貴重な武器としても活用されている。それぞれのツールは、現場の営業支援システムや、経営管理システムと密接に統合されており、さまざまなセクションで用途に応じて使い分けられている。
そして、@officeと分析ツールの組み合わせは、100年近くにわたってビジネスを展開してきたコクヨにとっても、初めて知るようなユニークな顧客動向を明らかにしてくれているという。
例えば、同社が長らく測量/設計士向けに製造してきたポケット手帳が、実は、一般のビジネスマンの人気を博していたということが分かったというエピソードもあった。
間渕氏は、苦笑とともにこう振り返る。
「データを見ていて、たまたま気づいたことだった。この手帳は、技術者が屋外で立ったまま簡単な図面を引いたりすることができるように設計されているが、それが、実は仕事の予定を書き込んだりするのにも使い勝手がよいと評価されていたようだ。こちらが“こう使ってくれ”などと言うまでもなく、お客様は的確に商品を見ているということだろう」
コクヨは今、こうした分析ツールにマーケティングの面からも多大な期待を寄せている。それは、端的に言えば「業務のPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを速く回す」ために、分析ツールの存在が欠かせないからだ。顧客の動向をリアルタイムで把握し、そのつどその動向に対応する手を打っていく――これが、コクヨの目指すマーケティングの根幹なのである。
「かつては、1つの商品を市場に投入したら、それがはたして“売れるモノ”なのか、“売れないモノ”なのか、それを見極めるのに数年間の歳月を要することも珍しくなかった。だが、今では、ITによって顧客情報と定量データをひもづけして見ることができるようになったため、そのスピードが格段に上がった。リピート購買が発生しているか、詰め替え用製品が売れているか、そんな情報を分析すれば、商品の人気、不人気はたちどころに分かってしまう」と遠藤氏は強調する。
こうした分析系ツール以外にも、コクヨでは、モバイル環境でも利用可能な営業支援ツール、現場スタッフの“営業日報”を共有し、効率的な営業活動を支援するマーケティング・ポータルなど、さまざまなITツールを導入し、顧客との接点拡大に努めている。
“草の根運動”でマーケティング・マインドを醸成
コクヨで、ITによるマーケティングのあり方を模索し続けてきたECグループ課長の間渕氏は、「ファニチャー・ビジネスを通じて学んだマーケティングの方法論を、今後は消耗品ビジネスでも展開していきたい」と語る。 photo by Tetsuo Hoshino
ところで、いくら高度なITツールをそろえても、現場で働くスタッフにそれを利用してもらわないことには、マーケティング革新はおぼつかない。実際、コクヨの場合も、それまでとまったく異なる手法でマーケティング活動を展開することについては、スタッフの間から不満の声も上がったという。
そうした問題を解決するために、同社が取り組んだのは、まさに“草の根運動”であった。ITを駆使したマーケティングの利点を地道にアピールし続けることで、スタッフの“マーケティング・マインド”を徐々に醸成していったのである。
その手始めとして、2001年4月には、各部署にマーケティング担当者を配置。そのうえで全社的なマーケティング革新をつかさどる組織として、マーケティング戦略室を立ち上げた。そのように、まずは組織に手を加えることで、それまでスタッフの間になじみの薄かった「マーケティング」の必要性を訴えていったのである。
ITとマーケティングの融合についても、いたずらにトップダウンで訴求するのではなく、現場レベルでの意識の高まりを待つ方針をとった。
今春に、マーケティング戦略室がその任務を終えるまで同室に所属していた間渕氏は、「単に“ITを使え”と言っても、現場は言うことを聞かない。そこで、たとえ成果は小さくとも、部署単位で成功事例を作りだし、それを全社に広めるという方針をとったのだ。地道なアプローチだが、理論だけでなく実体の伴ったPR活動を展開したことで、かえって現場への訴求力を高めることができた」と述懐する。
「クリック」を起点に「モルタル」を変える
新しい流通チャネルとITを融合させることで、「マーケティング企業」への変貌をもくろむコクヨだが、実はその真の目的は、オフィス用品の流通そのものを変革することにある。「顧客のニーズをつかむことができれば、ビジネスのあらゆる領域を効率化できる」というのが、コクヨの哲学なのである。
現に、商品の物流拠点を東京、大阪の2カ所に集約し、中間在庫を一掃するなど、マーケティングを起点とした業務プロセスの効率化も始まっている。それに伴い、3層構造の一角を占めていた卸店の役割にも大きな変化が生じ始めているという。
「これからの時代には、単に商品をそろえるだけの卸は要らない。求められるのは、市場の動向を踏まえて、メーカー、小売店の双方をサポートできるような存在だ。実際、ここにきて各卸店も、これまで文具店の弱点とされてきたOA機器の分野などで、積極的にイニシアチブを取り始めている。メーカー、卸、小売りが三位一体となってマーケティングに取り組めば、おのずと流通のあり方も変わってくるということだろう」(遠藤氏)
ITやネットワークを駆使したビジネス・モデルを採用したことで、とかく「クリック」の部分ばかりが注目されがちなコクヨの@officeだが、その基盤となっているのは、営業、配送といった「モルタル」の部分である。
「クリック」を整備することで「モルタル」を変革し、ひいては業界の流通のあり方そのものを変えていく――それが、コクヨの目指す「マーケティング革新」の姿なのである。
“顧客起点”のマーケティングを流通チャネルに持ち込む
身近で、どこででも手に入るというイメージから流通の世界で先端を歩んでいると思われがちなオフィス向け消耗品だが、その実、流通面の改革では後れをとっていた。コクヨは、そんな市場にマーケティングの視点を持ち込むことで、メーカーの枠にとらわれない流通革新を引き起こすべく、その先導役を務めている。同社の意図する「マーケティング」とは、いったいどのようなものなのか。本稿では、コクヨが新たなる流通チャネルと位置づけている@office事業を取り上げながら、そこに込められた同社の「マーケティング革新」のビジョンと戦略を明らかにする。
CIO Magazine編集部 text by CIO Magazine
メーカーが流通にかかわる時代
業界最大手のコクヨにあって、オフィス向け消耗品のマーケティング革新をリードする@office部長の遠藤竹彦氏(右)と、ECグループ課長の間渕憲一氏。両氏は、マーケティングにおけるITの役割を追求しつつも、業界の流通全体の変革を目指している。 photo by Tetsuo Hoshino
オフィスでごく当たり前に使われているボールペンやクリップ、コピー用紙といった消耗文具品。その流通体系が今、変革期を迎えている。必需品でありながら、そのあまりの汎用性の高さがたたってか、流通改革が遅々として進まなかった市場に、ここ数年「調達の効率化」をキーワードとした新しいビジネス・モデルが出現しているのである。特に、企業をターゲットとした通販事業は、「手間をかけずに文具品を調達したい」という潜在ニーズをとらえるかたちで急成長を遂げている。
そんななか、業界最大手メーカーであるコクヨも、従来までの“メーカー然”としたたたずまいを捨て、“顧客起点”を合い言葉とした“マーケティング企業”への脱皮を図っている。
そうした一連の戦略を具体化したのが、大、中規模企業向けの「@office(あっとオフィス)」、SOHOを含む中小企業向けの「Kaunet(カウネット)」という2つの通販事業である。
国内消耗文具品市場において“1強時代”を築いてきたコクヨが、今、「顧客起点」、「マーケティング革新」にこだわる理由はどこにあるのか。また、同社は今後、消耗文具品の流通をどのようにリードしていこうとしているのか。
この問いに対して、@office事業を統括する流通企画カンパニー、@office部長の遠藤竹彦氏は、次のように答える。
「これまでは、メーカーはモノを作っていればそれでよかった。だが、今や、顧客満足度に大きな影響を及ぼす流通を革新しなければ、業界の未来はない、という時代に入った。そこで、我々の立場から、どうしたら流通体系、ひいては末端のお客様を支援していけるかを考え、チャレンジしていくことにした。そのチャレンジを具体化したものが、@office事業なのだ」
以下では、こうしたビジョンの下で展開されている@office事業を通して、コクヨが目指す「マーケティング革新」の全体像に迫る。
顧客との“近くて遠い”関係
そもそも、コクヨが“顧客起点”をビジネスの中心に据えるようになったのは、1990年代後半のことである。
それまでのコクヨは、「メーカー」、「卸」、「小売り」から成る3層構造の流通体系の中で、品ぞろえを充実されることで強大な勢力を築いてきた。つまり、全国津々浦々に点在する“街の文具屋さん”にいかに豊富な商品を届け、それを消費者へ浸透させるか――それこそが、コクヨにとっての最重要課題であり、競争力の源泉だったわけだ。
だが、そうした“多種多売”による成長戦略の根幹を揺さぶる事態が突然やってきた。オフィスにOA機器が急速に普及し、文具品の定義が大きく変化するとともに、外資系ディスカウント・ストアや他業種企業の参入、競合メーカーのプラスによる通販事業「アスクル」の台頭が相次いで起こったのである。そして、ビジネスのあり方を見つめ直さざるをえなくなったコクヨが導き出した答えが、「マーケティング革新」だったのである。
とはいえ、3層構造の流通体系の中で長らくビジネスを展開してきたコクヨには、マーケティング革新を実践するために欠かせない消費者についての情報が決定的に不足していた。多くの消費者に親しまれていた同社をしても、消費者の真のニーズがつかみ切れていなかったわけだ。
この“近くて遠い”消費者との距離を縮めるために、コクヨがとったのは、新しい流通チャネルの創出と、顧客情報を集約し、分析・共有するためのマーケティング情報システムの構築という方策であった。
2つの「マーケティング戦略」
「メーカーはモノを作っていればそれでいいという時代は終わった。これからは、マーケティング革新を通じて流通全体にインパクトを与えることが必要だ」と力説する@office部長の遠藤氏。 photo by Tetsuo Hoshino
コクヨが展開する@office事業では、コクヨ以外のメーカーの商品も含め、1万6,000点ものオフィス用品を取り扱っている。顧客からの発注はオンラインまたはファクスでなされ、受注の当日ないし翌日には配送される。また、決済方法も、部署単位あるいは全社単位というように、顧客の要求に応じて何とおりか用意されている。
それまで企業に大きな負荷がかかっていた文具品の調達を簡素化できるとあって、まず大企業を中心に利用され始め、現在では1日あたり1万件の部署に配送を行うまでに成長を遂げている。
ありふれたB2B(企業間)の流通チャネルと見なすこともできるが、その形態を細かく見ていくと、実は同事業がいわゆる「メーカーによる直販ビジネス」とは趣を大きく異にしていることが分かる。
まず、@officeのカタログを見ると、商品と並んで記載されている価格は“メーカー希望小売価格”のみ。これは、販売価格の決定権を各小売店が持っていることを意味している。また、消費者との直接の窓口も、あくまで小売店。これによって、各小売店は、自らの“得意先”を確保したまま、流通にかかる負荷のみを軽減することが可能なのである。
「受発注、配送といったルーチン・ワークがなくなれば、小売店はその分、セールスなどの戦略的な活動にリソースを振り向けることが可能になる。そのように、小売店を巻き込んだかたちでマーケティング革新を推進することに、@officeの目的がある」と遠藤氏は説明する。
現在、この@officeには、全国約1,000店の小売店が参加している。インターネットに接続できる環境があればサービスが利用できるという手軽さが受け、現在では、都市部で約2割、地方で約1割のコクヨ製品の流通が、このシステムを通して行われるようになっている。
さらに、この@officeには、実はもう1つの「マーケティング戦略」が隠されている。それは、コクヨ自身が顧客の動向をつぶさに把握することである。このシステムを使うことにより、それまで小売店や卸を介することでしか把握できなかった市場の実態を、直接、しかもリアルタイムに把握し、その情報を全社で共有することが可能になったのである。
コクヨは、デスク・セットや収納、間仕切りなどを主力とするファニチャー・ビジネスにおいては、以前から“顧客起点”を掲げていたが、同社のビジネスの両輪を成すもう一方の消耗品ビジネスにおいては、そうした戦略を構築できずにいた。
同社の戦略企画部でECグループ課長を務め、マーケティング戦略にも深くかかわってきた間渕憲一氏は、「顧客を知ること」の重要性をこう語る。
「比較的お客様との接点が多いファニチャー・ビジネスを進める中で、お客さまの声を聞き、それを商品開発や営業などあらゆる業務の起点とすることの重要性を痛感していた。そのため、そうした仕組みを消耗品ビジネスの分野でも何とか構築できないかと考えていた。@officeは、そんな考えを実行に移すにあたって、最適な環境だった」
日々膨大な数の商品が出荷される消耗品の販売動向を@officeを通じて正確に把握することができれば、経営情報の空白を埋められるだけでなく、自社製品の強み・弱みを的確に把握することができる。コクヨにとって@officeは、顧客との“距離”を近づけるための、きわめて貴重な流通チャネルとなっているのである。
「分析」と「共有」でデータを“知”に変える
以上のように、顧客の購買動向にまつわる情報を集約する仕組みを整えたコクヨだが、そうした情報をマーケティングに役立てるとなると、今度は、集めた情報をどう分析するかという新たな課題が生じることになる。
そこで、コクヨが活用しているのが、2種類のOLAP(Online Analytical Processing)ツール、テキスト・マイニング・ツールといったITインフラである。OLAPツールは、売上げをはじめとする定量情報を顧客属性などとひもづけて把握するために、テキスト・マイニング・ツールは、顧客の潜在的なニーズなど数値に表れない定性情報を把握するために、それぞれ用いられている。
いずれのツールも、当初は主にファニチャー・ビジネスの現状を分析するために利用されていたが、@officeから膨大なデータが上がってくるようになったことで、現在では消耗品ビジネスの動向を探るための貴重な武器としても活用されている。それぞれのツールは、現場の営業支援システムや、経営管理システムと密接に統合されており、さまざまなセクションで用途に応じて使い分けられている。
そして、@officeと分析ツールの組み合わせは、100年近くにわたってビジネスを展開してきたコクヨにとっても、初めて知るようなユニークな顧客動向を明らかにしてくれているという。
例えば、同社が長らく測量/設計士向けに製造してきたポケット手帳が、実は、一般のビジネスマンの人気を博していたということが分かったというエピソードもあった。
間渕氏は、苦笑とともにこう振り返る。
「データを見ていて、たまたま気づいたことだった。この手帳は、技術者が屋外で立ったまま簡単な図面を引いたりすることができるように設計されているが、それが、実は仕事の予定を書き込んだりするのにも使い勝手がよいと評価されていたようだ。こちらが“こう使ってくれ”などと言うまでもなく、お客様は的確に商品を見ているということだろう」
コクヨは今、こうした分析ツールにマーケティングの面からも多大な期待を寄せている。それは、端的に言えば「業務のPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを速く回す」ために、分析ツールの存在が欠かせないからだ。顧客の動向をリアルタイムで把握し、そのつどその動向に対応する手を打っていく――これが、コクヨの目指すマーケティングの根幹なのである。
「かつては、1つの商品を市場に投入したら、それがはたして“売れるモノ”なのか、“売れないモノ”なのか、それを見極めるのに数年間の歳月を要することも珍しくなかった。だが、今では、ITによって顧客情報と定量データをひもづけして見ることができるようになったため、そのスピードが格段に上がった。リピート購買が発生しているか、詰め替え用製品が売れているか、そんな情報を分析すれば、商品の人気、不人気はたちどころに分かってしまう」と遠藤氏は強調する。
こうした分析系ツール以外にも、コクヨでは、モバイル環境でも利用可能な営業支援ツール、現場スタッフの“営業日報”を共有し、効率的な営業活動を支援するマーケティング・ポータルなど、さまざまなITツールを導入し、顧客との接点拡大に努めている。
“草の根運動”でマーケティング・マインドを醸成
コクヨで、ITによるマーケティングのあり方を模索し続けてきたECグループ課長の間渕氏は、「ファニチャー・ビジネスを通じて学んだマーケティングの方法論を、今後は消耗品ビジネスでも展開していきたい」と語る。 photo by Tetsuo Hoshino
ところで、いくら高度なITツールをそろえても、現場で働くスタッフにそれを利用してもらわないことには、マーケティング革新はおぼつかない。実際、コクヨの場合も、それまでとまったく異なる手法でマーケティング活動を展開することについては、スタッフの間から不満の声も上がったという。
そうした問題を解決するために、同社が取り組んだのは、まさに“草の根運動”であった。ITを駆使したマーケティングの利点を地道にアピールし続けることで、スタッフの“マーケティング・マインド”を徐々に醸成していったのである。
その手始めとして、2001年4月には、各部署にマーケティング担当者を配置。そのうえで全社的なマーケティング革新をつかさどる組織として、マーケティング戦略室を立ち上げた。そのように、まずは組織に手を加えることで、それまでスタッフの間になじみの薄かった「マーケティング」の必要性を訴えていったのである。
ITとマーケティングの融合についても、いたずらにトップダウンで訴求するのではなく、現場レベルでの意識の高まりを待つ方針をとった。
今春に、マーケティング戦略室がその任務を終えるまで同室に所属していた間渕氏は、「単に“ITを使え”と言っても、現場は言うことを聞かない。そこで、たとえ成果は小さくとも、部署単位で成功事例を作りだし、それを全社に広めるという方針をとったのだ。地道なアプローチだが、理論だけでなく実体の伴ったPR活動を展開したことで、かえって現場への訴求力を高めることができた」と述懐する。
「クリック」を起点に「モルタル」を変える
新しい流通チャネルとITを融合させることで、「マーケティング企業」への変貌をもくろむコクヨだが、実はその真の目的は、オフィス用品の流通そのものを変革することにある。「顧客のニーズをつかむことができれば、ビジネスのあらゆる領域を効率化できる」というのが、コクヨの哲学なのである。
現に、商品の物流拠点を東京、大阪の2カ所に集約し、中間在庫を一掃するなど、マーケティングを起点とした業務プロセスの効率化も始まっている。それに伴い、3層構造の一角を占めていた卸店の役割にも大きな変化が生じ始めているという。
「これからの時代には、単に商品をそろえるだけの卸は要らない。求められるのは、市場の動向を踏まえて、メーカー、小売店の双方をサポートできるような存在だ。実際、ここにきて各卸店も、これまで文具店の弱点とされてきたOA機器の分野などで、積極的にイニシアチブを取り始めている。メーカー、卸、小売りが三位一体となってマーケティングに取り組めば、おのずと流通のあり方も変わってくるということだろう」(遠藤氏)
ITやネットワークを駆使したビジネス・モデルを採用したことで、とかく「クリック」の部分ばかりが注目されがちなコクヨの@officeだが、その基盤となっているのは、営業、配送といった「モルタル」の部分である。
「クリック」を整備することで「モルタル」を変革し、ひいては業界の流通のあり方そのものを変えていく――それが、コクヨの目指す「マーケティング革新」の姿なのである。
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